大塚明夫『声優魂』を読んでいる。
くわしい感想は読み終えたあとに書くことにするが、とても面白くまた役立つ一冊である。
ひとり声優を目ざす若者だけではなく、あらゆる業種のひとに推薦できる。未読のひとにはオススメ。フリーランスのひとには殊に刺さる内容だと思う。
もっとも、いま非常に売れていて、Amazonにも在庫がないようだけれど。まあ、いま注文しておけばしばらく後にはとどくと思います。
個人的には、「戦友」山寺宏一との交友を綴ったくだりが非常に面白かった。
大塚明夫に山寺宏一といえば、これはもう、『攻殻機動隊』のバトーとトグサである。
バトーが全身サイボーグの巨漢であるのに対し、トグサは公安九課唯一の生身の男、同質の集団に意図的に組み込まれたイレギュラーという存在だ。
映画『攻殻機動隊』の頃から目立つふたりだが、テレビアニメ『STAND ALONE COMPLEX』ではバトーはサイボーグであるにもかかわらずだれよりも人間的な男となり、トグサは秀抜な推理力を駆使して事件の深層にもぐり込んでいく「使える若手」となっている。
みごとな初期設定を生み出した士郎正宗も天才としかいいようがないが、その設定をさらに洗練させて味わい深いキャラクターを生み出した神山健治監督も凄い。世の中には凄いひとがいるなあ。
そして、このふたりを演じる大塚明夫や山寺宏一も凄いのである。
このふたりにとって出世作となったのは、映画『48時間』の吹き替えだったという。
この映画のテレビ放映の際、ふたりは主演に抜擢され、ニック・ノルティを大塚明夫が、エディ・マーフィを山寺宏一が演じることになる。
ここで成功すれば栄光はわがもの、しかしもし失敗すれば目もあてられない、そんな天王山の大一番――ふたりは10時間に及ぶリハーサルを行って現場入りし、そしてみごとその役をやり遂げて評価を高めるのである。ドラマティック!
公安九課きっての「戦友」バトーとトグサを演じるふたりが私生活でも「戦友」の間柄だというのは面白い。
いくつもの修羅場をくぐり抜けていくと、自然とこういう「つながり」がでてきていくのだろう。
それはやはり「LINEに返事をしなきゃ友達じゃない」といったレベルの「友達」とはわけが違う、本物の親友なのだ。
高い実力と矜持を持ち合わせ、いざ「戦場」に立ったときにはだれよりも頼りになる男――それをこそ「戦友」と呼ぶのだと思う。
山寺さんは普段はとても陽気で気さくな人物に見えるし、じっさいそうなのだろうけれど、その陽気さの裏には人並み外れた修練の日々があったに違いない。そう思うと、襟を正したいような気分になる。
そんなバトーを、大塚は「アンドレ」だと思って演じているという。
『ベルサイユのばら』のあのアンドレ・グランディエである(ふと思ったのだけれど、いまでも『ベルサイユのばら』って通用するのだろうか。「アンドレってだれですか?」とかいわれたりして。ぐぬぬ)。
「攻殻機動隊」こと公安九課のリーダーであり、あらゆる面で自分より一枚上手の素子に、バトーは恋をしているように見える。
しかし、素子はバトーに対しどこまでもそっけない。
大塚明夫が「印象に残っている」と語るバトーと素子のやり取りは、そんなふたりの関係性を象徴しているようで興味深い。
「今度二人で映画でも観に行かないか」「ありがとう。でも本当に観たい映画は一人で見に行くことにしているから」「じゃあ、それほど観たくない映画は?」「観ないわ」
視聴者としては「にやり」とするシーンだが、バトーとしてはたまらないだろうなあ、これ。
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