今回は『NETOKARU』からご寄稿いただきました。
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■じん(自然の敵P)1万4千字ロングインタビュー・音楽を使って物語を伝えたい(1)
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2012年現在で6作品が動画サイトで100万再生を突破、1stアルバム「メカクシティデイズ」はオリコンウィークリーチャート初登場6位、 本人執筆による小説「カゲロウデイズ」は2巻トータル60万部を突破など、マルチクリエイターとして驚異的な活躍を続けている、じん(自然の敵P)。普段からIAを多用する彼も、『IA/02 -- COLOR --』に参加。NETOKARUでは、『IA/02 -- COLOR -』リリース記念特集第ニ弾として、ニコニコ動画世代の最先端をいく音楽家にとって音楽とは?物語とは?作品とは?に迫るロングインタビューを敢行した。
●「音楽を使って物語を伝える」形式でありたい
―じんさんの作る曲は物語性が強いというのがまず第一の特徴だというのはみんな認めていると思うのですが、ではそれ以外の部分、つまり楽曲そのものについてはどういう方向性を目指しているのでしょうか。ロック的なアプローチを多用している気がしますが、ストーリーに似つかわしいジャンルとしてロックを選んでいるのでしょうか? それとも、もともとBACK HORNなんかがお好きだったそうですし、個人的な好みなんでしょうか?
じん: 根本的にはやっぱりストーリーが最優先なので、それに適合する音楽をやっているんです。もちろんそれは自分の引き出しの中から出しているわけですけど、ロック的なものについても、「これをやりたい」っていうよりは「やる必要性を感じた」っていう感じですね。
―ということは、じんさんが楽曲を通してリスナーに伝えたいことは、まずは物語内容、もっと言えば物語の持つメッセージ性なんでしょうか?
じん: いや、それもまたちょっと違うんですよ。ストーリーを優先すると言っても、物語内容を知ってほしいというよりは、音楽を使って物語を伝える形式の作品であるということが第一です。僕は昔から、そもそも「伝わる」っていうのがけっこう難しいことだと思っているんですね。だから「元気出そうよ」みたいな単純な一言であっても、言葉で表現したらそれが人に届くことで「おっ!」って思ってもらいたい。つまりストーリーを理解してほしいとか音楽を聴いてほしいというよりは、どんな楽しみ方でもいいので何かを感じてもらいたいんです。もちろんストーリー上では「ここはこれに気づいてほしい」っていう気持ちはありますけれども(笑)、作品を人に聴いていただくとか見ていただくという根底の部分に関しては、そういう思いで作っています。
―なるほど。もちろん物語内容も楽しんでほしいけれど、まずは物語であること自体が作品を提供する手段になっているということでしょうか?
じん: もちろん自分の言いたいことを理解してもらうっていうのも重視しているんですけれども。でもちょっと不思議な話ですけど、僕の気持ちより、たとえば物語内でキャラクターが抱いている気持ちを感じてほしいんですよ。
―なるほど。音楽性としてはロック的でありながら、いかにも昔ながらのロックらしく「作者自身の魂の叫び」を伝えたいというよりは、キャラクターの気持ちを伝えることを重視しているというわけですね。
じん: そうですね。たとえば登場したキャラクターが嫌な思いをして泣いてしまったり、口に出して「辛い」と言う時は、その思いを最大限に伝えたい。リスナーの皆さんに共感してほしいというのともちょっと違って、その気持ちをバーンと大きく伝えたいという感じですね。なので、たとえば「戦争をなくそう」みたいなテーマ性とかメッセージ性というのは、曲の中にはないですね。まあもちろん「友達がたくさんいると幸せだよね」みたいな作者の考え方というのは物語の中ににじみ出すとは思うんですけど。だけどやっぱり、それを重視しているということはないですね。その上で「こういう内容のお話だったらこういう曲調にしよう」というのが決まっていくんだと思います。だから僕は楽曲そのものには、別に一貫性は必要ないと思っています。
―なるほど。しかし、では物語を表現するのになぜ音楽を使おうと思ったんでしょうか?
じん: そもそも表現の形として、小説とかマンガとか映画みたいなジャンルの違いをあまり意識していないんです。というのも、たとえば映画作品で考えてみると、単に映像だけがあるんじゃなくて、BGMとか脚本とか役者の演じ方とか、いろんな要素が複合されているわけですよね。だから僕の作品も、曲もあるしストーリーもあるしビジュアルの魅力もあるというふうに見てもらえるものにしたいんですよね。つまり個々のジャンルというよりも「エンタテインメントをやりたい」っていう意識が常にあるんです。それぞれのタイミングで伝えたいことに合わせて、音楽が最適だったら音楽を主軸にして、その次が映像だったら映像を持ってきて、歌詞だったら歌詞を見せるというような、リボルバー式で次々にガチンとメインの部分が変わるような形になればいいなと思うんですよ。曲を聴いた人が「たぶんこういう意味じゃないかな」と考察していたら、ちょうどいいタイミングでマンガや小説が出て、ストーリーへの理解が深まったところでまた新しい曲が発表されるとか。リスナーの皆さんの意見をいろいろ聞きながら、いろんな形で展開される長回しのエンタテインメントを作っているという気がするんですよ。
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●カゲロウプロジェクトの独自性
―なるほど。ではそういう音楽……というかそういう形のエンタテインメントをやろうと思ったのは、いつからなんですか?
じん: 今から7年前、中学生ぐらいの頃から「どうしてストーリーを描くような音楽ってあんまりないのかな」みたいなことは感じていました。まあ、当時は作曲もできないし、そんなことをちょっと思っていたというくらいなんですけどね。だから架空のストーリーとアルバムを自分で考えていましたね。なんにもできないくせに、曲のタイトルだけ決めて(笑)それで、この曲ではこれをやる、次の曲はこれで、ここで人が死ぬ、とか。もちろんそれは今のカゲロウプロジェクトとは全然関係のない、もっとチープなものでしたけど。
―しかし手法としての原型がそこにあるっていうことですよね。
じん: そうですね。昔からそういうことをやりたいとはずっと思っていたんです。そうこうしているうちに、やってたバンドが解散してしまって、かといって僕がギターボーカルとして一人で歌うというのもイメージが湧かなかったんですよね。
―そのバンドはどういう音楽性だったんですか?
じん: シガー・ロスみたいなことがやりたくて、謎にシンセを入れたり(笑)、打ち込みをDTMで作って、ライブで映像と同期みたいなことをやってました。
―そういうライブパフォーマンスがしたかった?
じん: いやあどうだったんでしょう。最初は本当にインドアな人たちが家に集まって「バンドとかやりたいね」みたいな話になって、曲を作り始めたんですよ。だからライブとか何も考えてませんでした。
―なるほど。むしろDTMというか、曲作りがしたかったわけですね。
じん: はい。でも曲作りのゴール地点が見えてくると、「これはたぶんCDで聴いても全然つまんない」という話になったんですよね。それで「VJと一緒にやるとどうだろう」「じゃあライブやろうか」っていうことになったんですよね。専門学校に通っていたので映像をちょっとかじってるような人もいましたし。
―まあ、いずれにしてもバンド活動は終わるわけですよね。そこでソロ活動としてボーカロイドを使ってみた時の感想はどんなものだったんでしょうか。
じん: ボーカロイドを使ってストーリーものをやろうと最初から思っていたわけではないんですよ。ボーカロイドを使えば、要するに歌ものを自分一人だけで作れると思ったんですね。だけど使ってみると、ニコニコ動画を中心に動画と曲という別々の形式をフィックスするものとして一番メジャーだし、やっぱりなんか面白いと思ったんですよね。音楽と映像で成り立つものって他にもありますけど、普通はちょっと違うんですよね。たとえば普通の音楽PVとかだと、楽曲ありきで、その楽曲のプロモーションムービーとしての動画っていう形にならざるを得ない。もちろんそれで一作品であるという捉え方もあるかもしれないんですけど、でもニコニコ動画にアップされている曲というのは基本的にはCDになるわけでもなくて、要するにあの場所にアップされた時点で完成形なんですよね。つまり動画と音楽を組み合わせたものが作品の完成形という考え方が、さも当然のようになっているのにすごくビックリしたんです。
―なるほど。普通のPVだとやはり作品の母体というか着地点は商品としてのCDですけど、ニコ動の場合は映像と音楽を融合させてネットに公開したところが作品のあり方として完成するわけですね。
じん: そんな場所があるんだったらいろいろ面白いことができそうだと思ったんですけど、じゃあのんびりと、昔考えていたようなストーリーものをちょっとやってみようかなと思ってやり始めたんです。
―絵と音楽が融合されて完成形になるニコ動の表現形態と、自分が前から考えていた物語性のある音楽が親和性が高いと思ったのでしょうか?
じん: そうですね。本当にそう感じました。
―物語性のある音楽は数は少なくとも一応ほかにもありましたよね。たとえばニコ動でもsupercellなんかはイラストからある程度の物語性を感じさせる曲で人気を集めましたし、あるいはSound Horizonのようなタイプのミュージシャンもいますし。そういうクリエイターと自分のやりたいことの違いは何だと思いましたか?
じん: もちろん、ストーリー性の強い曲はニコニコ動画でも少し聴いたりしました。supercellの「メルト」も最初に聴いて「朝、目が覚めて」から歌詞が始まるのとかストーリーっぽいなと思いました。だけどあんまりよく知らない段階で自分の曲作りをスタートしてしまったので、後々になってから悪ノPさんとかがストーリーもので名作を手がけてらしたのを知って「しまった、誰もいないと思っていたらやられてたのか」と思いましたね(笑)。あと個人的にはミドリカワ書房さんとかを聴いた時に「うわ、やられたぁ~!」みたいに思いましたね(笑)。ただ、自分がやろうとしているみたいな、発表する曲が数珠つなぎみたいに連作になる作り方をされている人はあまりいないかなとは思いました。あとは僕の場合は、曲を聴いたらどんなストーリーか、だいたいわかるようにしたいと思いました。
―それが先ほどおっしゃっていた「エンタテインメントをやりたい」ということなんでしょうね。言葉でもなく、イラストでもなく、もちろんメロディでもなく、作品の全体がストーリーを表現するものになっている。
じん: そうですね。言ってみればいろんなレイヤーが重なってる感じなんですよね。ストーリーのレイヤーと音楽のレイヤーは、重なり方が大きいかなとは思いますけど。
<取材・構成:さやわか>
執筆: この記事は『NETOKARU』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月21日時点のものです。
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