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『Amazonプライム・ビデオ』にて独占配信されている人気バラエティ・シリーズ『HITOSHI MATSUMOTO Presentsドキュメンタル』。番組の内容や出演者については、プレゼンターを務める松本人志さんの会見記事に譲るとして、つい先日、シーズン2(全5話)がカオス過ぎる結末を迎えました。

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http://getnews.jp/archives/1707750[リンク]

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そこで今回は、ガジェット通信でたびたびお世話になり、どんな無茶ぶりにでも笑顔で応えてくれる動物行動学者の新宅広二先生に話を聞き、このゲームのルールがなぜ難しいのか、どんなタイプが強いのか、動物行動学の視点から番組を解説してもらいました。

※記事中に勝敗結果に関するネタバレはありません。

ネイチャードキュメンタリーとして秀逸

――シーズン2全5話、かなり楽しんでご覧になったそうですね。

新宅広二先生(以下、新宅):見る前は全く想像もしていなかったですが、まるでネイチャードキュメンタリーを見ているようでした。お笑いでありながら、生き物の生態を観察できる番組として楽しみました。ふとした瞬間に野生動物としてのエッセンスを感じるんですよね。

――ネイチャードキュメンタリーを日本で最も多く監修している先生が言うと説得力があります。

新宅:まず、カメラの台数がすごく多い。参加者の表情や目線、筋肉の動きひとつを逃さないように、あらゆる角度から撮影しているんです。BBCやナショナルジオグラフィックが野生動物を撮影する手法と一緒です。

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――まさかBBCと比べられるとは松本さんも思っていないかと(笑)。でも、タイトルからもドキュメンタリーの要素が強いのは明らかですよね。

新宅:普通のお笑い番組だと面白い部分だけ抽出しても笑えますけど、これはドキュメンタリーなので連続性が重要なんです。ネイチャードキュメンタリーで肉食動物が狩りをするところだけ見ても面白くないように、この番組も最終話で優勝が決まる瞬間だけ見ても笑えない。最初から最後まで見ることで、動物的な生態の変化、個々の関係性の変化を楽しむことができるんです。

――あの密室空間が特別な空気感を演出していますよね。

新宅:閉鎖空間によって、より人間の動物っぽさが引き出されているように感じました。動物園で言うところの檻ですからね。動物も与えられた空間を最大限に活かそうとするんです。そして松本さんという観察者がいる。

このゲームにおける強者の条件とは

――その中で攻めに出る者、様子をうかがう者など、タイプが分かれるのも面白いです。

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新宅:群れの中で自分の立ち位置を把握して、相手を見ながら駆け引きすることは、オオカミやサルにも見られる行動です。順位制のある動物には、序列のできる要素がいくつかあります。年功序列、ケンカが強い、カリスマ性があるなど、様々なカードが存在します。序列の低い個体は、気を遣いながらも、いつかは頂点立ちたいと思っています。それはお笑いの世界でも一緒ですよね。先輩後輩、事務所の違い、売れている売れていないなど、立ち位置の違いで気の遣い方が変わってきます。動物の世界の争いとすごくよく似ていると思いました。

――人間のお笑いというカタチでそれを見せているわけですね。

新宅:そもそも、食べ物、住みか、メスなどの生死や繁殖に関わらないことで真剣に争えるのは人間くらいなんですけど、このゲームの何が難しいかと言うと、最も平和的な「笑わせる」という行為で争うことです。これは思っている以上に難しい課題です。

――確かに、相手を打ち倒す行為とは真逆ですね。

新宅:人間が動物と違うのは、誘い笑い、つまり伝播する笑いがあることです。相手の笑いを引き出すために、自分も笑顔を作ることがありますよね。このゲームのルールにおいては、その人間の特徴が弱点になるわけです。つられ笑いや愛想笑いで脱落する参加者もいましたよね。油断した時につい出てしまうものなんです。

――裏を返せば、その本能的に組み込まれた笑いを制御できる人が勝者に近いと言えますよね。

新宅:動物行動学的な理論だけで分析すると、このゲームに有利なのは、芸人としての序列が低い人だと思って見ていました。立場が下の人ほど愛想笑いが必要だったり、場の空気を読んで自分の笑いをコントロールすることが多いからです。逆に先輩になるほど気を遣う場面が減るので笑いを制御しなくなる。笑うという行為に対して油断しやすくなるんです。

――芸歴が長いとか、ネタが面白いからといって強いわけではないと。

新宅:サバンナの限られたエリアで見たときに、ライオンが最後まで生き残るかというと、そうではないですよね。噛む力が強いとか、走るのが速いとか、図鑑上のスペックが優れているからサバイバルできるわけでもない。意外な小動物とかがちゃっかり生き残ったりするものです。そんなことを考えながら見ていました。

笑いをとるためになぜ人は服を脱ぐのか

――追い込まれた時に凶暴性が現れた参加者もいましたよね。特に5話のラストが強烈でした。

新宅:完全に人間として封印していた何かが出てきちゃった感じですよね。文化的なものが吹っ飛んで、獣としての凶暴性、アナーキーな感じが解放されて圧巻でした。まさに本能だと思います。あの瞬間は、おそらく賞金のことなんて頭になかったはずです。命がかかっているくらいの緊迫感がありますよね。もしかしたら、人類が今までに見たことがない光景かもしれません。別に相手が憎いわけでもないし、なぜあんなことになっているのか誰も説明できない。喜怒哀楽の何にも当てはまらない、日本語として定義されていない“何か”だったと思います。

――あと、この番組は裸も多かったです。服を脱ぐことが面白いというのは、人間特有のものですよね。

新宅:裸が笑えるのは、文化人類学的に共通のアイコンだと考えられます。真剣さの中に笑いを持ち込むと、より笑いが引き立つということがありますよね。歴史的に見ても、やたら性器のデカい土偶が見つかったり、性器をモチーフにした御神体を担ぐ祭りがあったり、笑っちゃいけないとしながらも、やっぱりおかしいわけです。本来は面白いけど笑ってはいけないツールとして、性器をここ一番の時に露出するというのは、太古の昔から人類がやってきたことなんですよね。計算じゃなく、追い詰められてとっさに出てしまったのは、人類のDNAに組み込まれている行為だと思います。

――裸を面白いと感じるのは、知能が高い証拠とも言えますか?

新宅:歴史的に人と動物の境目をどの時点にするのかは長年の研究課題なんですけど、ひとつは“花”を道具として使ったのは人間としての大切な要素だと思っています。植物を美しいと思って誰かにプレゼントしたり、死者に捧げたり。

――献花は精神的な文化を感じますね。

新宅:それと同じように、下ネタが笑えるようになったことが動物を脱却する大事な要素だと思っています。動物として守るべき大切な部分が、いつから笑えるものになった転換期があるはずなんですよね。笑いのプロが追い詰められた時にとっさに披露したのが下ネタだったのは興味深かったです。見る人によっては下品だと感じるし、落語や漫才などを含む笑いの文化の中で、一つひとつの笑いの質としては最下層にある笑いかもしれません。でも、この笑いは視聴する側も知的なクオリティがないと楽しめないと思うんですよね。だから松本さんもあれだけゲラゲラ笑っている。もしくは、下ネタに無条件に反応する小学生か。

――両極端ですね(笑)。

新宅:人類が文明化にともない理性的に封印してきた動物的な何かが突沸した感じ。進化の過程で人類だけが獲得できた笑いの新たな機能を楽しめます。シーズン2が凄すぎたので、シーズン3がこれを超えるのはかなり難しそうですよね。でも、それがドキュメンタリーなので、次回も台本のない面白さを期待したいです。

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新宅広二(しんたく・こうじ)プロフィール

動物行動学者、監修業。
大学院修了後、多摩動物公園、上野動物園勤務経験のほか、大学・専門学校で20年以上教鞭をとる。哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫など400種類以上の野生動物の飼育技術や生態を修得。狩猟免許も持ち国内外でのフィールドワークもこなす。監修業では英国BBC作品ほかネイチャードキュメンタリーの監修や日本語制作を数多く手がけている。

最新の著書『しくじり動物大集合』(永岡書店)が発売中。150種以上の動物の欠点をイラスト付きで解説し、動物たちの知られざる生態を紹介している。

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