今回はyuhka-unoさんのブログ『yuhka-unoの日記』からご寄稿いただきました。
■「若者には金が無い」ということが、世間一般的には決して「常識」ではないという現実
NHKスペシャル「仕事と子育て 女のサバイバル 2013」という番組の中で、宇野常寛氏が「核家族でこどもを育てるなんて無理ゲー。超裏ワザとか使わないと攻略不可能。それを今まで専業主婦っていうどうみてもジェンダー的にだめでしょってものを導入してなし崩し的にやってきた」と発言していて、「そうそう!」と思った。
よく少子化の原因について、「女性の社会進出が進んで、選択肢が増えたから」という言い方がなされることが多いけど、それはちょっとどうなんだと思う。実際は、「今まで専業主婦っていうどうみてもジェンダー的にだめでしょってものを導入してなし崩し的にやってきた」からなんだよね。
例えば、今までは奴隷制によって社会システムを維持してきたのが、それがうまくいかなくなったからって、「奴隷が解放されたことによって、社会の生産性が低下したんだ」と言うのは、それはあまりにも元奴隷層に対してデリカシーがないんじゃないのかという話だ。今まで、奴隷制を前提とした社会システムになっていたのが間違いなのだから。あと、バブル崩壊は「奴隷解放」とは関係ないのだし。
そもそも、「女性の社会進出が当たり前になった」と言えるのは、女性が子供が生まれても仕事を続けていけて当たり前の世の中になってからだと思う。だって男性は、子供が生まれても仕事を続けていけて当たり前なのだから。現状、女性は「子供が生まれたら、社会進出できなくなる」のが現実だ。そんな状態なのに、「女性の社会進出が当たり前になった」とは言えないと思う。
そして、現状では、表面上「経済発展のためには、女性の力が大事」と言いつつ、女性を家庭に戻したい…つまり、昭和的奴隷制時代を維持しておきたい層と、奴隷解放を目指す層との拮抗が続いているのが、今の時代だと思う。男性社会にどっぷり浸かってしまっている人たちからは、女性は十分に社会に進出しているように見えるのだろうが、現実はそうではない。これは、黒人解放の過程での白人と黒人の感覚の剥離と同じ現象だ。つまり、女性の社会進出は、まだまだ「当たり前」ではなく、途上なのだ。日本は「女性の社会進出・発展途上国」だ。
昭和的奴隷制時代を維持しておきたい層というのは、女性を「家事育児奴隷」にしておくだけでなく、男性を「企業奴隷(社蓄)」にしておきたいとも思っている人たちだと、私は思っている。高度経済成長期というのは、男性を企業に繋ぎ止めて働かせられる状態を維持するために、女性を家に繋ぎ止めて男性と子供の世話を焼かせるというシステムで成り立っていたのだから。
『専業主婦が一般的だったのは高度経済成長期の数十年、たった1世代でしかないという事実』という有名なコピペがあったが、私は、専業主婦が一般的になる条件は、大きく分けて「家電が普及していること」と「家族のうち一人だけが働いて、それで十分家族を養っていけること」の二つだと思う。現代は後者の条件が崩れた時代というわけだ。
「女性が社会進出した」と言っても、現状は女性の半数以上が非正規雇用だし、若年層では「家族のうち一人だけが働いて、それで十分家族を養っていける」人が減っている。その状況で共働きが難しいとなれば、そりゃ少子化も進むだろう。少子化の主な理由は、若年層に経済的余裕がないからだ。
しかし、若者のほとんどが、数字で示されずとも体感的に実感している、「若者には金が無い」という現状は、日本のマジョリティ、つまり、バブル海溝の向こう側にいる「オヤジ層」にとっては、全く「常識」ではないのだと思う。彼らはたぶん、「若者には金が無い」ということを、本気でわかっていないのだ。年長者たちが現代の若者について抱いている「若者は、物が溢れた豊かな時代に生まれて、苦労も不満もなく育ってきた世代」というイメージも、「若者には金が無い」ということを、わかっていないことから来ているのだろう。
この国の「世間一般」の感覚は、マジョリティである「オヤジ層」が作っている。たぶん、「若者には金がない」という現状は、若者の間では「常識」ではあっても、この日本社会、世間一般的には、決して「常識」ではないのだと思う。そりゃそうだ。彼らにとっての主な情報源であるテレビや新聞といったメディアで、若者の貧困問題がどれだけ取り上げられているというのだろうか。「オヤジ層」にとっては、「若者には金が無い」という現状をわかっていないのがデフォルトであって、余程社会に対するアンテナ感度が高い人か、若者と同じ状況に置かれている人でないと、理解することができないことなのだろう。
たぶん、バブル海溝の向こう側の「オヤジ層」が見ている世界は、「若者には金が無い」ということがよくわからない一方で、女性が社会進出してきたのはわかる、というよりは、女性の社会進出を現状よりも過大評価しているという、そういう世界観になっているのだと思う。だから少子化の原因について、「女性の社会進出が進んだから」と考えてしまうのかもしれない。もっと言うと、「自分を高嶺の花だと勘違いした女が、えり好みしているから、婚期を逃すんだろ」と考えている「オヤジ」も、決して少なくはないと思う。「女性手帳」というのは、そういう発想なんだろうしね。
少子化が進んでいることについて「女がぼんやりしてるから」「自分を高嶺の花だと勘違いした女が、えり好みしているから」と言うのは、若者の就職難について「若者がえり好みしているから」「選ばなければ仕事はある」と言うのと同じだ。これらは、若者を取り巻く雇用や経済状況の現状を認識できていないということで、地続きの問題だ。
そもそも、第三次ベビーブームが来なかったのだって、バブルが弾けて就職氷河期の煽りを食らった団塊ジュニア世代を、全く救済せずに放置したから、こんなことになったのだ。「女性手帳」は、さも「女性が、出産リスクが高くなる年齢をきちんと意識できていないから、少子化が進むのだ」と言わんばかりだか、実際は政府こそが、団塊ジュニア世代の出産リスクが高くなる年齢をきちんと意識できておらず、ぼんやりしていたということなのではないだろうか。
NHKで、少子化と女性の働き方についての番組が、立て続けに放送されたけど、内容的には「はぁ?まだそんなこと言ってんの?」と言いたくなるようなものだった。
女性だけではなく、全ての人が、自分に合った生き方の選択ができるようになるのは、とても大切なことだけど、そのためにはまず、専業主婦が一般的だったのは、高度経済成長期以降の数十年だけだったということと、今の若者には金が無いということが、世間一般の「常識」になる必要があるのかもしれない。それによって、「今のままでは、どう考えても無理ゲーですね」という現状認識を共有し、それを前提として話ができる状態にするところからはじめたほうが良いのかもしれないと、そんな気がした。
総務省統計局「労働力調査詳細結果」によると、非正規雇用者数は年々増加しており、2006年は前年比3.6%増の1677万人となった。雇用者(役員を除く)全体に占める非正規雇用者の比率をみると、2000年には26.1%だったのが、2006年には33.0%と、6年間で約7ポイント上昇している(図1)。つまり、今や働いている人の3人に1人は非正規雇用なのだ。男女別では、女性52.9%、男性17.9%と、女性の半数以上が非正規雇用で働いていることになる。「増える非正規雇用」 『gooリサーチ』
http://research.goo.ne.jp/database/data/000586/
日本における母子家庭の母親の就業率は84.5%で、先進国の中でも高い。だが、平均年収は低い。背景にあるのが非正規雇用の拡大だ。数カ月前に、働く人の3人に1人が非正規雇用となっていることが、総務省の労働力調査で明らかになったが、男女別の比率を見ると女性の方が圧倒的に高い。
25~34歳では、男性16%に対して女性39.7%。35~44歳では、男性8.5%、女性54.9%と、この年代で働く女性の2人に1人が非正規雇用ということになる。
「あしなが育英会」の報告では、遺児家庭の63%が非正規雇用で、母子家庭の手取り収入は月平均約12万5000円。6割以上の家庭が教育費の不足を訴え、高校生がいる世帯のうち、39.7%が経済的理由から進学をあきらめていたことも、同時に報告されている。
「「えっ、3人に1人!」 無視され続けた女性の貧困問題の窮状」 2011年12月15日 『日経ビジネスオンライン』
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20111214/225187/
執筆: この記事はyuhka-unoさんのブログ『yuhka-unoの日記』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年05月24日時点のものです。
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