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「正しい」とはなにか?横糸編(2) スギ花粉症(中部大学教授 武田邦彦)

2013/04/07 16:06 投稿

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「正しい」とはなにか?横糸編(2) スギ花粉症(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

■「正しい」とはなにか?横糸編(2) スギ花粉症(中部大学教授 武田邦彦)
スギ花粉症、アレルギー性鼻炎、アトピーなどが増え始めたのは、1970年代からです。この理由は「スギ花粉症」については二つあります。 一つは高度成長によって日本の家庭生活が格段に衛生的になり、「体内異物濃度」が下がったので、体内の免疫系が崩れて、少しの異物が入っても激しく反応する人が出てきたことです。

もともと人間は土ほこり、田畑の蒔いた汚穢が乾燥して飛んでくる異物、土の中の微生物やミミズの排泄物が舞い上がって入る異物など多種多様の異物が体内に入る「汚い環境」で生活するようにできていました。

ところが、水洗トイレ、下水道、舗装道路、冷蔵庫などが完備して衛生的になると、「医学的に衛生的にすることはアレルギー疾患を増やすことだということがわからず、さらにはその治療法も不明」という状態に陥ったのです。

人間の知恵は浅はかで、「衛生的な環境」というのが人間にとって全体として良いことがわかっても、それをすることによってどのような副作用が起きるかまでは「わからない」か「考えない」ものです。だから、「衛生的にする」というのは誰もが賛成しますが、そのことによってアトピーになって困る子どもの事まで心配する人はいないのです。

つまり、アトピーで苦しんだ人はある意味では「衛生的な環境が良い」と主張した医師の被害者ということがわかります。この考え方(全体が正しければ、一部の被害者は無視するのが正義)はかなり根強く、今回の福島の原発や原発再開問題でも顕著に見られます。

また「正しい」というのはかなりいい加減で、人間は「現在正しいこと」を追求しがちであり、「正しいことが行われた後でも、それは正しいか」などとは考えないということもわかります。

・・・・・・・・・

スギ花粉症はさらにもう一つの原因がありました。それは「環境団体が森林を破壊した」ということです。マイ箸運動や紙のリサイクルが森林を破壊する原因を作りました。 植林したスギは適切に伐採して利用しないと30年から40年経つと子孫を残すために花粉を出します。

また、森林は1平方キロメートルあたり、1年に150立方メートルの「樹木」が育ちます、育つ樹木のほとんどが間引き、枝打ち、枝、材木を取るときに樹木は丸いけれど材木は四角などの原因で「材木としては使えないもの」で、それは120立方メートルにも及びます。

つまり、森林に植える樹木の利用率は20%しかないので、森林を破壊しないためには以下にして80%の「端材や枝など」を利用するかにかかっています。それが割り箸、紙、合板だったのです。

将来、遺伝子の操作によって「間引かなくても良いスギ」というのができるかも知れませんが、自然の状態のスギは小さい頃は過密に植えて、それを徐々に間引いていかないと太いスギができず、従って材木がとれません。

また時々枝打ちをしないと節ばかりの木材になってしまいます。このような森林の実体を全く考えず、利権や天下りのために環境団体が「伐採するな」と叫んだことが日本の森林の破壊につながったのです。環境団体による犯罪と言えます。

1960年には日本人が使用する紙は100%、すべて日本の森林から取っていたのですが、今では10%しか利用されていません。つまり日本の環境団体は日本の森林を破壊したばかりで無く、外国の発展途上国の森林の乱伐にも手を貸したのです。

比較的良心的な人が多い環境団体がなぜこのような環境破壊と犯罪を起こしたのでしょうか? この場合の「正しさ」とはなんなのでしょうか? 

「環境を守る事は正しい」ということは、百歩譲れば正しいかも知れませんが、「環境を守るとはどういうことか?」を考えなければならず、「日本の森林はどうあるべきか?」も必要です。

ところが「環境を守る事は正しい」までは良かったかも知れないのですが、「俺たちが正しいと思うことは正しいのだ。だって、環境を守るという正しいことをしているからだ」という循環論法に陥っていたのが環境団体だったと言うことになります。

環境を大切にしたいという人は「良い人」が多いので、「環境運動は悪だ」とは言いにくいところがあります。しかしそれが落とし穴になることがあり、「地獄への道は善意で舗装されている」ということも思い出す必要があります。

・・・・・・・・

スギ花粉症は「人知の及ばざることが起こった」のでは無く、「シッカリ考えて議論すればわかったことを強引にやったから多くの人を苦しめた」問うことであり、明らかな「悪」が存在します。次のことを厳しく考えることでしょう。

1.大勢の人にとって良ければ少数の人は犠牲になっても良い(野蛮)

2.子供のような力の弱い人が苦しんでも無視すれば良い(野蛮)

3.科学的なことは考えずに好き嫌いでやれば良い(野蛮)

4.人が言っていたらその空気に従っておいた方が良い(野蛮)

そしてみんなで首からマイ箸をぶら下げ、森林を破壊しました。そして今まだ「花粉が爆発する」(花粉が普通にはじけること)などと不適切な発言をする専門家とそれを報道する情けないメディアが手を貸したことも不幸でした。

日本のような森林国家の場合、子どもや孫の時代も含めて森林とどう生活するかは大切な問題です。そのためには、

1)森林の所有権を統合する

2)公共物としての森林を合意する

3)人間と自然が共存できるように地形を変える

4)植物が生育し、人間が利用するという原則を確認する

5)山奥の自然林と麓の人工林を区別する

などのあたり前の「正しさ」をまずは議論する必要があり、それでこそ始めて「花粉症の被害を食い止める」ということができると考えられます。正しさに到達する道は時として遠回りです。金網の向こうにバナナがあるからと言って金網から直接、手を伸ばす下等哺乳類のような行動(花粉の少ないスギ)では無く、金網を回って取りに行くこと(森林の利用)が到達ルートというわけです。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2013年04月05日時点のものです。

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