今回は鹿野 司さんのブログ『くねくね科学探検日記』からご寄稿いただきました。
■子宮頸がんワクチンをめぐるあれこれ(その1)
風疹の流行が今年は爆発的に広がっていたり、子宮頸がんワクチンの接種が一時勧奨中止になったり、最近、ワクチンがらみのニュースが印象に残るよね。
このワクチンをめぐる状況は、科学的な考え方と、メディアのありかた、公的機関への信頼と歴史的な経緯などがややこしく絡んだ、現代日本で起きてしまいがちな困った問題の典型じゃないかと思う。
とくに、子宮頸がんワクチンをめぐる動きは、相当に入り組んでいるので、ちょっと丁寧に見ていきたい。
子宮頸がんワクチンは、今年の4月に施行された、改正予防接種法で小学6年から高校1年相当の女子を対象に、定期接種化された。
ところが、6月14日になって、厚生労働省の厚生科学審議会の専門部会が、主として複合性局所疼痛症候群(CRPS)という副反応と関連があるかもしれないな~って事で、積極的に接種を薦めることは控えると答申し、定期接種の対象からは外さないけど、勧奨は当面しないということになった。
さて、たったこれだけの文章の中に、すでにこの種の問題に詳しくないと、よくわからないというか、わかっているつもりで間違うような内容が複数出てきている。
そもそも、まず、定期接種って、多くの人がわかってないんじゃないかな。
定期というからには、定期的にするんじゃないの?とか。でも、そういう事じゃないんだよね。
予防接種というと、ある程度より上の年齢の人は、小学校で、みんないっせいに注射を受けるって印象があるんじゃないかと思う。でも、今では、そういうことは原則として行われていない。
これは1994年の予防接種法の改正で、全ての予防接種が、従わないと罰則規定がある集団接種=「義務接種」から、親の努力で、かかりつけ医で個別に接種を受ける「努力義務」へ変更されたからだ。
こういう強制的な集団接種が無くなった日本でも、基本的に受けておいて欲しい予防接種がある。それについて、国がお金を出して、是非受けてねってお奨めしているのが「定期接種」だ。
なんでそういう予防接種に「定期」という言葉がついているのかというと、ある決められた期間に打たないと、国からのお金が出ないからだ。この決められた期間内に打たなきゃいけないことを巡っては、スケジュールが超複雑で把握しにくいとか、それはそれでややこしい問題があるんだけど、とりあえずそれについては今は触れない。またいずれ。
定期接種の対語は「任意接種」で希望すれば医療機関で受けられるけど、基本的に自費負担でけっこうお金がかかったりする予防接種だ。たとえば、これほど社会問題化している風疹の予防接種も、大人が受ける場合は任意接種になる。
まあ、風疹問題は、これだけ酷くなってくると、さすがにだんだん地方自治体が補助するケースが増えてきているけど、(全額自費負担だと5000円とか1万円するから)国としては定期接種なみにお金を出すつもりは今のところないみたい。順番的に他に定期接種にしなきゃいけないものがたくさんあるからだってさ~。おこ。げきおこ。
それはさておき。
子宮頸がんてのは、ヒトパピローマウイルスってのが感染して起きるがんで、とりあえずワクチンで予防できる唯一のがんてことになっている。まあ厳密にいえば、C型肝炎もガンになりやすいから、C型肝炎ワクチンが仮にできたとすれば(かなり難しいみたいだけど)癌を防げるとはいえそうだけど、そゆこと言い始めると他にもありそうだけどね。
日本では、年間9000人の人が子宮頸がんを発症していて、20代から30代の女性に限っては乳がんの次に多いがんだ。
一昨年はこれで2700人が亡くなっている。亡くならないまでも、手術によって不妊を含めて色々とクオリティ・オブ・ライフの低下を招くことが避けられない、大変な病気の一つであることは間違いない。
それが予防接種である程度防げるなら良いんでないのということで定期接種になったわけだ。だけど、「深刻な副反応」があるらしいので、とりあえず定められた期限内なら無料で打つことはできるけど、積極的にはお奨めしないことにするという、これまた、何をどう考えて良いか多くの人にはよくわからないだろう状況になってしまった。
まあ、こんな風になったら、たいていの人は、じゃあやめたって事になるだろうし、しばらくして、やっぱり勧奨することになっても(必ずそうなる)、かなり長い期間にわたって、みんな怪しみ畏れて打とうとはしないんじゃないかなあって思うんだよね。
厚生労働省のこのよくわからない判断は、これまでも予防接種をめぐるあれこれの歴史的な経緯とか、社会的な雰囲気を完全に無視して、純粋に理性的、合理的にみると、妥当だとオレは思う。
でも、現実の日本では、その結果として、多くの人が接種忌避してしまうのも確実だと思うんだよね。
執筆: この記事は鹿野 司さんのブログ『くねくね科学探検日記』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年08月16日時点のものです。
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