今回は壇 俊光さんのブログ『壇弁護士の事務室』からご寄稿いただきました。
■裁判所の価値(弁護士 壇 俊光)
衆院選の定数不均衡問題について、地裁判決の第一弾が出たようである。
「昨年衆院選は「違憲」=是正遅れ「看過できず」―1票の格差訴訟・東京高裁」 2013年03月06日 『Yahoo!ニュース』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130306-00000098-jij-soci
難波孝一裁判長は「違憲状態とした最高裁判決で強い警鐘が鳴らされたのに、区割りが是正されず選挙に至ったのは看過できない」として、選挙は違憲と判断した。選挙無効の請求は棄却した。
この選挙無効の訴訟であるが、最近違憲だけど、選挙は無効としないという判断が続いている。
しかし、その論理はかなり怪しい。
この件のリーディングケースである最大昭和58年4月27日は、
したがつて、人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして、当初における議員定数の配分の基準及び方法とこれらの状況との間にそごを来したとしても、その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制 度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、 かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが、前記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つ て行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に 違反するに至るものと解するのが相当である。
ということで、合理的期間論を述べて、その後の裁判例でも、踏襲されている。
ただ、この合理的期間というのが、そば屋の出前並みにくせ者である。
日本の裁判所が、合理的期間を超えると言いそうな気配はない。日本という国が消滅するまで合理的期間とか言いそうである。
そもそも、選挙の平等違反は、文字どおり平等か否かであり、合理的期間か否かではないはずである。
で、合理的期間が過ぎたとしても、選挙が無効になるかといえばそうではない。
この点についてのリーディングケースは、最大判昭和60年7月17日である。
違憲の議員定数配分規定によつて選挙人の基本的権利である選挙権が制約されているという不利益など当該選挙の効力を否定しないことによる弊害、右選挙を無 効とする判決の結果、議員定数配分規定の改正が当該選挙区から選出された議員が存在しない状態で行われざるを得ないなど一時的にせよ憲法の予定しない事態 が現出することによつてもたらされる不都合、その他諸般の事情を総合考察し、いわゆる事情判決の制度(行政事件訴訟法三一条一項)の基礎に存するものと解 すべき一般的な法の基本原則を適用して、選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することもあり得るものと解すべきである(昭和五一年大法廷判決 参照)
これは、条文解釈としても怪しい。
公職選挙法(選挙関係訴訟に対する訴訟法規の適用)
第二百十九条 この章(第二百十条第一項を除く。)に規定する訴訟については、行政事件訴訟法 (昭和三十七年法律第百三十九号)第四十三条 の規定にかかわらず、同法第十三条 、第十九条から第二十一条まで、第二十五条から第二十九条まで、第三十一条及び第三十四条の規定は、準用せず、(以下略)
行政事件訴訟法(特別の事情による請求の棄却)
第三十一条 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、そ の損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請 求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
要するに、事情判決をもってきて、選挙を無効としないというわけであるが、公職選挙法で、明確に除外されているので、法の一般原則などと言ってきたわけである。
んなアホなみたいな理由であるが、この事なかれ主義は、その後も踏襲されている。今回の判決の詳細は見ていないが、おそらくこれだと思われる。
しかし、法の一般原則でいうならば、違法であれば無効であることが原則であろう。
民主制の過程における問題を是正するのは、民主制の過程には期待できない。それこそが、裁判所の役割のはずである。
自らの役割を忘れて、違憲状態とか言うだけであれば評論家である。
それなら、裁判所と名乗るのを止めるべきである。
執筆: この記事は壇 俊光さんのブログ『壇弁護士の事務室』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月11日時点のものです。
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