●オンラインサービスで出来ること
国会図書館のデジタル化資料が進化している。
ご存知の方も多いだろうが、資料のデジタル化により、自宅にいながら貴重な資料が閲覧可能となっている。どれだけの資料が閲覧できるのだろう? 電子図書館事業の概要のパンフレットには、
現在、国立国会図書館では、200万点以上の資料をデジタル化し、そのうち著作権処理を行った約40万点をインターネット公開しています。
とある。
画面もわかりやすく、コレクション検索・テーマ検索・詳細条件の指定が可能だ。また、現在はアクセスランキングがTOPに表示されており、人気の高い資料が一目瞭然だ。
●ランキングを見てみると…
現在、アクセスランキングの一位は「エロエロ草紙」とある。インターネットで既に話題になったこともあり、不動の1位がキープされているようだ。このサイトはけして民間企業の提供するティーンズ向けの電子書籍サービスではない。歴然たる国立の施設のアクセスランキングだ。だが、不動の一位は「エロエロ草紙」。このTOP画面そのものから漂うのどけさは何であろう。
しかし、この「エロエロ草紙」ひとつとっても侮れない。笑っちゃうタイトルだが、実際には貴重な資料の一環だ。改めて閲覧してみると、一口に「エロ」といっても現在のグラビアのようにとにかく身体を強調するものではない。「破廉恥」といった懐かしい言葉のふさわしい、どこかのどかな情緒すら感じさせる雰囲気がある。その背景には当時の日本人の「廉恥心」が覗かれる。本の生み出された背景にある感性が、現代と当時とでは異なるようだ。そのギャップが面白いという一面もあるだろう。
天津木村のエロ詩吟という芸がある。彼の芸風が芸として成立するのは「詩吟」と現代のギャップを「エロ」で埋めるところにあるのではないだろうか。「エロエロ草紙」の1位である理由にはそんな背景も伺える。私たちがどんなものに興奮し、どのようなものに感興を覚えるか。その源泉を辿ってみるのもいいものだ。そこには「昔の人も同じだったんだな」という妙な安心感があるのかもしれない。
アクセスランキングそのものが、今までになかったサービスでもある。ランキングをTOPに配置されていること自体、間口を広げる手法として効果的に思われる。
●「れきおん」が充実しているよ。
さて、もうひとつ注目したいサービスがある。刷新されたばかりの「れきおん」だ。京都アニメーションの提供する萌えアニメのようなこの愛称、筆者が考え出したものではない。
国立国会図書館は、3月15日(金)に、歴史的音源専用ページ(愛称:れきおん)を公開しました。
とあるように、自ら編み出された愛称だ。
自治体や公共サービスが略称やニックネームを編み出すことはままある。愛称とは自然に生じるものであって、自ら考案するものではない…というツッコミは置いておきたい。その姿勢に真摯な意図が感じられるではないか。
実際にはどのような音源が聞けるのだろう。
画面はシンプルだ。キーワード検索がTOP上部に設置されており、インターネット公開音源のみ限定することもできる。
ラインナップは明らかに現代と異なる風情のアーティスト勢でがっちり固められている。例えば「作詞者」と一口にいっても、与謝野 晶子、坪内 逍遥、近松 門左衛門、竹久 夢二、北原 白秋といったメンバーだ。ビッグネームにも程がある。しかし、当時、彼らが流行・文化の発信源であったことには相違ない。時間の流れが彼らと私たちを隔ててしまったために、その姿を生々しく感じるのはなかなか難しい。しかし、当時の人にとってはもっと身近な存在だったのではないだろうか。その当時の人の感性を知る手段として、「れきおん」は画期的だ。
教科書で作品にふれたことがあっても、実際にそのテキストがどのように再現されていたのかはわからない。それが聴覚で体感できる。文字が情報伝達に欠かせない記号であるのは言うまでもない。文字には必ず発音が伴う。聴覚資料の貴重な理由は、音に対するの人の感性がうつりかわるためでもある。例えば、現代の私たちと、古の日本人では話し方も抑揚も異なる。楽譜や技術が残っていても、千年前では録音自体が不可能だった。音声が残っているのは貴重なことだ。現代では何だって録音し、頒布させ流通させ事業として成立させている。だからその重要性にはなかなか気付けない。しかし百年後の国立図書館では「ボカロ」や「初音ミク」ですら、歌舞伎や浪曲と同じくらい貴重な資料として公開されているかもしれない。そう思うと却って現代の豊かさが実感されてくる。
「れきおん」のうち、インターネット公開されていない音源もあるが、国立国会図書館だけでなく、全国100館以上の図書館でも聴くことが可能だ。
浪漫にひたりつつ、感性に沿う音源を捜してみてはいかがだろうか。
●行ってみるのもいいかも。
入学・入社を控え、この三月に上京した人も多いだろう。移転作業や公共料金への連絡など、きっと面倒な作業に追われていることだろう。しかし、忙中閑ありで、実際にはふとした隙間もできるのではないだろうか。そんな時間を利用して、国会図書館を訪れるのはいかがであろう。何しろ図書館なので利用は無料だ。上京したばかりなら、必要となる各種証明書類も揃えやすい状況であるはずだ。新生活のスタート前に国会図書館のカードを作っておけば、その後の生活を支える切り札になってくれるかもしれない。必要になってから作る、ということでは遅い場面だってあるかもしれないではないか。
筆者も何度か訪れている。職員の方々が私服であるためだろうか、思った以上に質問しやすく親しみやすい雰囲気だった。
ただ、食堂は3月25日(月)~4月3日(水)の間改装のため臨時休業となるようだ。改装後は食べられなくなるメニューもあるようなので、興味のある方は予めホームページをチェックした上で来訪されることをお勧めする。
●関連リンク
国立国会図書館 http://www.ndl.go.jp/index.html
国立国会図書館デジタル化資料 http://dl.ndl.go.jp/
れきおん http://rekion.dl.ndl.go.jp/
近代デジタルライブラリー http://kindai.ndl.go.jp/
※この記事はガジェ通ウェブライターの「小雨」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?
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