今回から始まる「アイドル上京ものがたり」。今や大都市一極ではなく、地方それぞれが独自のカルチャーやシーンを指向する時代だと言われます。しかし好きな物を掘れば掘るほど、まだまだ東京は多くの若者にとって憧れの場所であり、文化や流行の象徴です。特にアイドルにとっては、その職業としても中心地であり、ひとりの若い女の子にとっても魅力が詰まった街。地方に生まれ、今東京に住むアイドルたちに、アイドルとして、そしてひとりの女の子として見た「東京とわたし」を語ってもらいます。
第1回のアイドルは、どこか身近でそれでいて尖った4人がステージで見せる爆発的なパフォーマンスと、縦横無尽の音楽性で若いファンを集めているニューウェーブアイドルグループ・ゆるめるモ!のけちょん(栃木県出身)。唯一の初期メンバーで、ハードなライブの中でも彼女の顔と歌声を感じてるだけで癒されるのは栃木バイブスのたまものだった!?
栃木のプリクラは写りが悪い
--このインタビュー、web掲載なのでもちろん日本全国の人が読むことになるんですけど、「栃木って言っても関東じゃん!東京近いし都会だろ!」って思われる気がするんですよね。それで確認として聞きたいんですけど、栃木って田舎ですか?
けちょん 私が住んでるところは田舎ですね~。田んぼは車で10分くらい走らせないとないんですけど、山と川に挟まれた場所で。
--田舎度を計る定番の質問ですけど、小中学校の学年は何クラスでした?
けちょん わたしの代だけすごく人数が少なくって、小学校は3クラスあったんですけど、中学校が1クラスしかなくって(笑)。
--普通中学校って小学校と同じか増えないですか? 他の中学に行ったのかな。
けちょん そういう感じです。中学は1クラスで30人もいなくって。それで男子が4人とかしかいなくって。
--男4人!
けちょん 女子が24人くらい。
--普通の中学校ですよね? 専門学科とかじゃなくて。極端だなー。
けちょん そうなんですよ。クラスで恋愛とか出来なかったですね〜タイプの人居なくて(笑)
--住んでたのは栃木の中でもけっこう田舎の方なんですか?
けちょん そうですね。栃木出身っていうと「宇都宮よく行くの?」って聞かれるんですけど、宇都宮行くのも東京行くのもそんなに変わらない距離なんですよ。だから遊びに行く時は東京に行ってました。だから宇都宮事情はよくわからなくって。よく「宇都宮餃子ってどれが一番美味しいの?」って聞かれるんですけど、わかんないんですよね。
--家から東京までは電車でどのくらいかかるんですか。
けちょん 2時間かからないくらいですねー。中学の頃は原宿とか遊びに行ってましたね。
--けちょんさんは東京に対して憧れってあった方?
けちょん 東京は……なんか「夢が詰まってる」ってイメージありましたね、小さい頃は。「行ったら芸能人に会えるかも!」「原宿なんか行ったらスカウトされるかも!」みたいな。芸能人になりたい、とかはなかったんですけど、栃木ではスカウトとかまずないんで。
--学生の頃に東京に行くっていうのは何目当てだったんですか?
けちょん お洋服かな。仲良い子がロリータの服着て、わたしが王子の格好して原宿歩いたりしてました。そういう格好って地元だとすごい浮いちゃうけど、東京だったら同じ仲間がいっぱいいる、みたいな。
--栃木だと白い目で見られる。
けちょん そうですね、絶対に二度見されるみたいな(笑)。
--ちなみに「王子の格好」ってどんな感じですか?
けちょん ジャケット着て黒いサルエルとか。普段も男の子っぽい格好してましたね。かわいい、よりも格好良くなりたい! っていうのがあったんで。
--地元でも仲良いのはそういう洋服好きな友達だ。
けちょん ロリータ好きな子とゴシック好きな子と、4人くらいお洋服好きな友達がいたんです。それで雑誌見て「この服いいよね~、でも高いね~」みたいな。地元にもいちおうそういうお洋服売ってる店はこっそりあったんですけど、東京は……「うん、なんでもある!」って感じですよね。お洋服屋さんもいっぱいあるし、みんなおしゃれだし。あとプリクラが全部新しいんですよ。栃木だとお古(の機械)が回ってくるんで、写りがめっちゃ悪いんです(笑)。
栃木から秋葉原へ通いで週2回のバンパイア
--早いうちに東京に出て暮らしたいなとは思ってた?
けちょん 特に東京出て住みたいって気持ちはなかったんですよ。ただ高校を卒業する時、わたし就活しなかったんですけど、その時にメイドが流行ってて、それに憧れて東京に通ってたんです。アキバのメイドカフェに。
--どうせ働くなら可愛い格好して働きたい、しかも東京で、っていう。
けちょん そうですね。コンセプトがすごいあるところで、それがバンパイアだったんですけど、ゴシック系の服も着たかったし、『わぁ、わたし東京で働いてる~』みたいな。それはありましたね~。
--そこから通いとはいえ夢の東京ライフが。
けちょん ただ、メイドを選んだのはもうひとつ理由があって、わたしすごい人見知りで、コミュ障で知らない人とは会話も出来なかったんで、それを克服しようと思ったんです(笑)。メイドになったら話す練習になるじゃないですか。
--あはは、社会訓練としてメイドの仕事を。
けちょん でも最初は本当に喋れなくって。「おかえりなさいませ!」とか言うんですけど、本当に声がでなくって。恥ずかしくって緊張しちゃって……。あと、バンパイアがコンセプトなんで「何百何歳です」「魔界から来ました」とか言ってたんですけど、でも「本当は何歳なの~?」とか聞かれて、話すのまだ慣れてないから困ってました(笑)。
--じゃあ、こんなインタビューとか当時はありえない。
けちょん ないですね! はじめてついたお客さんに、一年くらい経って『すぐ辞めると思ったよ! よく続いたね』って言われて。その人とは初めてのときほぼ話せなかったんで(笑)「音楽かかってると声が聞こえない」ってよく言われてましたから(笑)。
--でも栃木から通いで秋葉原って……遠くないですか?
けちょん 遠いです! 週2しか働いてなかったんですけど、交通費でほとんど飛んでました。(参考:秋葉原駅~宇都宮駅間JR利用で1940円。所要時間約1時間50分)
--交通費は出てたんですか?
けちょん 出ました!けど往復が2000円近く自腹でしたね〜。
--まったく儲けにならないですね。
けちょん だから毎月携帯代と交通費払ったら、もう3000円残ってるかどうか、みたいな。だからもうお金がないから、後は家でゴロゴロゴロゴロしてて。
--それでもいいから秋葉原でメイドしたかった。
けちょん そうですね~。でも、親から「働かなさすぎ!」って怒られて。学校も行ってないのに週2しか働かずに、親のスネかじって、って。
--正論ですね(笑)。
つぶやきシロー似のPを見て「わあ、東京だ!」
--けちょんさんがゆるめるモ! に入ったのはプロデューサーの田家大知さんに声をかけられたのがきっかけとのことですが、それは栃木から通ってた時代?
けちょん そうですね。田家さんってつぶやきシローに似てるんですけど、本気でつぶやきシローに声かけられたと思って「わあ、東京だ!」って思いましたね(笑)。
--東京なら芸能人も普通にいるはず、という栃木時代のイメージで。
けちょん そうですそうです。「本物ってこんな感じなんだ!」って。ふふふ。
--そこでアイドルに誘われたわけですけど、もともとアイドルに興味はあったんですか?
けちょん なかったですね。アイドルぜんぜん聞かないし、わたしがアイドルとか向いてないでしょ、みたいな。
--声も小さいし。
けちょん そうそう。やっとメイドで喋れるようになったばっかりなのに、歌うとかムリムリムリ! って。
--じゃあアイドルやってもいいかな、っていう決め手は何だったんですか?
けちょん 決め手……やる事がなくって(笑)。
--やる事がないからアイドルやるかと。
けちょん 10代って「ハタチになったらオバサンじゃん!」ってイメージあるじゃないですか。だから20歳になったらメイド出来ないでしょ、ってその時は思ってて。それで何しようかなって思ってた時に声かけられて、ついてってみようかなって。
--濃いアイドルファンからすると「20歳からアイドル」の方がありえない! って言われそうですけども(笑)。
けちょん たしかに! そうですね。
--アイドル像がないからアイドルになるのを決めれた、っていう。
けちょん でも、田家さんからは「アイドルになろう!」ってのをめっちゃプッシュされてたわけじゃなくって。「何かやりたいことある?」って聞かれて、好きなことさせてもらえるのかなあ、みたいな部分が強かったです。
--今考えると怪しいよねえ。
けちょん 怪しいですよね。今だったら絶対ついていかないです(笑)。
親に「一人暮らししてみろ!」と千尋の谷に落とされて
--ということは、ゆるめるモ!の最初の頃は栃木から通ってたんですか。
けちょん そうです。でも3ヶ月目くらいから通うのが大変になってきて……違った、「家出てけ!」って言われたんだ。
--えええ!
けちょん 親から「お前はお金の大切さをわかってない!一人暮らししてみろ!」って言われて。
--千尋の谷に子供を落とす獅子のような親! でも正直、「東京に住める!やったー!」ってのはなかった?
けちょん ええっ!って思いました。ムリムリ!って。
--それはお金の部分で。
けちょん うん。働かなきゃいけないじゃないですか。東京でひとりとか生きていける気がしなかったです。最初はその時教えてもらってたダンスの先生とシェアして住むことになったんですけど。
--いきなりアイドルだけでは暮らせないですよね。その頃はバイトとかはしてたんですか?
けちょん その頃はメイドとかケーキ屋とか。週4くらいでたまに深夜とか入れたり。どっちも3時間とかでもシフト入れてくれたので、入れるだけ入ってたかもしれない。それで月の生活費がギリギリって感じで。
--でも憧れの東京に住んだわけじゃないですか。通ってた頃と光景の見え方とか変わりました?
けちょん そうですねえ……住むと周りが見えなくなっちゃう。忙しすぎて。栃木住んでた頃の余裕が羨ましく思えるようになりましたね(笑)。今考えると、当時は今よりも余裕あったはずなんですけど、環境の変化に慣れなくって、ずっとホームシックになってて。
--家に帰ってお母さんのご飯が食べたい、的な。
けちょん そうなんですよ~。ご飯とかもう作ってくれる人もいない。ずっと焼きそばばっか食べてました、たぶん。100円で3麺入ってるのがあって、その1つを半分にして、もやしをいっぱい入れて。あとひき肉。
--それがアイドルの食卓……。ちなみに今は料理は?
けちょん しますね。その頃に比べると減りましたけど。それから1年後くらいに料理するようになって。
--今の得意料理は?
けちょん ローストビーフ!。
--自慢げに言いましたね。
けちょん ふふふふふ。ちゃんとはしてないんですけどね、クックパッド見て作ってるから。
--焼きそばに比べたら十分ですよ。でもいきなりの一人暮らしなら他にも戸惑うこといっぱいあったでしょう。
けちょん なんだろう……電気代とかガス代とか払うものがよくわからなかったです。本当に知識もないし、生きていける気がしなくって。しょっちゅう実家の夢を見ました。寝て起きると、頭の中ではまだ実家だ! って思ってるんですよ、寝ぼけて。でもドア開けたら違う家って気づく。その繰り返しです。3年くらいで一人暮らしにやっと慣れたかなって感じです。
お客さんが減っても辞めるって選択肢はなかった
--そんな一人暮らしと平行して、ゆるめるモ! は始まったわけですよね。なんとなくで始めたアイドルですけど、楽しかったですか?
けちょん 楽しかったですね~。でも最初は怖かったです。アイドル知らないで入ってきたから。でも初ライブからお客さんがすごい温かくて、「あっ、こんなに人って優しいんだ」って思いましたね。
--メイドもアイドルもお客さんに助けられて。
けちょん うんうん。どっちも最初のお客さんに恵まれましたね。優しいですよ、みんな。いい人ばっかりで。東京の人は冷たい、って聞いてたけど、そんなことなくって。
--そういえば、前に田家さんにインタビューした時に「とにかくけちょんが声が小さくて、ひとりだけマイクの音量上げてた」って言ってたんですけども。
けちょん あはは、そうなんですよね。わたしだけマイクの音量がすごく上がってて。田家さんとマンツーマンでスタジオで『こうやって声出すんだよ』って教えてもらったりしてました。
--最初4人組でスタートしたゆるめるモ!ですけど、いきなりメンバーが抜けたり体調不良でライブ出れなかったりと、1年目は苦難の時期もありましたよね。
けちょん そうですね〜2人でライブやったり、2人だけなのに私が声出なくなっちゃって1人で歌ってたり、お客さんが2、3人くらいしか居ない時期もありましたね。ファンの人もついてきたかな? って思ってたところに2人でやらなきゃいけなくなって、どんどん人も減ってきて。メンバーとも「もうダメなのかな」って話はしてたりしました。
--辞めようとは思わなかった?
けちょん そうですね……その頃は何にも考えてなくって、辞めるって選択肢はなかったと思います。他にやることがなかったんで(笑)。
--「今アイドル辞めたら仕事がメイドだけになっちゃう!」みたいな(笑)。
けちょん それは大きいです(笑)。あといつ頃だろう、ライブでつかめた時ってのがあって、「こうしたら自分の表現が出来る」ってわかってきてからは、ライブが楽しくなってきて。新メンバーが入ってきてくれてからは希望が見えてきたし、それにどんなライブやっても「もうちょい頑張ってみよう」って思ってました。悔しくなっちゃうんですよね。「もうちょっと頑張れたんじゃないかなあ」ってことを思うと、もっと続けようって思えたんですよ。
--それから新メンバーも入り、ライブ規模もどんどん大きくなって。それで今はテレビも出ることも増えたじゃないですか。地方の人からすると、テレビって東京の象徴だと思うんですよ。昔の自分から見て、テレビに出てる自分ってどう見えます?芸能人になったな~とか。
けちょん 芸能人って感じはしないです(笑)。でも昔の自分が今の自分を見たらすごいなって思うだろうし、たしかにテレビイコール芸能っていうのはありますけど、自分が芸能人かというと……めっそうもないです…。ただ地方のライブなんかだと「テレビ見て気になってライブ来ました」って子が多くて、テレビの影響はすごいなって思いますね。
デビューから3年10ヶ月、初めての栃木凱旋ライブ
--今やゆるめるモ!はZeppクラスの大型ライブハウスを埋めれるグループになり、アイドル方面に限らずテレビやファッション誌など幅広いメディアに登場する地下アイドル出身としては屈指の成功を収めています。そんな中、昨年10月30日の「ギュウ農フェスinうつのみや」で初めて栃木県でゆるめるモ! としてライブを披露しました。
けちょん そうですね、初めて栃木でやれました~。
--実は馴染みのない宇都宮ですけども。
けちょん あはは、でもオリオン通りとか中学校の頃行ったことあったので、「栃木にいる~!」って思いましたね。それに「ゆるめるモ! が栃木にいる!」ってのがすごい嬉しかったです、はい。
--親御さんには見てもらったんですか?
けちょん 来てないです。やるの伝えなかったですね。
--えー、呼べばいいのに。
けちょん けっこう歳なんで、外で立って見てもらうのは大変かなって。終わってから言ったんですけどね、「呼べよ!」って言われました(笑)。
--そりゃそうですよ。地元での娘の晴れ姿ですもん。
けちょん でも前にワンマンは見てもらったことあるんで。
--ちなみに昔「一人暮らししろ!」と行った両親は、今はけちょんさんに何と言ってるんですか?
けちょん 「早く帰ってこい!」くらいの(笑)。一年前くらいからそう言ってます。さみしいんだなって。でも、最初に家出た時に忘れ物しちゃって、次の日また栃木に帰ったんですよ。そしたら満面の笑みで「お~、何忘れたんだ~?」ってめっちゃ喜んでて(笑)。
--出た翌日からむちゃくちゃ帰って欲しがってますね!
けちょん いちおう最初に「一ヶ月に一回は実家に帰る」って約束したんですよ。でも最近守れてないんですよね。そしたら「いつ帰ってくるんだ?」って電話がかかってきて(笑)。「出てけ!」って言ったのは親の愛なんだな~って気づきました。
--もう東京暮らしも慣れたと思いますけど、自分は東京の人になったなって気します?
けちょん えー、ぜんぜん栃木県民だと思います。こういうと栃木の人に失礼かもしれないですけど、東京の人に比べるとすごいのんびりしてると思います、空気感が。おだやかでもないけど、そんなにせかせかしてない。そこは変わってないと思います。そこは田舎のいいところなので、取り除こうとは思わないです。やっぱりたまには帰りたくなるので。
--いま実家に帰ったら何してるんですか。
けちょん 超だらだらしてます。昔の自分に戻れますね! 座ってたらお茶出てきてお菓子も出て、テレビ見て昔からの親友と遊び行って(笑)。だいたい弾丸で一日で帰っちゃうんですけど、絶対太って帰ります(笑)。ほんとワンマンしたいな、栃木! 親呼びたい! めっちゃ仲良い親友とかにも見てもらったことないんですよ。ギュウ農フェスの時も皆社会人で忙しそうだったしなんか自分が不安でいっぱいだった。けど今のゆるめるモ!は観てもらいたいって思うからいつか栃木のみんなを招待してやりたいです!
■ゆるめるモ!告知
ゆるめるモ!6月にミニアルバム発売!
そして7月より全国ツアー開催決定!!
「ゆるめるモ!夏ツアー(仮)」
・7月7日(金)愛知・名古屋SPADE BOX
open 18:30 / start 19:00
・7月9日(日)大阪・ESAKA MUSE
open 16:30 / start 17:00
・7月16日(日)香川・高松MONSTER
open 15:30 / start 16:00
・7月17日(月・祝)福岡DRUM SON
open 15:30 / start 16:00
・7月23日(日)東京・赤坂BLITZ
open 17:00 / start 18:00
前売 standing¥4,500 (税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付)
当日 standing¥5,000 (税込・入場時別途ドリンク代・整理番号付)
※小学生・中学生・高校生は公演当日に¥1,000キャッシュバックいたします。学生証(保険証)を必ずをお持ちください。
https://www.hipjpn.co.jp/archives/44645
◆次回は福岡出身の必殺技が頭突きのアイドルに上京話をうかがいました。お楽しみに!
取材協力:渋谷LOFT9
―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 大坪ケムタ)
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