今回はまんしゅうきつこさんのブログ『まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど』からご寄稿いただきました。
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■大人への旅
私は、妹まゆみ、弟たかしの三人きょうだいだが私以外のきょうだいは思春期によく荒れた。
妹は中学生の頃、夜によく家を飛び出しては、
「まゆみ~、どこにいるの~」
「まゆみ~」
という、自分を探す母や私の声を、
自分の家と裏の家の境目の壁に、ヤモリのようにへばりついて聞いていたらしい。
ある時もまた飛び出し、
夜遅くに子猫を抱きしめて玄関に戻ってきたこともあった。
子猫を抱きしめた妹は、憑き物が落ちたように優しい顔をしていたが
その後も、親に内緒で新聞奨学生の寮に入ろうと手紙を書いたり、結構滅茶苦茶なことをしていた。
派手な非行には走らなかったが、両親に反抗的な言動を繰り返し、たびたび母を心配させた。
妹は、とにかく家が嫌いでたまらなかったようだった。
弟も、17で家から追い出されるまで、家出を繰り返した。
ある日、父親に怒られ、突発的に家を飛び出した弟は翌日になっても戻らなかった。
弟がいなくなって2日目の深夜に、突然、電話が鳴った。
もしかしたら、弟は何かの事件に巻き込まれたのかもしれない。
イヤな予感ばかり頭をよぎる。
ズーズ―弁の秋田の警察の方からだった。
弟は、埼玉から電車を乗り継ぎ、2日かけて秋田の大舘まで行ったらしい。
駅のベンチで野宿しているところを、パトロール中の警察官に職務質問され身元確認の電話がかかってきたのだった。
結局その後、弟は、来た時と同じように、駅の構内で寝泊まりしながら2日間かけて埼玉の実家に戻ってきた。
また、ある時は、突然、大阪まで歩こうと思い立ち、世田谷の友達の家から、1日かけて日吉まで歩き、
その後、3日かけて小田原まで歩いた。
しかし、限界だった。
4日間歩き続けた脚はパンパンに膨れあがった。
足を引きづりながら歩き続けたが、大阪行きを断念した弟は、最寄りの駅までヒッチハイクすることにした。
指をさして笑っていたのを見ても、不思議と何の感情も湧かなかった。
なぜなら、この時すでに脱水症状を起こしていて、意識がもうろうとしていたからだ。
その後、運良く年配の女性に小田原の駅まで乗せてもらった弟は、家へ帰ることにした。
4日間の道のりも、ロマンスカーではたったの2時間30分だった。
弟の家出も、妹の家出も、大人になるための通過儀礼だったのだろう。
今では、弟は両親をとても大事にしているし、妹も、遠くに嫁いだのに機会をみつけては両親に会いに行く。
一方
たいした反抗期もないまま大人になり、今でも近くに住んでいるのに、めったに親に会いに行かない私にとって、弟と妹のことは少しうらやましい。
最近つらいことがあり、ふと実家をストリートビューで見てみた
そこには、仲良く庭いじりをする両親の姿があった。
ストリートビューに写り込んだ両親はまるで、アリエッティのように、葉っぱの裏で精いっぱい生きる小人のように見えた。
私は、少しだけ泣いて、そっとパソコンの電源を落とした。
執筆: この記事はまんしゅうきつこさんのブログ『まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月19日時点のものです。
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