今回はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログGT~三十路の元官僚、独立するの巻~』からご寄稿いただきました。
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■次世代スパコン計画批判に関する論点整理
文部科学省があの有名な「京」の100倍の性能を持つ次世代スパコンプロジェクトの計画を発表した*1ということで、例によって「本当にそれ意味あるの」的な批判が始まっています。
*1:「スパコン「京」後継開発へ=性能100倍、20年完成目指す-文科省」 2013年05月08日 『時事ドットコム』
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201305/2013050800926
「2位じゃダメなんでしょうか?─ 1番速いスパコンの必要性を考える」 2013年05月11日 『BLOGOS』
http://blogos.com/article/62067/
「スパコン「京」に関する素朴な疑問」 2013年01月09日 『BLOGOS』
http://blogos.com/article/53644/
基本的には「それで産業復活するの?」という主の批判なのだけれど、これに対して一応国家研究開発プロジェクトを担当していた元官僚として、何かの議論の参考になるように官庁側のロジックというものをまとめておきたいと思います。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://getnews.jp/img/archives/2013/05/sx3.jpg
○ まずスパコンプロジェクトは文部科学省の予算として要求されており、直接的な産業興隆を目的としたものではない。扱いとしては「反物質」や「核融合」やかつての「ips」の研究と同様で、今出来ないものを出来るようにする、未知のものを解明する、という主の科学技術研究として、及び、そういった科学技術研究を支える基盤技術として予算要求されている。なお半導体のような産業技術の研究は経産省によって要求されるという役割分担がある。
○ 科学技術研究に産業上の価値を過度に求めることは「スポーツで一番になることに価値があるの?」と詰めることと同様に本質的には筋違い。本来科学技術研究の価値は「真理の追究」にあり、人間そのものや人間社会の可能性の限界を広げる為にやるもので、プロジェクトベースの採算を問うべき種のものではない。そのため世界中で科学技術研究はGDP比などで総額キャップを決めた上で、学術的価値や社会に対する潜在的なインパクトを考慮して定性的な指標をベースに議論して裁量的に配分するということがなされている。
○ なので次世代スパコン議論をする時は「次世代スパコン開発は科学技術研究なのか産業技術研究なのか?」というところから始めないと前に進まない。仮に産業技術研究と判断するなら、文部科学省から経産省へのプロジェクトの移管が必要になる。現状でいくら文部科学省を詰めたところで、そもそも科学技術研究として扱われている限りは引用した記事に上げられたような質問に対するまともな応えは帰ってこないだろうし、文科省側としてもおそらく真剣に回答する気がない。
○ 個人的にはこれだけ議論がわき起こるぐらいだからスパコンは産業技術研究なんじゃないかと思っているし、経済産業省にプロジェクトを移管した方がいいと思う。そもそも元々スパコン開発はかつての通産省が音頭をとって強力に推進した結果、日本が一人勝ち状態になってしまい、1990年代以降にアメリカにいちゃもんつけられ「お前らは卑怯なことをしている」と世界中の市場から締め出されたことから文科省に移管せざるを得なくなったという経緯がある。概要についてはwikipediaの日米スパコン貿易摩擦*2の項を参照にされたい。私もこの辺の経緯に付いては官僚時代に大先輩方から色々と聞かされました。自前の軍事力が無いことが産業政策に跳ねてくる、っていうのはまぎれも無い事実なんですよね。
*2:「日米スパコン貿易摩擦」 『Wikipedia』
http://ja.wikipedia.org/wiki/日米スパコン貿易摩擦
○ そんなわけでスパコンの産業利用に日本が遅れているのは1990年代のアメリカのごりごりの通商交渉やプロパテント政策の成果なわけです。ちなみに本日、大西宏とかいうおじさんが、液晶テレビの二の舞を演じていないか?次世代スパコン開発*3という大変質の低い記事をアゴラに投稿されているので、皆さんはこういった議論に惑わされないように気をつけてくださいね?
*3:「液晶テレビの二の舞を演じていないか?次世代スパコン開発」 2013年05月13日 『アゴラ』
http://agora-web.jp/archives/1535312.html
ではでは今日はこんなところで
執筆: この記事はうさみのりやさんのブログ『うさみのりやのブログGT~三十路の元官僚、独立するの巻~』/a>からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年05月16日時点のものです。
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