その疑問にこたえつつ「帰化」について考えてみたい。帰化とは、ある国家に住んでいる外国人がその国籍を申請し、国家が外国人に対して新たに国籍を認めることだ。
在日コリアンで、民族名を名乗ったり公言したりしている人なら誰でも一度は「なぜ帰化しないのですか?」という質問を受けたことがあるだろう。
帰化するかしないかは在日コリアンである本人の自由だ。にも関わらず、私が帰化しないのはなぜか。私はそう聞かれたときに「帰化する理由がないから」と答えている。
もし、自分がサッカー選手で、日本代表の道があるなら日本国籍を取得するだろう。また、私の国籍が韓国であるために子どもに不利益が生じることがあるなら日本国籍を取得するだろう。現在のところ、子どもにも不利益は生じていない。
しかし、在日コリアンの中にもさまざまな考え方がある。韓国・朝鮮籍を保つことが民族の誇りと思う人もいると思うだろう。私も自身の外国人登録証明書の国籍欄に書かれた「韓国」という文字を見て、自分のルーツのある国について考えたり、かすかな繋がりを覚えたりもした。
●その土地に生き、生活していることと国籍は関係あるのか
その土地に生まれ育ち生活しているということと、国籍とは結びつけて考えるべきなのだろうか。
私は25歳でパスポートを取得するまで、無国籍だった。日本での出生届は出ていたので、先ほどにも述べたように外国人登録証の国籍欄には「韓国」とあったが、韓国に戸籍がなかった。在日ではそういう人も珍しくはない。国籍がなくとも、永住許可があれば日本では生きていける。また、朝鮮籍も無国籍状態である。
そして、私は朝鮮学校など民族学校にも通っていなかった。だけど、家庭のなかには法事をはじめ食卓にも朝鮮半島を感じるものがあった。父母もほとんど朝鮮半島の言葉を話さなかったけれど、それでも自分たちは朝鮮人として生きた。父は早くに亡くなったが、韓国と云う国籍がやはり自分にとって何かを繋ぐものだと思う。
国籍を変えることは、自分にとってのかすかな繋がりを断ち切ってしまうことなのではないか。そのような考え方をするのは、やはり少し古い世代だからかもしれないが、言葉も多くの文化も持たない私にとっては、やはり国籍も自分の大切なものなのかもしれない。
また、帰化という言葉が内包する「ルーツを忘れ、国籍を捨て去らなければならない」と云う無言の圧力にも違和感を覚える。民族のルーツを色濃く感じる家庭やコミュニティで育った人ならさらにそれを感じるだろう。
同じ土地に同じように住み、同じように働き、納税をはじめとする課された義務を同じように果たして生活しているにも関わらず不平等が存在するのはなぜだろう。同じように生活しているのに外国人だからという理由で権利の制限はおこなわれるべきなのだろうか。
私はそう思わない。もともと内にいた人も、外からきた人も、平等であるべきだ。
●帰化してもなお続く差別
そもそも、「なぜ帰化しないのですか?」という質問には、「帰化すべき」という前提があると思う。同じ国籍じゃないと権利を与えられない、同じ国籍じゃないと平等に扱えないという考えがあるのだろう。国籍が違っている人に権利を与えることが不安なのだろうか。
自分のルーツ、自分と家族の人生を見ず知らずの人に「変えろ」と云われることに抵抗があり、不快に感じる人もいるだろう。こだわらない人もいるだろうが、そこにこだわりたい人もいるのだ。そして、そこにこだわったから平等に扱わないというのは考え方はおかしいと思う。
国籍が変わっても育ってきた環境やそこにまつわる思い出やルーツは変わらない、という考え方もあるだろう。国籍を日本にしたとして、自分のルーツが尊重される社会であれば、もっと多くの人が日本国籍を選ぶかもしれないな、とは考える。
しかし、帰化し日本国籍を取得してもなお続く故なき非難というものが存在する。
先日、「やっぱり帰化人を政治家にしたら反日にいそしむので、被選挙権剥奪すべきですね」というメンションを受けた。
自殺した政治家の新井将敬氏も、その出自について理由のない非難を浴びせられた。
ソフトバンクの孫正義氏に対しても同様のことがある。
帰化しても日本人として認めようとしない人も少なからずいる。
そういう意識を、まず変えなければいけないのではないか。帰化する人もいるし、そうしない人もいる。それが当たり前に受け入れられる、そんな選択肢が多い社会は豊かな社会だと思う。自由に選択でき、それでも平等に扱われ、差別をうけない社会は素晴らしいのではないか。
帰化したから平等で、帰化しないから不平等が当たり前、というのはやはりおかしいと思う。
何かを愛したり、大切に思ったりすることは「同じ」じゃなくても可能だと思う。私は日本が大好きだ。だが、私は在日として、この日本を愛し、この日本で生きたい。
(李信恵)
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