今回はoribeさんのブログ『Meine Sache ~マイネ・ザッヘ~』からご寄稿いただきました。
■ブロック経済と自由貿易圏
ブロック経済というと、ある経済圏を高い関税で囲い込み、その他の国を締め出すというイメージがあります。しかしブロック経済というのは、必ずしもそういうものではありません。
ブロック経済で有名なのは、20世紀序盤の英連邦です。1929年の世界恐慌を乗り切るために構築された、世界の4分の1に及ぶこの巨大な経済ブロックは、世界的な不況を長引かせ、日本を膨張主義に走らせた理由のひとつと考えられています。
ところが英連邦のブロック経済は、なにも関税障壁により外に対して市場を閉ざしたというわけではありません。
もともと大英帝国は、カナダ、オーストラリア、南アなどの植民地に「ドミニオン」という高度な自治権を与えており、それぞれのドミニオンは独自に通貨を発行して経済運営していました。関税の設定も独自に行い、イギリス本国との貿易にも高関税をかけるほどでした。
英連邦のブロック化とは、そうした植民地間の関税障壁を撤廃するとともに、通貨を英ポンドにペッグするというものでした。外に対する関税障壁は二の次で、当初は英連邦外からの輸入に一律10%の関税をかけただけでした。アメリカが平均40%の輸入関税をかけていた当時、これはとても保護貿易とは呼べないレベルです。
このように英連邦の経済ブロック化とは、外に対して高い壁を築いたというよりも、中の風通しを良くしたというのが本質なのです。しかしながら結果としてそれが高い壁となりました。壁とは内外の相対的差により生じるものだからです。
こうして見ると、ブロック経済というのは、現代のEUやNAFTA、そして昨今議論されているTPPそのものであることがわかります。自由貿易圏の構築とは、自由貿易の精神に反する態度なのです。
TPPに批判的な人たちは、「TPPから得られる恩恵は小さい」と言います。確かに歴史的に見ても、自由貿易圏から得られる恩恵は微妙です。1932年に経済ブロックを構築した英連邦諸国は、第二次大戦により特需が生まれるまで不況を抜けだせませんでしたし、EU諸国にしても、域内自由化により目に見えて豊かさが増したかと言えば、そんなことはありません。自由貿易圏の恩恵は、誰の眼にも明らかな類のものではないのです。
しかし損をする者は明白です。それは、自由貿易圏からハブられた国です。経済ブロックからハブられた戦前の日本は、自ら大東亜共栄圏という経済ブロックの建設を意図するまでに追い詰められましたし、欧州のEU非加盟国は、かなりの痛みを伴う改革を断行してまでEUに入ろうとします。日本の貿易が中国一辺倒に傾く理由も、中国の発展だけではなく、欧州と北米からハブられたことにあります。壁の中に入れないことによる損失は、目に見えて大きいのです。
ですからTPPについての議論は、TPPから得られる恩恵ではなく、TPPからハブられたときの損失を考慮してなされなければなりません。世界のブロック化が避けられない趨勢であるなら、どこのブロックにも属さないのは衰退必至です。どこかに所属するか、自分でブロックを作るかしかないのです。
執筆: この記事はoribeさんのブログ『Meine Sache ~マイネ・ザッヘ~』からご寄稿いただきました。
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