あなたは最近、『iTunes Store』と『Amazon MP3』のDLランキングをにぎわせる、『VECTROS』というゲームのサウンドをご存知だろうか?
実はこのゲーム、ゲーム自体はまだ発売されておらず、サウンドトラックのみが先行発売されているのだ。
下記PVをご覧になって興味を持った方は是非購入して欲しい。1トラックに3曲分が入ってるお得仕様となっているぞ!
「SiLent ErRors - VECTROS Original Soundtrack」『YouTube』
https://www.youtube.com/watch?v=9nstxBsHm_w
※オフィシャルPV動画より引用
VECTROS スペシャルサイト
『VECTROS』は今冬発売が予定されているiPhone/iPod用のアプリ。詳しい情報は上記オフィシャルサイトのリンクを参照してほしい。
ベクタースキャン(注※)と呼ばれる過去のCG表現がそのままの形で進化していたら……というifの発想に基づくゲームだが、必ずしもこの冒険的アプローチが話題になったというわけではない。
では何故、発売前のゲームのサウンドがこれほど高い注目を集めたのか? その答えは本作の音楽を作曲した人物にある。
楽曲を手がけた『小倉久佳音画制作所』とは、かつてタイトーのサウンドチーム『ZUNTATA』で中心的役割として活躍した、OGRこと小倉久佳氏のフリーランスに転向してからの作曲者名なのだ。
小倉氏はタイトー時代にダライアスシリーズやニンジャウォーリアーズ、ギャラクティックストームなどのサウンドを手がけ、80年代中盤から90年代中盤に掛けて興ったゲームミュージックという新しいジャンルとムーブメントを牽引(けんいん)した人物。
まだゲームミュージックが市民権を確立していなかった時代に、作曲にあたっては題材に対し素材を掛けて、コンセプチュアルなサウンドを志し、独自の音楽世界を創り上げてきた。
その考えはやがて“音楽の視覚化=音画”へと発展していき、揺ぎ無い作家性は『VECTROS』の楽曲にも遺憾なく発揮されている。
こうした見えざる力が「OGRの新曲!」という話題以上に拡散し、DLランキングに反映されたと言って間違いないだろう。
この作品にもミステリアスなキーワードが幾つも織り込まれており、本作における“コンセプト”とその意味を考察してみたい。
『VECTROS』のアルバム名は『SiLent ErRors』であり、メインテーマも同名のことから、コンセプトはSiLent ErRorsで間違いないだろう。
強いメッセージ性が感じられるPVをご覧になれば解るように“静かな(サイレント)”という言葉とは対照的に、まるで侵攻して行く(来る)ような攻撃的なイメージが打ち出されている。
単調に音が繰り返される旋律にも何処となく“異常(エラー)”な雰囲気を感じさせ、映像の最後には“世界はエラーに満ちている”という言葉が表示される。
この“世界”とは何を示しているのだろうか? もし、我々が居る“現実世界”を指したものであれば……。
日常や社会は表面的には上手く回っているように見える。
しかし、現実には理不尽で皮肉な出来事ばかりに満ちている。個人の問題ばかりとは言えない。
ネットやゲームと言った“電子の世界”でも様々な問題が起き、より広い視点で見ればこの国、この世界の到る所でほころびが見え、機能不全に陥っているのではないか。
『VECTROS』は面の表情を無くした、ワイヤーフレームという点と線で表現された作品だが、小倉氏はそこにある種の不完全さと我々の住む世界に共通項のようなものを見出したのではないだろうか?
“不完全な世界”と“不条理な世界”で音も無く侵食が広がっていく様相が『SiLent ErRors』であると。
しかし、これらはマクロ的な視点で捉えた時の印象であって、ミクロ的な目で見るとより精確に、外皮から“内面的な世界”に到ることにも気付いた。
PVでは所々にサブリミナル効果のように音声や文字が表示される。このような手法は小倉久佳音画制作所の作風として、これまでにも度々見られるものだ。小倉氏は80年代から映像と音楽を同期させる演出をいち早く取り入れ、様々な形でゲームが持つ表現の幅を膨らませてきた。こうした特異な趣向の源泉が何であるかをひも解くと、実はあまり知られていないが、氏は高校時代よりマジックを趣味としていて、これは現在もライフワークとなっている。
小倉氏によればマジックにもイントロがあり、Aメロ、Bメロ、サビがあり、音楽と同じ構造を持っているという。
マジックには発想の泉に裏打ちされた、人の心理を巧みに操る技があり、音楽のタイミングと動きのタイミングを合わせることによって、それぞれ独立していたものが相乗効果を生み出し、より強いものとして相手に伝えることが出来るという。
この演出(聴覚と視覚がもたらす相乗的な錯覚)によって初めて人は幻惑し“イリュージョン(幻影)”が完成するそうだ。
そうした点も踏まえてPVを見つめ直すと、注目すべき“M'aider”というキーワードが浮き上がる。
M'aiderとは緊急事態を知らせる“メーデー(mayday)”のことで、表示のフランス語“助けて”が語源である。
度々映し出される交信とノイズ、そこに表示されるM'aiderの文字は人々の“叫び”のようにも感じられないだろうか?
この叫びがエラーを繰り返す世界を創り出した人々に向いた矢印であったならば……。
我々の“精神世界”は知らず知らずに異常と過ちに犯されているのではないか。本作のコンセプトとは表層の事象でなく、真の世界は個々の精神の内面に在るという、 ワイヤーフレームという点と線の世界を介在した、小倉氏からの問い掛けなのではなかったか。
もしかしたら「何をたかがゲームサウンドで……」と思う人が居るかもしれない。
しかし、シンプルに言えば小倉久佳音画制作所はただひたすらにゲームミュージックというジャンルを追及しているだけなのだ。
そこには過去も未来も存在しない、あるのは孤高で高潔な挑戦だけだ。
小倉氏にとって「差し替えが効くものでないものこそがゲーム音楽」であるという。
「違う音楽をはめてピタリときてしまうようでは、それはゲーム音楽とは呼べない」のだという。
これはつまり、『VECTORS』という鍵穴の為だけに用意された、ある種の“キー”が存在しているということだ。
ベクターゲームというレトロフューチャーとマジック的なサウンドの邂逅(かいこう)、そこには新しい視覚体験が待っているに違いない。
多くの方にこの融合を目撃してほしいところだが“『VECTORS』の世界”はまだ完成していない。
何故ならゲーム自体が発売されてないからだ。
『VECTROS』は最初に記したとおり、今冬発売が予定されている。
『iPhone』の傾きセンサーと2種類のポタンだけで遊べるシンプルな操作性、爽快感を重視し、アーケードゲーム風の熱さを追求したゲームデザインを売りとしている注目の1作だ。
先行のサウンドにビジュアルとレスポンスが調和して初めてゲームは完成する。
是非、多くのプレイヤーに『VECTROS』が完成する瞬間を体験して欲しい。
『VECTROS』の完成でコンセプトに込められた問いは解けるのだろうか?
あるいは小倉氏すらも明確な答えを持ち合わせていないのではないか。
ただ一つ言えることは、その答えは、線よりも点ですらも表現出来ない世界の深部にあるはずだ。
自身の心の奥底にこだまする咆哮(ほうこう)に耳を澄ませ、それこそが『SiLent ErRors』に違いないのだから。
(注※)ベクタースキャン……ポリゴン登場以前の3Dグラフィックの表示法の1つ。輝点を直接表示に沿って振り動かし図形を描画する。
※参考資料:テレビゲーム綺譚(きたん)
※この記事はゲー夢エリア51の“ぜくう”が執筆しました。
『ゲー夢エリア51』
http://www5f.biglobe.ne.jp/~zekzek/index2.htm
『VECTROS』スペシャルサイト
http://vectros.ne-net.jp/
Amazon(MP3 楽曲) 150円
「Silent Errors (Vectros Original Soundtrack)」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00A0OYGBU/twu_nyanp-22/ref=nosim/
iTunes Store 450円
「Silent Errors (Vectros Original Soundtrack) - EP」
https://itunes.apple.com/jp/album/silent-errors-vectros-original/id575803928
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