あなたの愛犬は散歩の時に興奮しますか?他の犬に会った時に吠えたてたり、喧嘩を売ったりしますか?またはリードを噛んで暴れたりしますか?
もし、お心当たりがあるなら、愛犬は散歩の時にストレスを感じているかもしれません。吠えたり、暴れたりするのには、なんらかの理由があります。その多くは経験不足などから恐怖や不安を感じていることがほとんどです。他の犬に出会った時に怖いと感じても、リードで繋がれている犬は、逃げ場もありません。逃げることができないため、吠えるなどの行動に出やすくなります。もし、この状況でノーリードなら逃げることで解決できるでしょう。一方、攻撃的に振る舞う犬なら、迷わず攻撃をするために相手へ突進するかもしれません。この時に、うっかりリードを離してしまうと、相手の犬を殺すことすらあります。これは大きな代償を払うことになります。相手の犬を殺してしまった場合は、賠償をしたとしても償いきれないでしょう。
外の物や人を怖がる犬
いずれの場合も、社会化(社会のあらゆるものに慣れさせること)が不足すると起こる行動です。こうした社会化不足の犬は、子犬のうちに形成されます。子犬は、生後4ヶ月を迎えるまでに、100頭の犬、100人の人に触れ合わせる必要があります。この頃の子犬は、警戒心が低く、好奇心が旺盛です。好奇心の強いうちに多くのことにチャレンジさせることで、社会での振る舞い方、コミュニケーションのテクニックを学習します。この時期に、他の犬や他人と関わりがないと、見知らぬ犬や人を怖がるようになってしまいます。
生後4ヶ月までに他の犬や人と遊ぶことで、他者を敵ではなく、仲間だと感じることができます。こうした社会化は生後4ヶ月までに土台を築き、その後も1歳半ほどまでは慎重に行う必要があります。
また、ペットショップにいる犬は、親犬、兄弟犬から早くに引き離され、オークションにかけられてペットショップに入ります。このため、親犬達からコミュニケーションの術を学べずにいます。この早期の引き離しの影響で、脳の発育を低下させるという研究結果もあります。こうした犬は、より慎重に社会化を行う必要があります。
(仔犬を親犬達から引き離すのには最低でも8週齢[生後2ヶ月]まで待つ必要があります)
ワクチンと社会化のジレンマ
しかし、多くの動物病院では、子犬を迎えた飼い主に「3回目のワクチン接種を終えるまでは、他の犬や人に合わせないようにして、外に出してはいけない。」とアドバイスをします。これは感染症を防ぐために言われることです。大体のケースで3回目のワクチン接種が終わる頃には、生後4ヶ月以上になってしまいます。獣医師のアドバイスを守れば、感染症に掛かるリスクは無くなりますが、社会化不足の犬に育ち、外で攻撃的になったり、極端に興奮しやすくなったり、極度な不安を抱える犬に育ちます。感染症を防ぐことはとても重要です。しかし、社会化は生後4ヶ月を迎える前に終わらせないと、その先にチャンスはありません。これを”ワクチンと社会化のジレンマ”として、多くの動物行動学者や心理学者が社会化の重要性を訴えています。
飼い主の責任において実行すべきことは、2回目のワクチンが終わったら散歩に出ることです。この際に注意すべきは、森や川、海などの感染症にかかりやすい場所は避けることです。都市の道や公園なら比較的安全です。他の犬との接触も行いますが、相手がワクチンを接種している場合に限ります。そして子犬のうちは頻繁に病院に行き、体調を確認します。こうすることで、社会化を実施でき、病院にも慣れてくれます。
社会化を取り戻すために
成長した後の社会化には多くの時間が必要です。何しろ、怖がるということを学習した後ですから、学習前より難しくなるのは当然です。また、多くの時間を費やしたとしても、子犬の頃に社会化された犬とは比較にならないでしょう。子犬の頃に社会化された犬は、他の犬や人にフレンドリーに振る舞えます。成長後の社会化訓練では、フレンドリーとまでは行かないかもしれません。でも、相手を無視したり、犬の挨拶くらいはまともにできるようになります。こうして時間をかけてコツコツと社会化訓練を行うことで、恐怖感を限りなくゼロに近づけることはできます。
犬を安心させる歩かせ方
怖がる犬を安心させる方法の一つに、歩かせ方があります。犬は怖いと感じた時に飼い主の側に戻ります。信頼できる飼い主のみが心の拠り所だからです。しかし、外に出て興奮気味の犬は、飼い主の前でリードを引っ張って歩きます。常に前を歩く犬は、ふとした刺激(苦手な対象に出会うなど)を受けても飼い主の存在が頭にありません。怖がりで、興奮している状態では、冷静な判断が効くはずもなく、拠り所である飼い主の存在に気づけずにいます。故に、吠え掛かったり、攻撃的な行動をとりやすくなります。
犬を安心させるには、飼い主のそばを歩くようにすることです。常に視界に飼い主がいるようにします。間違っても犬に飼い主を引っ張らせないことです。飼い主の側とは、飼い主の横側面か、後方です。この位置なら犬から飼い主もよく見えています。また、散歩中は犬と頻繁にコンタクトを図り、こちらに意識が向くようにしておきます。うまく歩けているときは、小さくちぎったオヤツを与えたり、「いい子」と褒めます。犬が興奮して前へ出たら、声をかけて飼い主に意識を向けさせることで、後退します。元の位置に戻ったら褒めます。時に頑として前から下がらない時もあるでしょう。この場合は、黙って止まります。しばらく待っていれば「どうしたの?」という感じで戻ってきます。待っている間は、無表情で、犬を見ず、話しかけないようにします。犬が戻ってきたら笑顔で褒めてから歩き出します。
意識と意識をつなぐ
こうしたやり取りを続けていると、犬は飼い主のそばを歩くようになります。リードは張らずにゆったりと弛んでいます。つまり、緊張感のない散歩ができるということです。犬は飼い主に意識を向けながら、共に歩くことができます。リードを引っ張る犬は、飼い主の存在を無視して一人で歩いているようなものです。散歩は人と犬で歩くことが大切です。黙って歩いているように見えても、お互いにリラックスした歩行では、静かな意識感のコミュニケーションが行われています。だからこそ、犬は飼い主のペースに合わせて歩くことができるのです。もちろん、歩く速度は、愛犬の体格によっても異なります。愛犬がゆったりと歩ける速度で歩くことも重要です。
この歩き方では、犬が飼い主を意識しているので、嫌な対象に出会ってもすぐに飼い主に頼ることができます。飼い主は愛犬のメッセージを素早く受け取り、こちらに意識を向けた愛犬に「いい子」と声をかけて安心させることができます。他の犬が苦手で、すれ違うのが困難な時は、愛犬に声を掛け続けたり、相手と安全な距離を保つことで犬は落ち着けます。距離を置くときは、決して抱いてはいけません。歩かせながら安全な距離を取ります。自分の足で歩いて回避することが重要です。過保護になって抱き上げて回避すると、嫌な対象に慣れることができず、飼い主への依存を強めてしまいます。
怖がりな犬でも、飼い主と意識が繋がっていれば安心できます。決して一人で歩かせないようにして、コミュニケーションをとりながら散歩をすれば、嫌な対象へも少しづつ慣れていきます。もし犬が何かに怖いと感じても、飼い主がすぐに助けてくれることを知っています。なので、困った時は飼い主へ助けを求めるので、過剰な反応をする必要がありません。
こうした犬と人の関係では、犬が安心できるような飼い主でなければなりません。飼い主は姿勢を正して、自信を持って歩くことです。反対に背中を曲げて自信のなさそうな様子では、犬は安心できません。
私は、冒頭の画像のように歩いています。リードは腰に固定して、手ぶらで歩きます。犬たちが匂いを嗅ぎたがるエリアでは、リードを手で持って匂いをしっかりと嗅がせます。広い場所に着いたら、ロングリードに変えて自由に行動させます。それが済んだら元の体制に戻り、今度はしっかりと歩きます。
いかがでしょうか。歩行のトレーニングには、根気が必要かもしれません。コツは一貫性を持って続けることです。愛犬と意識と意識でつながった状態は、とても幸せを感じるひと時となるでしょう。毎日の散歩はとても重要なコミュニケーションのチャンスです。犬を孤独にさせずに、共に歩いてみてはいかがでしょうか。きっと飼い主も愛犬も、毎日の散歩が素晴らしいひと時になるでしょう。
[TOP画像は著者が撮影したもの]
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(執筆者: 田中 雅織) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
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