昼下がり。差し込む陽に交差する湯気の粒子がきらきらと反射する湯船。顔を上げると、湖畔の富士がたたずんでいる―― 早い時間の銭湯に足を運べば見られるであろう、ちょっと贅沢な光景です。
こうした銭湯の“風景”を描き続けてきた通称“ペンキ絵師”は、今、日本にわずか3人。内風呂の普及により、銭湯の数そのものが減ってしまったこと、後継者問題がその原因ともいわれています。
今では貴重な銭湯壁画ですが、その描き換えを一般公開するというのが、杉並の小杉湯。昭和8年創業、83年を迎える超老舗ですが、ミルク風呂、ジェットバス、日替わり湯、井戸水汲み上げの水風呂などを備える、古くも新しい、人気スポットの銭湯なのです。
「もう、なかなか見ることのできない銭湯壁画の描き換えを、一般のお客さんにも見ていただきたい」というオーナーの計らいに、ガジェット通信も便乗させていただきました。ちなみに通常は2年に1度くらいの描き換えペースらしいです。
作業当日、浅く差し込む陽の中で、デッサンをしていたのはペンキ絵師の丸山清人さん。御年81歳、ペンキ絵師としては日本最高齢にして現役の絵師です。組み立てた足場に乗った丸山さんは、着々とチョークで構図を決めていきます。
デッサンを終えた丸山さん、一服しながら“カンバス”を眺めます。おそらく、この時にはもう丸山さんの頭の中には完成した絵が見えているのでしょう。やおら立ち上がり、空や海の基となる水色のペンキを調合します。ちなみにこのペンキの入れ物、半世紀(!)使っているそうです。
そして、新たな足場を組みながら躊躇なく塗り始める丸山さん。足場の悪いところでは奥様が下を支えます。
「トータルで1万枚描いたようです。本人、何枚描いても疲れない、って言っています」
「ただ、今年に入ってヘルニアを患ってしまったので、今回描けるかどうかわからなかったんです。描けるようになってよかったです」そう、淡々と、だけどどこか嬉しそうに語る奥様はこうして支えながら丸山さんの創作を手伝ってきたのでしょう。
今回仕上げたのは、男湯は「西伊豆からの富士山」、そして女湯は「函館大沼からの駒ヶ岳」。作業の流れは、動画にまとめられておりますので、そちらもぜひご覧ください。(動画撮影:小杉湯/平松さん)
ペンキ絵師 丸山清人背景画
https://youtu.be/sxWqc2ZNSBA
「もともと好きなものを職にした」という丸山さん、2017年1月には中野ブロードウェイで個展も予定されているらしいので「もっと描かないといけない」と。
職人でもありアーティストでもある丸山さんが手がけた作品は、銭湯壁画の遺伝子を色濃く受け継いでいます。抜けるような空と水の描かれた富士を観に、あなたも銭湯に来ませんか?
取材協力:小杉湯
http://www13.plala.or.jp/Kosugiyu/ [リンク]
銭湯絵師・丸山清人 公式ホームページ
http://japan-fujiyama.com/
(写真:おさだこうじ/ 小杉湯、動画:小杉湯)