■丸山健二氏特別寄稿(3)『気鋭の新人が生まれない世界』
日本文学の将来の在り方において最も懸念されることは、あんまりと言えばあんまりな低レベルの作品を至高のものと信じこんで発表しつづけてきた書き手たちと、それらをよしとして編みつづけて出版しつづけてきた編集者たちが携わる文学賞のたぐいの中から果たして、これは文学の再生復活に直結すると思えるような作品が拾い上げられるかどうかである。もちろん、安っぽいナルシシズムとくだらないマゾヒズムに馴らされた新人作家たちが、それを超越した、人間の存在そのものに厳しく迫るテーマを扱い、言葉の限界に迫る文章でもって描こうとする姿勢で臨むとはとても思えないが、しかし、何十年にひとり、いや、何百年にひとりの確率で突如として登場する本物の書き手が出現した場合、遊び仲間として馴れ合いの関係にある編集者と書き手が、しかもこれまで以上の、突出した作品の価値をまったく理解できないかれらが果たして凄い新人に注目できるのかという疑問が残る。新人賞の選考委員を勤める書き手が、自分たちであれほどお粗末な小説もどきの作品を自信たっぷりに発表しつづける状況にあって、これぞ文学と言える作品と出くわした際、自分たちの立つ瀬がなくなるというだけの理由でそれを激しく忌み嫌い、もしくは女々しい嫉妬心からあっさり除外してしまうのではないのか。
かつて私は、目利きの編集者の存在を信じており、今でも少数ながらその存在を信じている。だが、残念なことに、なぜかかれらは文芸に直接携わる地位を得ておらず、はみ出し者扱いされ、諦めのため息と共に定年を迎えてゆくありさまだ。従って、またとないこの好機を活かせるかどうかは甚だ疑問で、悲惨な状況を放置しつづければ、時間の問題で、日本文学は文学として一度も成立したことがないまま、青枯れ病、立ち枯れ病にやられた稲のごとく、実りなきまま、無惨についえてゆくことになる。
丸山健二氏プロフィール
1943 年 12 月 23 日生まれ。小説家。長野県飯山市出身。1966 年「夏の流れ」で第 56 回芥川賞受賞。このときの芥川賞受賞の最年少記録は2004年の綿矢りさ氏受賞まで破られなかった。受賞後長野県へ移住。以降数々の作品が賞の候補作となるが辞退。「孤高の作家」とも呼ばれる。作品執筆の傍ら、350坪の庭の作庭に一人で励む。
Twitter:@maruyamakenji
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