今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
■「日本の景気は賃金が決める」か?
「ポジショントークを越えて。- 『日本の景気は賃金が決める』」 2013年05月07日 『HONZ』
http://honz.jp/25581
この本、読んでないので上記の書評に書かれた部分のみについてになってしまうが…。
限界消費性向と、所得格差の拡大。この2つを組み合わせると、ある事実が浮き彫りになってくる。つまり、所得格差の拡大によって、貯蓄せずにカネを使う(景気に対する貢献度の高い)低所得層に対して、相対的にお金が回らなくなったことで、日本国内の消費低迷に拍車がかかり、デフレ不況が深刻化したのだ。この点は、具体的な数字に落とし込んでみると、更に分かりやすい。
この考え方は間違ってると思うのだよね。あまりにも「不況はみんながお金を使わないから」と宣伝されたために、本当にみんながお金を使えば景気回復すると思い込んでいる人が少なくない。
「お金を使う」の意味は、世の中に出回る金を増やすこと。それ自体は間違っていないのだが、問題はなぜお金が出回らないのか?だ。
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これはゼロ金利&デフレによる実質金利の高騰が原因なわけで、ようはお金を銀行に預けたままにしておく方が得だからだ。みんななにが得かわかっているからそう行動しているだけ。物の値段が下がっていく一方、貯金してある金はそのままなんだから、価値は上がっていく。
ジュースが1本100円だったのが、1本90円に値下がりすれば、銀行に貯金してある1000円で、以前は10本買えたのが11本買えるようになる。だからなるべく消費を先延ばしにした方が得なのだ。
この本の著者も貯蓄の増加が不況の原因だという点は同じだが、その原因を低所得者層への所得移転であると考えているようだ。低所得者は貯蓄せずに日々必要な金を使うが、高所得者は貯蓄に回すので、結果的に世の中に流通するお金が減っているのだ、と。
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生活に最低限必要な費用はさほど安くならず、賃金が全体的に低下すれば、結果的に高所得者よりも低所得者の貯蓄が減るだろう。ただそれは不況の結果であって、原因ではないと思うのだけどね。不況で全体的な賃金が減ったから、そうなったというだけで。
とはいえデフレスパイラルといわれるように、不況というのは悪循環で起きるから、結果がさらに原因になるというのはあるかもしれない。だからまあここまではいい。
しかしその先がおかしい。
仮に三兆円をばらまくとすると、年収1000万円以上の世帯に渡すより、年収300万円未満の世帯に渡すほうが、一兆円多く消費に使われる計算になります。
おそらく生活に困っていない高所得者にお金を渡すとそのまま貯蓄してしまい世の中には流通しない。低所得者に渡せば日々の生活費として使うから世の中に流通するはずという話なのだろう。
100歩譲ってそうだとしても、一旦低所得者が使ったお金は政府のコントロールを離れて、企業の利益になりさらに社員の給料になる。もうこの段階では低所得者も高所得者も区別がないから、高所得者にも金は回る。そして著者の考えだと高所得者はそれを貯蓄してしまうから、死蔵されることになる。
つまり1回だけしか意味がない。
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金融緩和の目的はインフレさせてお金の価値を下げること。銀行に貯蓄したままだと損をするようにすること。ジュースの値段が110円になれば、貯金してある1000円で9本しか買えなくなってしまう。それなら値上がりする前に買った方が得だと考え、みんな金を使うわけだ。これならむしろ貯蓄が多い高所得者の方が焦って金を使うだろう。
だから金をばらまくことが重要なのであって、その対象は低所得者でも高所得者でもいいのだ。繰り返しになるけれどお金を持っていると損をする状態にすることが、消費を拡大する方法。
これなら低所得者が使い企業の利益になり、社員の給料となって高所得者の所得となっても、貯蓄ではなく消費に回される傾向は変わらない。なにしろ貯蓄しておくとどんどん買えるものが減っていくのだから、物に買えなければ損をしてしまう。
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ということで、結果的に世の中にお金がたくさんばらまかれればいいのであって、低所得者にばらまいた方が効果があるというものではないと思う。どちらでもいいから低所得者でもいいだろうし、生活の助けになる分、低所得者の方がいいかもしれないが、それは効果があるからではない。純粋に経済的にみれば、どちらでも同じ効果なのだ。
同じ理由で著者は所得格差が不況の理由だと主張しているようだけれど、そうではないと思う。社会の安定という意味で所得格差の是正は政治の役目のひとつではあるけれど、それは景気回復にはなんの役にも立たない。景気回復のためではなく社会の安定のために所得格差是正の政策をとるのは反対しないが、理由を間違うとよくない。所得格差を是正しても景気は回復しない。
上記の記事ではインフレにすることが目的ではなく景気回復こそが目的だという主張がされている。これがほんの著者の主張なのか書評を書いた人の主張なのかわからないが、間違っている。そりゃ最終目的は景気回復だが、景気を回復させる直接的な方法はないのだから、インフレにすることが目下の目標。インフレにすることこそが重要。
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安倍政権、そして黒田日銀は今、年率2%のインフレを政策目標に据えているが、真のゴールはインフレではない。賃金が増えずに物価のみが上がれば、待っているのは困窮だ。
どうもインフレすなわち物価上昇というと、売っている商品の値段の上昇のことを真っ先に連想する人が多いが、インフレというのは賃金も含めて物価の上昇であり、賃金が増えずに物価のみが上昇するというのは、長期的に見ればありえない。賃金も後追いで上昇していくはず。というかそうならないなら、買う人がいなくなるから、物価上昇が頭打ちになる。
物心ついた時から世の中がデフレの世代は、あまり実感できないのだろうけれど、そういうものだ。物価が上昇すれば賃金も上昇していく。これまで一番賃金が上がったのはオイルショック(1974年)の時だった。
「春闘の賃上げ推移」 2012年08月16日 『疑似科学ニュース』
http://nebula3.asks.jp/107654.html
石油価格の値上げによる猛烈なインフレ。その時に賃金も上昇した。もちろん賃上げを勝ち取るのは並大抵の苦労ではなく、ストライキの発生件数もこの時期が最大だったが。
景気が良くなると賃金が上がると考えている人がいるけれど、直接的には物価が上がるから賃金も上がるのだ。物価が上がる理由は好景気だったり、オイルショックのような外的な理由だったりさまざまだが。オイルショックの時は当たり前だがものすごい不況になった。それでも賃金は上がったのだ。だって物価が上がる以上は賃金も上がらないと労働者は生きていけないから、まさに必死だったわけで。
参考サイト:
「日本の景気は賃金が決める (講談社現代新書) [新書]」 吉本 佳生(著) 『amazon』
http://www.amazon.co.jp/dp/4062882051
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年05月10日時点のものです。
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