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一昔前の本をEブックにして出すときのいざこざ

2013/04/08 16:06 投稿

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一昔前の本をEブックにして出すときのいざこざ

今回は大原ケイさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

■一昔前の本をEブックにして出すときのいざこざ
Eブックの今後を考えるに当たって、バーンズ&ノーブルがヌックであまり儲けてません、ってなニュースより、こういった地味な訴訟の方がよっぽど日本の出版業界の人たちも考えなければならない問題が提示されていると思うのだけれど、ねぇ~。

その訴訟というのは、大手出版社ハーパーコリンズ(米ニューズコーポレーション傘下)と新進のEブック出版社オープン・ロード(拙著でも今後注目のエンタープライズとして紹介済み)が、とある中堅作家の著書のEブック化権を巡って争っているケースだ。

アメリカは契約社会なのでずっと昔から本を出す時には長ったらしい契約書を交わすのが当たり前になっていて、今さら揉めるのが稀になっているぐらいなんだけれど、それというのも、2001年に既に最大手ランダムハウスとEブック専門のロゼッタ・ブックスというところが、契約書に「本という形で出す」とある場合、その「本」に「電子本」は入るののかどうかという点を争って判決*1が出ているわけ。結果としては、裁判所の判断は「含まれない」ということで、紛らわしいから今後はちゃんと区別してあらかじめ決めておきましょうね、というのが業界全体のスタンダードとなり、アメリカではもうこの手の問題は起きなくなっていた。日本だと著作隣接権みたいなもんで誤魔化さないで、経団連が電子書籍版権ってのをきっちり決めろと言ってるようだけど、そういうことですな。

*1:「Random House v. RosettaBooks」 『jilleliz.com』
http://jilleliz.com/articles/rosetta1.html

今回の訴訟の対象になった本は、1972年初刊でジーン・クレイグヘッド・ジョージという作家の「Julie of the Wolves」というYA(ヤング・アダルト)の作品。日本では講談社から『極北のおおかみ少女』という題で、徳間書店から『狼とくらした少女ジュリー』というタイトルで出ていたようですな。凍った大地ツンドラで狼たちとひとり逞しく生きるエスキモーの少女の物語で、児童書では栄えあるニューベリーメダルを受賞、オランダでは銀の匙賞、全米図書賞の候補作にも挙がっている。

初版が出た頃はもちろんアメリカでもEブックなんてなかった時代だから、作家の方もそんな先のことは考えていなかっただろうし、出版社としても、今や内容的にあまり新しいところがないと判断したのか、ハーパーコリンズもあまり児童書に力を入れているとは思えない出版社なので、なにもしなくてもそこそこ捌けるバックリストとして放置されていたというのが正直なところだろう。

一方、オープン・ロードという会社は元々ハーパーコリンズの女傑と言われたジェーン・フリードマンがハーパーを飛び出して設立したEブック出版社。既にEブック版は紙版を出した出版社が手がけるのがデフォになりつつあった風潮の中で、オープン・ロードは、そんな風にちょっと見過ごされて重版もかからなくなっていたけれど、マーケティング次第で新しい息吹を吹き込めるような本を上手に発掘して、大々的に売るのが上手な会社として急成長してきた。だからジェーンも「そういえば、私が活躍していた時代に、けっこういい児童書があったっけ」って感じでEブック化の話になったんじゃなかろうか。

2007年頃に映画化される話もあったので、ハーパーコリンズ側としては映画化が本決まりになったらEブックでも復刻させようと思っていただろう。当の著者も昨年5月に亡くなってしまったので、本人の意志だの許可だのが確認しにくい(だいたいエージェントがestateとして管理することになっている)というのもあった。

今回の訴訟では双方ともに「元の契約書がちょっと曖昧」だったのがいけなかった、と認めている。副次権の権利は版元にあるけれど、実行するときには著者の許可が必要、という一文があるからだ。とはいえ、この契約書では出版する権利は以下のように定められている。

“in book form,” including via “computer, computer-stored, mechanical or other electronic means now known or hereafter invented.”

対してオープン・ロードは著者から生前に口頭で許可をとってあり、ハーパーコリンズはそれをやっていないと主張している。ハーパーコリンズとしては、初版以来地道に累計380万も出ているロングセラーに、それなりのマーケティングコストがかかっているので、オープン・ロードがEブックで美味しいところを取っていくのはズルイだろうという言い分だ。

双方とも裁判官の判断に従うといっているし、法的にはオープン・ロードの言い分がやや弱いが、著者としてはオープン・ロードを応援していたと言うし、そりゃどんな著者だって、Eブックを出して新たに著者にコミットメントを見せてくれるところと組みたいだろう。

とりあえず私もwktkで判決を待っている。

執筆: この記事は大原ケイさんのブログ『BOOKS AND THE CITY』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年04月05日時点のものです。

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