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もう一度軽減税率

2013/09/05 17:30 投稿

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もう一度軽減税率

今回は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

※この記事は2013年01月20日に書かれたものです。

■もう一度軽減税率
消費税率引き上げに絡んで、軽減税率の話が出ている。「コメ、味噌、醤油、新聞」という例までが挙げられている。

安易な軽減税率の導入には反対だ。

反対する第一の理由として、軽減税率は効果的ではないことがあげられる。

軽減税率を導入する理由として、低所得者への配慮があげられている。

しかし、食料品の税率を据え置くことにした場合、恩恵を受けるのは低所得者だけではない。

食料品にしても、高額所得者の方が金額的にたくさん買い物をしている。別に高額所得者の方が胃袋が大きいわけではない。胃袋の大きさは同じでも、高額所得者は低所得者よりもより単価の高いものを買う傾向があり、(例えば、高額所得者は南魚沼産のコシヒカリを買うが、低所得者は普通のお米を買う)その結果、金額ベースでは、高額所得者の方が軽減税率の恩恵をより多く受けることになる。

消費税引き上げによる負担増を低所得者のために軽減しようとするならば、軽減税率の導入の代わりに、戻し税、つまり給付付き税額控除のような制度を導入して、所得の低い者に対してだけ給付する、つまり税金を払い戻せばよい。

この制度ならば、低所得者だけが対象になるので、軽減税率のように高額所得者がついでに恩恵を受けるということはなくなる。

だから、その分、財政的にも影響は少ない。

理屈から言えば、こちらの方が軽減税率よりも優れていることは否定できない。

ただし、野田政権が提出したマイナンバー法案では、預金などの金融資産を対象にしていないため、金利収入を把握することができず、正確な所得がわからない。給与所得などが低くても、多額の金融資産から高額な利子所得を得ている人が、戻し税の対象になりかねない。給付付き税額控除を導入するためには、金融資産もマイナンバーの対象にしなければならない。

反対する第二の理由として、線引きの難しさがある。

例えば、高額所得者が恩恵を受けないように、食料品のなかでも贅沢品だけを選んで税率を上げたらどうかという考え方もあるが、線引きが難しい。

キャビア、フォアグラなどは高い税率でよいかもしれないが、では南魚沼産コシヒカリは贅沢品なのだろうか。

アジは誰でも食べるが、関アジは贅沢品なのか。大間のマグロは。そもそもマグロは贅沢品なのだろうか。大トロと赤身で税率を分ければよいのか。では、中トロは。

食料品は軽減税率とするならば、口に入るものは全て軽減税率というようなルールにしないと、線引きのしかたで、おかしな利権が発生する。

線引きと言えば、そもそも、なぜ、「コメ、味噌、醤油、新聞」なのか。

新聞に軽減税率を適用してくれれば消費税引き上げに賛成するが、ダメなら消費税引き上げに反対するぞ、ぐらいのことを言いそうな人もいる。政治力が軽減税率を決めるようなことがあっては不公平だ。

知識、文化には軽減税率というならば、新聞だけでなく、書籍、インターネットへの接続料金、CATVへの接続料、みな同じ軽減税率にするのか。週刊誌はどうするのか。

文化というならばクラシック音楽のCDは軽減税率なのだろうか。ジャズは、ロックンロールは、歌謡曲は。落語は。漫才は。

軽減税率イコール利権ではないのか。よっぽどはっきりした線引きができなければ、導入するべきではない。

軽減税率に反対する第三の理由は、当然のことながら軽減税率を導入すると税収が減ってしまうからだ。

消費税引き上げで確保しなければならない税収があるとすれば、食料品に軽減税率を適用すると消費税収がその分減ることになるので、その他の物品にかける消費税率を10%よりも高くしなければならなくなる。

軽減税率で税収が減っても良いというならば、むしろ軽減税率をやめて税率を一律にもっと低くすればよいのではないか。

財務省の試算では、食料品全体に5%の軽減税率を適用すると、消費税10%で入るはずの税収を確保しようとすれば、その他の物品の消費税率を12.5%にしなければ税収は確保できない。

そのため低所得者も、食料品以外のものを買おうとすると10%より高い消費税率を支払わなければならなくなる。

消費税を10%にして食料品だけに5%の軽減税率を適用し、その分は税収が落ち込んでもよいというならば、軽減税率をやめて一律8.3%の消費税にすれば同じ税収を確保することができる。

ならば軽減税率をやめて、消費税率を下げるほうがよいかもしれない。

全ての軽減税率がだめだというわけではない。非課税品目の損税の解消のためにゼロ税率という軽減税率が必要なものもある。

たとえば、病院が購入する機械や薬には消費税がかかる。しかし、保険診療は非課税なので、病院が患者から受け取る料金には消費税を上乗せすることができない。そのままだとこの差額分が病院の負担(損税)となってしまう。

それを防ぐために、厚生労働省は診療報酬にその分を上乗せしていると説明している。つまり、病院が仕入れに払った消費税に相当する金額を、診療報酬に盛り込んで病院の負担分と相殺できるようになっている、はずだ。しかし、実際に病院の負担分が診療報酬で戻ってきていることはない。

まず、診療報酬は数千項目もあるが、消費税分が上乗せされているとされる項目は、注射、検体検査、血液検査、義歯など、比較的仕入れとの対応がはっきりしている項目や疾患療養指導料、皮膚科特定疾患指導料などわずか数十項目にすぎない。これらの診療報酬に上乗せされている金額が、医療機関が負担している消費税総額と同額だとは考えにくい。

さらに、最先端のMRIやCTを導入して多額の消費税を支払った病院と、旧式の機械を長く使い続けている病院で、同じ項目の診療報酬は同じ金額だ。消費税を負担していない病院にも消費税を上乗せした診療報酬が入ってくることになる。

もし、ほんとうに診療報酬に上乗せされた総額が日本の医療機関が負担した消費税の総額と同じだとしても、個別の病院ごとに見れば損をしているところと得をしているところがあるはずだ。

また、病院の薬の価格にはすべてコストに消費税相当分が上乗せされて価格が決まっていると厚労省は説明する。もしそれが本当なら、薬にも消費税を課税すればよいだけだ。

もちろん窓口負担は最大でも三割だから、診療報酬に上乗せされた金額を全て患者が負担するわけではない。しかし、消費税分を診療報酬に上乗せしているならば、医療費を非課税にした意味が薄れている。

現在非課税の医療費にも消費税を課税して、その税率を0%にすればこうした問題も解決できる。

もし、医療費に消費税をゼロ税率課税すると、病院の売上にかかる消費税は0%だが、仕入れにかかる消費税額が仕入れ税額控除の対象になり、仕入れにかかった消費税額が税務署から還付される。現在は、非課税なので、仕入れ税額控除の対象にならないのだ。

もちろんそうなれば、患者が支払う薬代や診療報酬に消費税相当分が上乗せされることもなくなる。

非課税による損税を解消するために、現在非課税になっている品目にゼロ税率課税をすることによって、その品目が「ゼロ税率という軽減税率」になることはあっても、現在、消費税が課税されている品目のうち、特定のものを軽減税率の対象にすることには反対する。

軽減税率の問題だけでなく、価格表示をどうするのか、インボイスの導入をどうするのか等、消費税引き上げの前にもっと国民的に議論すべきものがたくさんある。与党税調が決めたから、で済ませるのではなく、もっともっと議論しよう。納得して納税していただくために。

執筆: この記事は河野太郎さんのブログ『ごまめの歯ぎしり』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年09月03日時点のものです。

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