体罰考(9) 座禅では「指導」、学校では「体罰」

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

■体罰考(9) 座禅では「指導」、学校では「体罰」(中部大学教授 武田邦彦)
日本人の多くの人があこがれ、「良いことだ」としている「座禅」では、少しでも気が緩むと後ろからビシッと棒で叩く警策(ケイサクもしくはキョウサク)で痛い目にあいます。

「警策無くして座禅無し」という人もいるぐらいで、座禅中に気が緩んだり、集中力が切れたり、眠くなったりするとビシッと思い切り叩かれます。 座禅では警策で叩く作法は一応決まっていますが、それでも「体罰」であることは間違いありません。 しかし、座禅はこれを「体罰では無く、指導だ」とし、日本社会も「座禅の警策は体罰だ!とんでもない!」と避難しません。

人を叩いても座禅ならOK、クラブ活動なら「ゼッタイだめ!」というのはなぜでしょうか? 次のようなことが考えられます。

1)お坊さんは好きだけれど、先生は嫌い

2)座禅は大人が叩かれるけれど、学校は子どもが叩かれる

3)座禅は自由意思だが、クラブ活動は強制

4)座禅で叩かれるのは良いこととされているが、クラブ活動では悪いことになっているから(循環論法)

5)座禅では叩くのが正しいとされているのでルールがあるが、学校は叩くのはいけないのでルールが無い

多くの人は、2)か3)、つまり学校では子どもが叩かれるからダメとか、強制だからと思っています。 でももともとは「叩いて教育する」というのは子どもが対象でした。 座禅で警策ができた頃は子どもを叩いて教育するのは当たり前で、むしろそれを大人にも適応したとも言えます。

また、「高校生は子どもか?」ということについては、体としてはほぼ大人で、精神的には「高校生+保護者」で大人という事になります。たとえば高校生一人では決められないことは、保護者と相談して意思を決め、あるいは学校に意見を言うなどの大人としての行為ができるのです。

次に、座禅が自由意思だが、高校のクラブ活動は強制だと言うけれど、クラブ活動は止めることができます。しかし現実的には、親がクラブ活動を止めさせたくないとか、本人がクラブ活動を止めるとみんなにいじめられるなどの理由で止められない場合もありますが、これは体罰より恐ろしい「集団の力」ですから、そちらの方を直さなければなりません。

クラブ活動を止めると現実的には学校を止めなければならないとすると、そのシステムに問題があることになります。高等学校の体育科のシステム設計に無理があったのでしょう。

2013年の1月に起きた大阪の桜宮高校の体罰事件、それに続く体罰報道では、「学校関係者は無能だ!庶民の方が教育は良くわかっている。生徒や保護者は常に正しく、先生は常に間違っている」という前提があるようです。でも、私の経験では子どもというのは結構、ウソをつくもので、根は深くないのですが、イタズラの延長線上で平気でウソをつく傾向があります。

たとえば新聞のトップにでる生徒の発言で、先生が否定している場合などを見ると生徒の発言がウソでは無いかと思うことが多いのです。子どもは「子どもらしいウソ」、つまり「すぐばれるウソ」も平気でつきます。

また、桜宮高校では体育科の入試がほぼ「政治側の命令」で中止になりましたが、なぜ入試を中止しなければならないのか理由は不明です。入試というのは自由意思ですから、これだけ微に入り細に入り報道されているのに、受験する子どもがいるというのはどういうことかを考えなければなりません。

情報さえ公開されれば、その情報に基づいて学校を選ぶのですから、もし桜宮高校の入試を行って受験生が多ければ「体罰はOK」と一気に逆転してしまいます。もともと日本の選挙制度も同じですから、本人に選択させるというのがもっとも良いと思います。

また、市長が全権を持っているわけでは無く、教育は、生徒、保護者、先生、管理職、教育委員会、市長、文科省が共同責任です。生成と保護者は善、先生と管理力、教育委員会は悪、市長は隔絶した能力を持っていて他の人より上にいるというのが前提になっています。

そんなことはないので、今回の体罰は騒動だけ多く、現実的な解決に結びつくかが疑問です。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

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