韓国の平和な村にある日突然“よそ者”がやってくる。彼の謎めいた噂が広がるにつれて、村人が自身の家族を残虐に殺す事件が多発していく……。謎が謎を呼ぶ壮絶怪奇サスペンス・ホラー『哭声 コクソン』が3月11日より公開となります。
日本人俳優の國村隼さんがよそ者である男を演じ、韓国の映画賞・第37回青龍映画賞で外国人俳優として初受賞となる男優助演賞と人気スター賞のダブル受賞を果たした本作。『チェイサー』『哀しき獣』等、韓国スリラーの名手、ナ・ホンジン監督による巧みで恐ろしい演出は映画ファン、ホラーファン必見です。
今回は、ナ・ホンジン監督と國村隼さんに2ショットインタビューを敢行。作品へのこだわりから、日本映画には無い韓国映画の特徴まで色々とお話を伺ってきました。
―本作、大変恐ろしく拝見させていただきました。ナ・ホンジン監督らしい心臓が裂けそうな程の緊張感はありつつも、過去作品とは全く異なるアプローチも感じました。
ナ・ホンジン監督:今回の場合は「殺人事件」の描写はしていません。前作『哀しい獣』では殺人の描写にかなりこだわりましたが、今回は美術的な部分だけで表現しようとしました。例えば、人間はヘビを見て恐れるじゃないですか? それと同じ様に、“人間の誰もが知っている恐怖”を作り出そうとしました。そして、そういった恐怖を直接描くのでは無く、恐怖を抑え付けて自制する事によって、観客が最後まで離れない様な、そんな努力をしました。
具体的に言うと、不幸が目の前にあったとしても人間は何もする事が出来ない、という事です。人間は崇高で偉大で価値のあるものだと言っているけれど、実際には何も出来ない、皆が気付いているけれど知らんふりをしている、そんな話にしようと思いました。
―よそ者である“山の中の男”というキャラクターですが、よそ者というのは、他の言葉で表現するのが難しいほど不穏で恐ろしく意味深なニュアンスを持っていますよね。どういった所から、このキャラクターが生まれたのでしょうか?
ナ・ホンジン監督:「新約聖書」のイエスから非常に大きなヒントを得ています。映画全体も、イエスと、イエスを迎えるユダヤ人の関係をベースに作りました。イエスがエルサレムに向かう時、ユダヤ人はイエスにまつわる色々な噂話を耳にします。「奇跡を起こした」とか「神の子である」という。そして、実際にイエスを目の当たりにした時に“混沌”を感じます。噂を信じる人もいれば信じない人もいて、結局イエスはユダヤ人に殺害されてしまうわけですが、そうした人類史上における最も大きな混乱を引き起こした「イエス」をモチーフにしたのです。
―國村さんは役作りの前にそういったお話を監督から聞いたのでしょうか?
國村:イエスである、という直接的な話は聞きませんでしたが、この男を演じる上で中身を悪魔で演じるのか天使で演じるのか、という話をしました。この山の中の男というのは、監督がイエス・キリストだと思って作ったのはよく分かります。僕は脚本を読んだ時に「池に投げ込まれた石」の様なキャラクターだと思ったんですね。異物が波紋を広げて、その異物がどの様に池に影響を及ぼすのか、という所を意識しながら演じました。撮影の途中に、スピリチュアルな話も含め監督と色々なお話をしましたが、結局最後は「どちらともとれる」という所をお客さんに楽しんでもらわないといけないな、と思いました。
―國村さんは本作で、韓国本国でも素晴らしい評価を得ています。私も拝見して本当に恐ろしく、國村さんにしか出来ない役だと思いました。韓国映画の現場に参加して感じた事などがあれば教えてください。
國村:韓国映画を観ると、俳優さん達の勢いというかモチベーションが凄いので、それをどうやって現場で維持しているんだろうという興味がありました。そんな中でのオファーだったのでとても嬉しかったんですが、一番感じたのは、まず韓国映画における「監督」というのは絶対権力だということですね。全ては監督からしか出てこない。逆に監督は全ての責任を負わないといけないという事でもあります。
後、韓国ではエンターテイメントのヒエラルキーの中で映画が一番高いんですね。なので、その映画に携わっている人々のモチベーションとプライドが高い。そして、5,000万人の人口のうち1,000万人が映画館に足を運ぶという国ですから、お客さん側のモチベーションもすごく高い。映画というものを本当に愛している。
國村:とあるシーンで警察官役のクァクさんが “つるはし”を振り上げるシーンがありますが、あれは本物のつるはしで、現場でも何回も何回も打ってたんですね。「工事でもしてるんか?」ってくらい(笑)。あれは実に恐いシーンでもありますし、演じていて大変だっただろうなとすごく思います。
ナ・ホンジン監督:日本の俳優さんがそうなのか分からないのですが、韓国の俳優は、今回の國村さんとクァク・ドウォンさんの様に主役級の俳優が向き合うと、演技を超えて、真剣勝負が始まっているのでは無いかと思うほどの気迫が出るのです。俳優さんは凄いエネルギーを噴出しながら演技をしているので、僕が何かを言える様な状況じゃなかったんですね。なので、つるはしのシーンも「疲れたらやめるだろう」と思ってそのままにしていました(笑)。結局、100回くらいかなあ、撮影の後クァク・ドウォンさんは手首を痛めていましたね。
―國村さんは今回の賞を受けて、改めて日本人俳優の海外での活動について感じられた事はありますか?
國村:この様な賞をいただき本当に有り難いのですが、僕は元々違う国の人達と一つの映画を作るというのを面白がれるたちなので、映画の現場にいることが本当に楽しいんですよね。また、僕が初めて出演した映画は井筒和幸監督の作品で、その後リドリー・スコット監督の作品に出て、その後が香港映画と、よく考えると僕の映画キャリアというのは海外からはじまっているとも言えるかもしれません。映画を作るというのは色々な国のみんなが集まって作っていくんだ、というのを前提に考えているからかもしれません。もちろん、おっしゃった通り、初めて出た韓国映画でこの様な賞をいただけて、韓国のお客さんが「日本の俳優さんって他にどんな人がいるんだろう?」と興味を持ってくれたら嬉しいし、日本の俳優もこれからどんどん(海外に)出て行くようになると思います。
ナ・ホンジン監督:今回、國村さんに映画に参加いただいて、本当にレベルの差を思い知らされたというか、他の俳優陣は間近で演技を見て、とても勉強させてもらったと思います。また出ていただくには『哭声 コクソン2』を作らないといけませんかね(笑)。
國村:あはは(笑)。ぜひ、よろしくおねがいします。
―今日は大変貴重なお話をどうもありがとうございました!
『哭声/コクソン』公式サイト
http://kokuson.com
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