ある日の東京地裁。少し遅れて法廷に入った。被告人席には若い、痩せ形の男性。犯罪とは無縁そうな弱々しい雰囲気でうなだれていた。電車内で痴漢行為を働き、迷惑防止条例違反で起訴されている。同じく電車内や駅のホームで痴漢をして罰金を払った過去が2回あるそうだ。今回は、電車を降りて後を追いかけるなどして、同じ相手に何度も痴漢していた。着衣の上から局部を押し付けていたというから気持ち悪いことこの上ない。
かなり年配の男性弁護人が立ち上がり、被告人質問が始まった。
長年刑事裁判を傍聴していると、年配の被告人や年配の弁護人はときに予想外の発言をしたりして、驚かされることがある。被告人だと本人にその気はなくとも「耳が遠い」といって質問に答えない場合があったり、「塀の中で死んでしまうかもしれない」と、高齢であることを思いっきりアピールしたりする。また弁護人であれば、思いきったことを堂々と発言したり、と、なかなか見逃せない存在なのである。
「あなたね、違法な行為しないでさ、家庭内で不満があれば外部で発散する方法、知らないの?」
案の定、開口一番に“風俗での性欲発散”を勧めてくる弁護人。
「知ってはいますけど、そういう風にするってのは……」
被告人も、犯罪を犯しておいて風俗には抵抗を見せていた。
「ま、普通の、シロウトの女の人に迷惑かけた、ってのは違法性高い行為ではありますけどね!」
と、弁護人は被害者を“素人”呼ばわり。
この年配弁護人からの質問は、タメ語のくだけた雰囲気で長々と進んだが、また最後にこう念押しした。
「合法の範囲内でだね、風俗、キャバクラ……行ったことないの?」
こんなに風俗を勧めてくる弁護人は始めて見る。
「キャバクラなら行ったことありますけど……」
と消え入りそうな声で答える被告人に最後にこう告げた。
「ま、今度もっぺんやると、刑務所間違いない。それは分かってる? よく自制するってことでいいんですね? 電車乗ったときは女性の近くに行かない、誤解を受けるような行為は避けますか? そばに寄ると、何と言いがかりつけられるか分からないからね!!!」
なんと、被害者が言いがかりをつけたかのような印象をあたえかねない発言でシメた。
弁論でも止まらない。
「まぁ、悪質性は最も低い!
30歳越してる被害者、そういう意味からも、まぁ……(なぜか口ごもる)。
それから、犯行で手は使ってない。着衣の上から! まぁ、計画性は薄いですよね。それから犯行に着手したのは電車を乗り換えて次の駅でして、すぐにヤッた訳ではない。それから、常習性が顕著なわけでもない。以前の犯行は8年前、5年前と昔ですしね。
あとはまぁ、被害者が悪いとは言いませんが、27年間弁護士やってますが、こういう事例は聞いたことがない!
こういうことはバカバカしい。痴漢された女性は、即座に反応して大声上げると思うんです! ま、恥ずかしいとか、理解できますが、なるべくなら、自力で最小限の救済策をとる、と!!
まぁ、まぁ、求刑の6か月は重いわけであります!!!」
う〜ん。
被害者の年齢に始まり、被害申告が遅かったであろうことを遠回しに非難。いやいや、ひょっとして、弁護人もこんなことは言いたくないけどあくまでも“戦法”として渋々言っているだけなのか? とも勘ぐりたくなるほどだ。本心は分からないが、これはかえって被告人が悪者に見える。しかも「手を使ってない」って。局部を押し付けてるほうが断然、気持ち悪い度アップだと思うが……。
画像引用元:flickr from YAHOO
http://www.flickr.com/photos/rail02000/401718789/
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