こんにちは、マガジンハウスです。今回の推し本のタイトル‟自分史上最多ごはん”、気になりますよね。これには定義がありまして、「人生でもっとも多い回数食べている、ただしおうちのごはんではなく、特定のお店の、特定のメニュー」(本書より)とのこと。(そう聞くとすぐに「自分の最多ごはん、なんだろう?」と考える方が多いかと思いますが、これが結構難しくて面白いのでマジおすすめ)
この本で紹介されている、75人の食通の方々が偏愛する一品は、そのエピソードも合わせて気になるものばかり! 取材、執筆を手掛けられた‟偏愛系”フードライターの小石原はるかさんに、裏話を含む色々と伺ってみました。
――――小石原さん、この本読んでたらお腹空いちゃいましたよ!
小石原 「ありがとうごさいます(笑)」
――――実は私、ゲラの時点から、読みながら「この店行こう!」なんてチェックしてて(笑) BRUTUSでの連載時も気になってたんですが、この”最多ごはん”って切り口は、あまり他ではないですよね。
小石原 「確かに他では聞いたことないですね。元々はヰタ・セクスアリスみたいな感じで、‟ヰタ・食スアリス”をやりたかったんです。でもそれってすごく個人の感覚の差が大きいし、共有しづらいじゃないですか。漠然と『あなたの食の目覚めのメニューは何ですか?』って聞かれても、なかなか答えづらい。一方で、回数っていうのはすごいロジカルだし、わかりやすいし、語っていただきやすいからいいなと」
――――確かに回数ははっきりしてますよね。……と言いながらですね、さきほどマガジンハウス宣伝プロモーション部のおじさんたちと考えたんですよ。「自分たちの‟最多ごはん”は何だろうか」って。そしたらすぐ思い浮かばなかったんですね。せいぜい時間がないから仕方なく選ぶファストフードとか。それで、改めてこの発想がすごいなと思ったんです。みなさんすぐ答えられました?
小石原 「それが、結構迷いがないんですよね。複数挙げてくださる方もいらしたり」
――――一冊まとめて読んでみると、思ってるよりもみなさんケタが大きいですよね!
小石原 「そう!(同じメニューを食べた回数が)三ケタの人が割と平然といたことには、私も驚きました(笑)」
――――最初に登場される小山薫堂さんがもう200回<大越>のハンバーグを食べてらっしゃる(笑)。土井善晴先生も、<聚楽園>に45年通ってたり。
小石原 「ね、小学校から食べてるとなどいったメニューがいっぱい出てきてビックリしました」
――――取材してみて、思ったより多いなと?
小石原 「たぶん多いだろうとあらかじめわかっていた、例えばパラダイス山元さんの<餃子の王将>や、石黒謙吾さんの<ゆうじ>は、もうはじめから見込んでお願いしていたんですけど、それ以外にもみなさんかなり超えてるなって」
――――ちょっとね、200回とか300回ってどういうペースで食べてるんだろうと。
小石原 「すごいですよね(笑)」
――――人選はどのように?
小石原 「基本、知り合いベースです。連載の初回は、昔から仲良くさせて頂いているパラダイス山元さんで、明らかに<餃子の王将>が出てくるだろうと。そして見事に期待に応えてくださって」
――――それで初回で500回が出てしまったと(笑)。ところで連載スタート時の、小石原さんご自身の‟最多ごはん”は何でしたか?
小石原 「それがね……困る質問で(笑)」
――――すごく聞かれますよね、絶対。
小石原 「聞かれるんですけど、レストランの記事を書く仕事上、いろんなところに行かなきゃいけない状況にあるので、一軒で回数稼げないんですよ。焼肉だったら<ゆうじ>とか、ジャンル別にはありますが、全体の最多ってなると『うーん……』ってなっちゃうんですよ」
――――この本を読んでても、そういう展開を期待して、トリは小石原さんご自身が出るのかなと思ったら、BRUTUSの編集長でした(笑)。
小石原 「意表ついたでしょう(笑)。お一人だけセリフも長い(笑)」
――――では、未だに答えが出てないんですね。
小石原 「ですね。聞かれたら言いよどんだままというのが続いてます。それに、みなさんのほうが偏ってた! 私はたぶんあちこち行き過ぎて、さながら浮気性の人状態になっちゃってるんで、愛を貫けてないのかもしれないです」
――――偏愛系ライターなのに(笑)。
小石原 「うどんをずっと食べているとか、最多アイテムというのはあるんですが、うどんも結局色々食べちゃうから一軒に偏れないんです」
――――仕事上、ですよねえ。
小石原 「って言いながら、お仕事の大先輩、マッキー牧元さんには本書にご登場いただいているっていう(笑)」
――――(笑)。みなさんご職業も多岐に渡って、しかも著名な方が多いんですが、人間的に共通項ってあるんですか? 偏愛の気質というか。
小石原 「どうだろう……私と何らかの接点がある方が大半なので、ちょっと変わってる人は多いかな(笑)。私が変わってると言われがちなので、類は友を呼ぶというか……、これ語弊あるかな、大丈夫かな(笑)」
――――確かにこの本を読むと「ああ、この人変わってるんだ」って思ったところもあります(笑)。
小石原 「それに、意外な人が意外な店やメニューを挙げたりもしたんですよね」
――――具体的には?
小石原 「意外なメニューという点ではやっぱり北方謙三先生ですかね」
――――<大和屋 三玄>の赤出汁!
小石原 「そうそう。え、それ!? って(笑)。もっとなんかこう、高級料亭のうやうやしい一品が挙がってくるかなと思っていたら、朝ごはんで召し上がってる赤出汁(594円)っていうのが意外で」
――――でもこれ見ると、食べてみたいなあって思いました。
小石原 「ね。北方先生仕様で味わってみたいですよね」
――――そして北方先生仕様に、自分でも豆腐を2mm角に切ってみたい(笑)。
小石原 「なかなかこのサイズには切れないですよ~」
――――私はこれも意外というか驚きました。長友啓典さんの<竹葉亭>オリジナルオーダー。
小石原 「白ご飯に鯛茶漬けとうなぎの蒲焼き、両方つけちゃうっていうね。贅沢ですよね」
――――マガジンハウスにも近いので、予算が許すなら真似してみたいと思いました!
小石原 「いいですよね。つい最近も長友さん召し上がってfacebookにアップされてました。リアルに‟最多ごはん”だなあとうれしくなりましたね」
――――小石原さんでも、この店は知らなかった! っていうのはありましたか?
小石原 「それはありますよ、いっぱい」
――――え、それは意外!
小石原 「知らないお店もありましたし、知っていたけどこの取材で初めて行ったというお店も。知らなかった中で一番びっくりしたのは、浦風親方の<ちゃんこ 加賀>ですね。ここのご主人、有木さんは肉を焼く天才だと思います。下ごしらえすることもなく、塩コショウだけで焼くビーフステーキが絶品なんです」
――――さすがですね。敷島関、現役時代ファンでした。
小石原 「あ、ここも驚きました。武蔵小金井なんでちょっと行きづらいんですけど、トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕さんの<カレーの店プーさん>。とにかくおいしい! 素揚げ野菜の量がすごくて‟山を踏破する感”があって」
――――中村さんっていうと、なんていうか、青山のhipなレストランとかカフェなのかと思いきや…。
小石原 「中学の頃から食べてるという、ガチなメニューをご紹介くださいました。あと、私は今年は焼きそばにハマってるんですが、やきそばかおるさんの<梅林>も、この取材時に初めて行きました」
――――焼きそば偏愛の小石原さんですら未踏のお店を挙げてこられるとは、伊達に「やきそば」名乗ってませんね。
小石原 「ちなみに、やきそばかおるさんは、カップ焼きそばを食べ過ぎて体壊したほどの方なんで(笑)。それ以来、<梅林>のようにちゃんと野菜などの具が入った焼きそばを食べるようにされてるそうです」
――――あくまで焼きそばなんですね(笑)。あと小石原さん、お店は知っていたけれどこんなメニューは知らなかったっていうのはあります?
小石原 「ありますよ。河毛俊作さんの<キャンティ>のこれ、『若鶏と野菜の煮込みローマ風』は、この取材で初めて食べました。というか、河毛さんに伺うまで、このメニューの存在を知りませんでした」
――――これはレギュラーメニューなんですか?
小石原 「はい、開店当時からずっとあるメニューだそうです。<キャンティ>はだいたい前菜とパスタとカツレツあたりで満足してしまうんですが、まさか鶏の煮込みがあるとは! って新鮮でした」
――――4,968円……なかなかお高い。この本、紹介されているメニューの値段の幅が広いのも面白いですよね。
小石原 「ええ、200円台から5000円超えまでっていう。本の最後に、お店のエリア地図、料理ジャンル別のインデックスに加え、価格別のインデックスもつけました」
――――これすごく便利だし、見るだけで楽しかったです。他に、偏愛ぶりがご自分に近い、と思った方はいましたか?
小石原 「う~ん、誰だろう……? 本当にたいがいみなさん偏ってるんですよね(笑)。ただ好きなお店すぎてメニューに迷っちゃうっていう(小山)薫堂さんの気持ちはすごくわかりました。あれも食べたい、これも食べたい……って。『ハンバーグさんに悪いからメンチカツは我慢しよう』という発言は新鮮でした(笑)」
――――そこに操を立てるんだ(笑)。
小石原 「そういう、マイルールを作っちゃうのも行きつけならではかも。薫堂さんは、この店で生野菜サラダを食べられるようになったら一人前という気がしていたから、若い頃は生キャベツかポテトサラダしか食べられなかった、とか(笑)」
――――最後に、この本の使い方を教えていただけますか? 一般的な食のガイド本って、みんなと行ったりデートしたりする時のお店探しに使うことが多いと思うんですが……。
小石原 「これは、誰かを連れていくためのお店を紹介している本ではないかもしれないですね。自分自身が複数回食べたいと思うもの、自分の‟最多ごはん”になるものが、この中で見つかるかも、という本かな」
――――ということは、一人で行く系ですね?
小石原 「そうそう、一人で気軽にふらっと。そうじゃないと、三ケタの回数は達成しないのかも」
――――それにしても……小石原さんってそんなに食べてるのに全然太らないんですね。お酒も飲むし、割と太りそうなものばっかり食べて、しかも毎回完食してるイメージなのに(笑)。天職なんですね。
小石原 「いやあ、これ以上太らないように必死ですよ(笑)。焼きそばとかほんと危険です、色々画策してます。ただ、1種類の料理をずっと食べ続けるのは割と平気なので、そういった意味では、この職業に向いてるかもしれないです」
――――確かに、女性って普通は、ひとつのものをずっと食べるより、色々なものをちょっとずつ食べる傾向がありますもんね。
小石原 「私はそうではなく、‟食べ込み”ができるタイプなんで」
――――‟食べ込み”っていうんですか、初めて聞きましたよ(笑)。今日は楽しいお話、ありがとうございました!
今週の推し本
『自分史上最多ごはん』
小石原はるか 著
ページ数:144頁
ISBN:9784838728701
定価:1,080円 (税込)
発売:2016.08.25
ジャンル:グルメ
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