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2016年4月1日よりAmazonプライムで配信が始まった『仮面ライダーアマゾンズ』。7月からは配信オリジナル版を再編集した“テレビ版”がBS朝日とTOKYO MXにて放送開始された。
『アマゾンズ』はネット配信を主戦場とし、強烈なキャラクター像、人間関係と緻密な伏線、これまでのライダーでは見られなかった大人向けの表現など、多くの話題で特撮ファンを騒然とさせた。異端作でもあり王道とも言える今作を生み出したのはプロデューサー・白倉伸一郎さんと脚本家・小林靖子さん。一体この作品はどのようにして創り出されたのか、両名にお話をうかがってみた。

「結果的に伏線となる」キャラクターの生き方

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―― 『仮面ライダーアマゾンズ』テレビでも始まりました

白倉伸一郎さん(以下白倉P): まず(Amazonプライム・ビデオ用の)配信オリジナル版というのをやらせていただいて、その後テレビ用の再編集をするから、2度見てるわけですよ。すごい構成よく出来てるなと思うんですよね、振り返ると。後半のこれが、ここにちゃんと伏線が張ってあるっていうのが見える。実際は逆なんですよね、結末が決めてあって伏線張ってるんじゃなくて、結果的に伏線になってキャラクターなり物語だったりっていうのが、そっちの方向にいっている。架空のとはいえ、登場人物の人生・生き方にとって非常に重要な「種」みたいなものを、計算なのか靖子にゃん(※小林靖子さんの愛称)はちゃんと植えていくんですよね。

小林靖子さん(以下小林): 計算してないですね。
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白倉P: 今日は褒めますけど(笑)。

―― 今回は13話というくくりでしたが、ある程度の着地点は想定して構成や内容は作られたのですか?

小林: してないですね。最初は(着地点を)作りましょうかという話もあったんですよね。13話しかないから構成表だけでもという。

白倉P: 僕がそれを反対したんです。その気持ちはわかるけど4話くらいまでいってから考えようかって言ったらそのまま来ちゃった。

―― 反対されたのはなぜ?

白倉P:それは小林靖子だから、というのがあるんですけど。正直言うとわからなかったんですよね。水澤悠、鷹山仁、野座間製薬、駆除班と、4勢力あってしかも駆除班は大所帯。全体として「こういうお話ですよ」「こういう展開ですよ」というよりは「世界観をどう構築できるか」というのが勝負なんじゃないかなと思いました。

虫とムシ

白倉P: 番組が特殊なのか、スタッフが特殊なのかわからないですが、割とプロットの段階から“場所”に関しては(小林さんに)ご相談させていただいていました。マンション然り、スクラップ工場然り、研究所もそうですけど、脚本に関わっていただく前段階で具体的な場所、ここで撮影しようという目星がついてから脚本にかかっていただきましたね。
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―― 「対立する2人のアマゾンを主役にする」というのは当初から?

小林: 対立とまではなかったけど「2人」って話でしたよね?あとはアマゾンだから「モグラ」出ればいいなーっていう。

白倉P: モグラはほしいなーと。

―― となるとトンボはヘビトンボ?
(※初代『アマゾン』にはヘビトンボ怪人が登場していた)

白倉P: そういうわけではなかったんですけどね。駆除班がアマゾンを「ムシ」と呼ぶんですけど、コウモリを除くとだいたい虫だよねという話もありつつ、でもその時点で蟻も蝶も製作が進んでいたんです。本来「ムシ」というのは単なるアマゾンを指す隠語であったんですが、このままだと昆虫系限定のイメージになっちゃう。トンボじゃないほうがよかったなぁと後になって思いましたね。

小林: 虫の怪人だから「ムシ」って呼んでるように見えちゃうよね。モグラがいてくれたけど。

白倉P: (トンボは)駆除班のメンバーなので、カッコいい方がいいかなと思ったんですよね。過去だと『(仮面ライダー)ドレイク』『V3』とかヒーローになりうるモチーフでってことだったんですけど、デザイナーに発注して結果的には「しまったー!」と。未だにトンボにしたことを後悔してます。

ニチアサではない脚本

―― 駆除班についてはいかがですか?

白倉P: (駆除班の人数は予定より)増やした…のかな?

小林: 死んじゃう人もいるので。

白倉P: 「ひとり殺そう」って言って。

小林: 結局、悠が駆除班に入るからっていう。でも最初「ちょっとこれ車に乗るには人数多すぎる」って話になって(笑)。

白倉P: 荷物積んだら人が乗れない。「なら2台分乗か…いやいやタクシーじゃないんだから!」って(笑)

小林: 死ぬから大丈夫みたいな(笑)。絶対減らせって言われると思ったんですよ。

―― 時間の制約の無さというのは配信という媒体ならではといった感じでしょうか

白倉P: 結果的にはそうですね。

小林: 脚本は全て30分尺のつもりで書いてました。後半はちょっと長いけど、『(仮面ライダー)龍騎』の頃もあのくらいだったかな。
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白倉P: どうも(たくさん)撮ってるなあ……と思ったんですよね。「1話が46分になりました」って言われたけど、それ1時間番組の尺より長いんです。まず真っ先に考えるのは「これ2話分に割れるかな」ってことでした。

小林: でもそれだと1話でライダー出てこないですよね?

白倉P: でも2話に割れると、現場的には1話分減らせるから、これはお金が浮くなあって思ったんです。真剣に考えるんですよ10分くらい。「ココとココを入れ替えれば……」とか「予告で出せば……」とか。でも全然無理でしたね。

『仮面ライダー』であることと“規制”

―― 地上波と配信では規制は緩かった?

小林: 一応地上波でも出来るレベルで、と最初からお話を聞いてましたね。

白倉P: みなさん良識あるので、エロ・グロ・ナンセンスはやらんというか……『仮面ライダー』なのでね、当たり前ですけど。
これが「正統だ」というつもりでやらないといかんのですよ。たまたま舞台はAmazonだったけど、これはやっぱり『仮面ライダー』ではあるので、色んな制約というか、外部的要因じゃなくて自主規制ですよね。顔ぶれ的にはニチアサ(※日曜朝)と同じメンツでやってますからね。
“マンション”であれ、“人喰いレストラン”であれ、それが話題性になるというか「これテレビで出来ないよね」ということで客を引こうったって引けないので、そういうのでハメを外そうというのは無いですね。

“テレビとまた違う価値”のネット配信

白倉P: 今回僕が楽しかったのは、ネット配信でも「来週が楽しみ」という感覚を作れるというところでした。とにかく引きを強くするっていうのを小林さんがやってくれて(よかった)。

小林: 気を引ければなんでもアリっていうかね。

白倉P: 配信の特徴っていうはテレビとは全然違うんだ!というのを散々僕が小林さんにお話して脅かせすぎたのかもしれない。
テレビ版と同じフォーマットでやるけれど、配信版はみんなまず1話を見る。「どんなに評判を取っても、突然3話や7話とか途中から見る人はひとりもいないと思ってください」と。
どんどん客が減っていってしまうのをどう食い止めるかというのが我々の勝負なんです。そこがテレビと全然違うところですよ。途中参入はありえない。最初で……1話で決まっちゃう。尺の話もそうなんですけど「制約がないから40分以上」というよりは「1話できちんと満足できる完成度」というのが無いと次がない。これは普段やっているテレビとはまた違う価値があるなとお客様に思っていただかないと生き残れないんですよね。

「途中からみんなに好かれようという配慮はしなくなった」

―― 脚本の書き方で「ネット配信」という媒体を意識される部分はありましたか?

小林: 書き方は同じですね。尺も一応決めてますし。ただ、最初の方は万人に、というか沢山視聴者……というか見てくれる人を増やしていく方向で。「でもだんだん減っていくもんで途中からは好きな人しか見てないから」って(白倉さんが)おっしゃってたんで、みんなに好かれようとかいっていう配慮はだんだんしなくなりましたね。

白倉P: だんだん濃くなっていいというんですかね。少なくとも、1~4話……6話あたりまでは“人喰いレストラン”はダメなんですよ(笑)。
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小林: 私も、ちょっと序盤は主人公がヒーローっぽい決意っぽいことしてみたり……とかあるんですけど。「主人公のこと好きになってくれなくてもいい」とか「ヒーローものじゃない」ってとこに、自分でも躊躇はしましたけど「まあいいか」っていう。気にしないようにしようっていう。

白倉P: 振り落とされるような人は、その話を見る頃にはすでに振り落とされてるっていうことですよね。いい言い方するとどんどん濃くしていくよってことなんですけど、逆にビジネス的な話で言うとどんどん……金を節約していくよというのもあったんですよ。

―― (笑)

白倉P: 実際そういう傾斜配分してるんですよ。さあ、最初はぶっこむぞ!と。着ぐるみを作りたおすぞ!と。終盤というか後半以降は…作らないぞ!と(笑)。デザイナーもどんどん描いてきてくださるんだけど「いいね! いいデザインだね!……(既にあるものの)改造で!」みたいな。

小林: クモ怪人はカニ怪人でいける、みたいな。毛ガニいるから大丈夫(笑)。

――もしかして“人喰いレストラン”はカニバリズム(人肉を食べる行動)だからカニだったんですか?

白倉P: よく解っていただきました! 思いついた時に、この人(小林)を筆頭になぜみんなわかってくれないのかと。だからカニなんだよ!って言ってもみんなキョトンとして。

―― ちなみに「なんなんだこのアマゾンの大安売りは」という台詞も狙って?

小林: あれは普通に、素直な感想です(笑)。なんの意図もないですし、普通に思っただけです。

白倉P: でもこちらは「ヒャヒャヒャ!」って(笑)。

「見てみたいと思っちゃった」監督たち

白倉P: 田﨑監督のすごいなあというところは、お金というか現実性・実現の可能性にもからむから緻密にやらないとって言って、撮影所に集まるわけですよスタッフが、ホワイトボードを使いながら「この部屋から脱出して、ここに調査班が到着してここで合流して……で、ここの動きが無駄なので脚本はこうしましょう!」と図解で説明するんです。「なるほどー」と。

小林: そこの直しが最高に面倒くさかった記憶がある(笑)。

白倉P: 脱出するって話になると、入ってきたところに戻るみたいな話になっちゃうから、どうにか一方通行に出来たほうがいいよねという。今回はゴールを給水塔に設定しましたけど「1階から屋上まで突っ走るというその過程で色々と障害物がある。そういうシチュエーションが組めれば盛り上がるよね」という解説を田﨑監督に受けながら「あ、そっちの方がいい」と。

小林: 長すぎた部分もカットできたし。

白倉P: 給水塔ってのはどこのマンションにも必ずあるから、そこに薬をぶち込むと水道を通って全戸にガスが行き渡るっていう、そういう流れにするとゴール地点を屋上に設定できるんじゃないかなと僕は思ったんですけど、田﨑監督はさらにその上を行っていて「水道は蛇口が閉まっているのでガスは出ません!」と(笑)。理屈ができるところが彼の凄いところなんですよね。

―― 他の監督に関してはいかがでしたか?

白倉P: 金田監督でいえば、金田さんといえばJAE(ジャパンアクションエンタープライズ)という、ニチアサを支えてくださっているアクションクラブの総帥なわけじゃないですか。
今回はGocooさんという違うチームにお願いしているわけですが、お互い名前は知っているけど会うのも初めてだし、ガッツリ組むのも初めてだったんです。アクション監督の田渕景也さんなんか戦々恐々としてるんですよ。「たのむから監督に金田さんだけは呼ばないで!」と思ってるらしいというのを人づてに聞いたんで、だったらばと!(笑)。見てみたいと思っちゃったんですよね。でもお互いアクション界の人間だからなのか、たちまちのうちに意気投合してものすごい話が合ってアイデアを出し合う。でも建設的な議論になるのはいいんだけど、多すぎちゃって。撮っても撮っても撮りきらんという。

“画面という窓”と人の距離

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―― 映画からテレビ、テレビから配信という媒体の移り変わりがありますね

白倉P: 距離感ですよね。一番わかりやすいのは自分とスクリーンとの距離。映画は遠い、テレビはお茶の間、配信は手元。画面サイズうんぬんなどはあるけれど、お客さんとの距離感ですよね。ただこれ以上接近はできないですよね。VRとかはあるけど。
(今後)二極化すると思っています。日常と非日常があるとすると、ものすごい日常っていうのは映画では“距離”があるからできないですよね。バラエティみたいなのを映画でやりますっていっても見たくないじゃないですか。でももしかしたら配信はテレビを駆逐するかもしれないですよね。バラエティ的なものっていうは配信のほうが向いてるかもしれない。3分以下のちょっとしたクリップっていうのはテレビで見るよりも、動画サイトとか距離の近い媒体で見たほうがすごく身に迫りますよね。その一方で、ファンタジックというか、スマホのような小さい窓から思ってもみないすごい世界が広がっていくっていうのは、映画館でみるとすげーなーとも思うけど、たったこれだけのサイズの窓でも、この先にすごいものがあるってより身に迫ることもある。今はテレビフォーマットというものに紐付けられてますけど、もう少し何か出来るような気がしてならないんですよね。
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昭和ライダーのヒロイズムと“異形”

白倉P: 一時期本気で考えてたんですよね。「初代仮面ライダー第99話が発掘されました」という設定の作品を作れないかとか。(※初代は98話まで) でもあのノリが作れない。文化的な背景が全然違うんですよね。『アマゾン』も『仮面ライダー』シリーズという切り口で今見ると異色作なんだけど、当時はそんな異色作じゃないんですよね。ちょっと前に『狼少年ケン』も『ターザン』もあるわけだから。まあこういうのもアリだよねっていう。

『仮面ライダー』って異形のものだよってなってるはずなのに、異形のものがいつの間にかスタンダードになっていって、1号、2号、V3と並んでいった時にアマゾンが“異形”になってる。で、異形だからダメだってなってるとそれはまずい。スタンダードじゃないからウケたはずのものが、スタンダードじゃないから(ダメ)……ってのは当時のスタッフは非常に悩んだかもしれませんね。

―― 異形であるという部分が置き換わってきている?

白倉P: 仮面ライダーも、スーパー戦隊もそうかもしれませんけど、所謂誰が見ても「かっこいいよね」っていうのは平凡なんですよね。そうではなくて「これは変だけど妙にカッコいい」というのが、作家性だったりするしその方が印象に残るじゃないですか。
結果論として振り返ってみれば「仮面ライダーってカッコ良かったよね」ってことはあるかもしれないけど、本当は所謂“カッコよさ”とは違うんですよね。カッコ良くないはずのものがカッコよく見えるって瞬間に本当はヒロイズムがあるんじゃないかなってそんな気がするんですよね。この先、というと変だけど「何それ!?」というのが出てきてカッコ良く見えるって言う瞬間が続くといいなあと仮面ライダー的には思ってますけどね。

(※ちなみにこの取材時点で『仮面ライダーエグゼイド』は未発表)

―― もし他ライダーをリメイク、リブートするとしたら

白倉P: 『(仮面ライダー)X』見たいですねえ。自分がやりたいじゃなくて見てみたいですね。『X』大好きなんですよ。子供心にテコ入れされていくっていう感覚があるんですよね。『(UFOロボ)グレンダイザー』で(マジンガーZの)兜甲児が来ちゃったよ! みたいな。

小林: そんなこと思ったことないです。普通に見てましたけど(笑)。

白倉P: そうだ「テコ入れのいらない作品作りをしないとダメだ!」と思って東映入ったんだ(笑)。

『Season2』で、ただの“14話目”を作るつもりはない

――『アマゾンズ Season2』も来年に決定していますがどんな内容になるでしょうか

白倉P: 単純に続編、というのはやりたくない。悠、仁、駆除班の面々みんなに愛着はあるし『Season1』自体大好きなんですが、これをそのまま引き継ぐというのをやるとただの「14話」でしかない。でもそれは6月24日に13話が配信されたあとの7月の頭にやるべきことな気がするんですよね。来年なので、それなりの成長というか、そういうのがなければ。全然違うものになるかもしれないし……というのを今後……いつ打ち合わせしましょうか?

小林: わたし『Season2』がありますって発表のある前日に聞いたんですもん!

―― 元々サブタイトルの頭文字はAからZまで行く予定だったのでは?

小林: もしなんかあった時のためにくらいのやつですよ(笑)。

白倉P: そうなったらいいなぐらいの(笑)。

――『Seazon2』も期待しております。今日は本当にありがとうございました!

これまでに数々の特撮作品に関わってきた両氏。白倉さんのヒーロー観は、いままでの「平成ライダー」が目指していたものの核心ではないか、とインタビューを通して強く感じた。

異形であるライダーを取り戻したとも言える『仮面ライダーアマゾンズ』、来年開始予定の『Season2』にも大きな期待がかかりそうだ。

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仮面ライダーアマゾンズ | 東映[テレビ]
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(C)2016「仮面ライダーアマゾンズ」製作委員会 (C)石森プロ・東映
画面写真は東映『仮面ライダーアマゾンズ』HPより引用

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