今回は『ニュースの教科書』からご寄稿いただきました。
■従来の説はほとんどウソだった。日本でベンチャー企業が発達しない本当の理由。
日本でベンチャー振興が叫ばれてから久しいが、一向にベンチャー企業が盛り上がる気配はない。日本における開業率は減少の一途をたどっており、逆に廃業率は高止まりしたままだ。
米国バブソン大学や英国ロンドン大学ビジネススクールの研究者らで組織するベンチャービジネスの国際調査機関GEM(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)の調査では、主要先進国における日本の起業活動率は最低である。調査開始以来、この結果は変わっておらず、ほぼ毎年最低ランクのまま推移している。
日本でベンチャービジネスが発達しない理由について、もっとも通俗的に語られているのは、ベンチャーキャピタルと呼ばれる投資会社が十分に機能していないという説だ。
だがイメージとは異なり、実際には日本にはかなりの数のベンチャーキャピタルが存在しており、資金提供の環境も十分に整っている。また経済産業省が中心となり、日本では法整備を含めて、実に様々なベンチャー支援策が実施されてきた。だが、肝心のベンチャー企業はなかなか育たない。
ベンチャーキャピタル業界における最大の悩みはお金がないことではなく、「投資先がないこと」(独立系ベンチャーキャピタリスト)なのである。
つまり日本ではベンチャーを支援しますという人はたくさんいるが、主役である起業家の絶対数が不足しているというわけだ。
しかも起業家自身が日本では資金調達が難しいとはあまり感じていない。彼らがもっとも障害と感じるのは、日本では「ベンチャー企業の商品やサービスは、いいモノであってもなかなか売れない」(ITベンチャーの起業家)という現実なのだという。
ベンチャー企業は設立だけ出来ても意味がない。その後売り上げを立てて成長していく必要がある。ベンチャー企業の商品やサービスを購入するのは、大手企業を中心としたベンチャー企業ではない企業である。つまりベンチャー企業の本当の推進役は、顧客である大手企業ということになる。
だが日本の大手企業は、ほとんどが官庁を頂点とする護送船団的なヒエラルキーで構成されており、新しいことにチャレンジしない。しつこく過去の実績や前例を求めるので、革新的なベンチャー企業の製品は決して採用しないのだ。
採用しないならまだしも、政府に働きかけて規制をかけ、新興企業の活動を阻害する大手企業すらある。これが日本の実態なのだ。
結果として、日本では起業ができても、それを継続させることができない。ルネサスエレクトロニクスの例に代表されるように、大企業は失敗しても国が救ってくれる。だがベンチャー企業は、誰からも支援を受けられず失敗したら破産を強要されるだけである。多くの人がチャレンジしないのも当たり前である。
要するに、日本では官庁を頂点とした社会構造そのものがベンチャー企業を排除しているのだ。ベンチャー振興を掲げるあるセミナーで経済産業省のエリート官僚が、「日本は起業家の社会的地位が低い。もっと起業家を尊敬すべきだ」と講演していた。講演が終了した後、会場にいるビジネスマンはこぞって官僚の名刺をもらおうと演壇に集まり、ペコペコと官僚に頭を下げ、官僚はまんざらでもない表情で名刺を渡していた。
この場面を見るだけで、ベンチャー企業に対する日本人のホンネが分かる。起業家を尊敬すべきだと、一般人に上から目線で「訓示」しているのは、起業家とは正反対の場所にいる公務員なのだ。これほど滑稽な光景もないだろう。
アベノミクスによって景気回復の期待感が膨らんでいる。だが、たとえ景気が回復しても、日本のベンチャービジネスの環境が大きく変わる可能性は低いままだろう。
執筆: この記事は『ニュースの教科書』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年04月04日時点のものです。
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