文化庁長官の諮問機関として文化審議会著作権分科会に設置されている法制問題小委員会の下で、日本や欧米におけるパロディや二次創作に関する現状に関する調査と著作権法とパロディの関係をどう定義すべきかについての検討を行って来たパロディワーキングチーム(小泉直樹座長)が報告書を公表しました。
報告書では米国・イギリス・フランス・ドイツの著作権法においてパロディがどのように定義されているか、またパロディの是非を巡って各国で争われた裁判の事例が紹介されていますが、パロディを明文で認めている事例として知られるフランスの場合でも条文に列挙されているパロディ(風刺)、パスティシュ(作風の模倣)、カリカチュール(戯画)の区別は必ずしも明確ではないことが指摘されています。また、日本の現状についても同人誌や動画投稿サイトを含めて報告されており、諸外国に比べるとパロディそのものの是非について裁判で争われた事例が少ない反面、業界の長年にわたる慣行や権利者の暗黙によるパロディの許容が幅広く行われているとしています。
結論として、ヒアリングを行った企業や団体などからもパロディの扱いを明文化することに積極的な意見は少なかったことや、明文化した場合にはジャンルごとに微妙なバランスの下で築かれた慣行を崩すおそれがあり、必ずしも「二次創作の促進」を政策的に進める目的に沿わない結果となる可能性があることなどが指摘され、現状では著作権法においてパロディを合法とする適用除外の追加などは行わず今後も業界の動向や諸外国、特にイギリスの知的財産庁が2011年に行った著作権法の「公平な取り扱い」(fair dealing)が認められる類型にパロディを含めるかどうか検討すべきであるとの提言を受けて立法がどう対応するかについて注視することが重要であるとしています(なお、イギリスの知的財産庁も3月15日に日本でこの報告書が公表されたのとほぼ同じタイミングで「パロディとパスティーシュに関する報告書」を公表しています)。
このように、全般として興味深い内容となっている本報告書ですが昨今の著作権法における重大なトピックの一つとなっており、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)においても参加国に導入が義務付けられるのではないかとの懸念が広がっている「著作権の非親告罪化」が日本で実施された場合に関する検討は行われていません。米国で非親告罪化がそれほど大きな問題になっていない背景にフェアユース規定の存在があることは広く知られており、本報告書でもパロディがフェアユースに該当するか否かが争われた事例が何点も紹介されていますが、日本でのフェアユース導入は「フェアユースに名を借りた著作権侵害が横行する」と言う日本新聞協会などマスメディア関係の強硬な反対に遭って頓挫しているのは周知の通りです。今後は、そんな状況下で公表されたこの報告書が「パロディを明文化しない代わりにフェアユース導入を認めるべきだ」とする意見を再燃させる可能性にも注目が集まるかも知れません。
最後に、この報告書に限らず法制問題小委員会の下部組織として各年度ごとに設置されるワーキングチームは2004年以降に活動中のものと既に活動を終えているものを合わせて10チームが設置されていますが、いずれも上位組織の審議会や分科会・小委員会とは異なり非公開で議事要旨のみが公表される形式となっています。中には「技術的保護手段」や「国際ルール形成検討」など規制強化に直結する課題を扱うチームも存在するので、ブラックボックスの中で結論を出して上位組織が報告書をシャンシャンで了承し権利者を含めて誰もを得しない規制強化だけが行われると言う事態にならないよう運営には細心の注意を払って欲しいものです。
パロディワーキングチーム 報告書 [リンク]
Parody and Pastiche: Report 1~3 [リンク](イギリス知的財産庁)
画像:パロディワーキングチーム 議事要旨(文化庁)
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