『ログ・ホライズン』は「ニセモノ」の時代に「本物」を追い求める物語だ。
テレビでは第二シリーズもクライマックスを迎えているようですが、ぼくはまだ第一シリーズの中盤。いよいよ物語が最初の佳境を過ぎ、スケールを増して盛り上がって来るあたり。
『ログ・ホライズン』の物語は、あるオンラインゲームのプレイヤーたちが異世界に召喚されるところから始まっています。混乱を究めるその異世界で、主人公シロエとその一行はさまざまに活躍を続け、やがてアキバの町に統治機構〈円卓会議〉を作り出すに至ります。
そして、シロエ自身は自らのギルド〈記録の地平線(ログ・ホライズン)〉を生み出し、ひとりの冒険者として世界の探索を続けるのですが――というところがいまのお話。
ここらへん、実にカタルシスに満ちた展開で、初めて「小説家になろう」でこのくだりを読んだときはそれはそれは感動したものです。
とはいえ、『ログ・ホライズン』全体の物語からすれば、それすらも全体の導入であるに過ぎず、物語はさらにさらに壮大な展開を迎えることになるわけです。うーん、面白い。
いま、色々なアニメが放送されていますが、冒険物語の面白さという意味では『ログ・ホライズン』は一級のものがあるでしょう。
なぜこれほど面白いのだろうと考えてみると、やはりオリジナルなファンタジーを幾重にもひねってあるところに第一の魅力があるのだろうと思います。
ファンタジー小説の歴史をたどってみると、やはり前世紀の『指輪物語』や『ナルニア』といったハイ・ファンタジーに突きあたります。
それはもちろんさらに前の時代の民話や神話、宗教に大もとがあるわけなのですが、それを現代の小説として洗練させて提示したという意味で、やはり『指輪物語』はエポックだったのでしょう。
その物語や世界は映画『ロード・オブ・ザ・リング』の成功によって原作読者以外にも広く知られるようになりました。それもあっていまとなってはそれほど目新しくは思われないでしょうが、もともとは非常にオリジナリティが高いものだったのです。
で、これが膨大なファンタジー小説に模倣され、また、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』や『トンネルズ&トロールズ』といったテーブルトークRPGに移植されてひろまっていった。
そしてやがてコンピューターゲームが生まれ、その世界はいっそう広まるとともに陳腐化していきました。そしてそれからさらに数十年経って、『ログ・ホライズン』はそれらのゲームをもっとひねった物語を展開しているわけです。
最初期の『指輪物語』や一部の優れたヒロイック・ファンタジーから数えると、どれだけのコピーを重ねているのかよくわかりません。自然、そこではもはや初期のファンタジーが持っていた超常的な輝きは失われてしまっています。
『ドラクエ』や『FF』がどんなに面白いとしても、あるいは『ログ・ホライズン』がどれほど楽しく見られるとしても、そこにはトールキンやダンセイニのオリジナルなファンタジー小説が持っていた神秘は存在しないということ。
いまとなっては想像しづらいことですが、「ファンタジー」という言葉が黄金のひびきを備えていた時代もあったわけなのですね。
ここらへんの歴史に関しては小谷真理『ファンタジーの冒険』が網羅的に語ってくれています。すごい本です。オススメ。
それはともかく、とにかく模倣に模倣を重ねることによって、ある意味でファンタジーの魔法は消え去ってしまった。いま、ファンタジー小説と呼ばれている作品のほとんどは、最初期のファンタジーが持っていたマジック以外のところで読者を惹きつけているといえるでしょう。
最近は早川文庫FTなどでも、クラシカルなファンタジーはそれほど見かけないような気がしますね。フィリス・アイゼンシュタインの『妖魔の騎士』とかR・A・マカヴォイの『魔法の歌』、好きだったなあ。いやまあ、そういうことをいいだすとただの懐古厨になってしまうのだけれど。
ただ、いまだに創元推理文庫あたりではイニシエのファンタジー小説が翻訳出版されつづけているようで、やっぱりそういう意味でのファンタジーが好きなひとはまだ一定数残っているのでしょう。
クラーク・アシュトン・スミスとかね。いまになってクラーク・アシュトン・スミスが翻訳されるのって凄いことだよね。
いや、余談に走りすぎました。とにかく21世紀も随分と過ぎ去ったきょう、ぼくたちはそういう「オリジナルな物語」が失われたご時世を生きているわけです。
ここでいう「オリジナル」とは、「現実の体験」から生まれた物語ということです。ぼくたちはいま、そうではない「コピーのコピーのコピー」から生まれた物語を楽しんでいる。『ログ・ホライズン』もまたそういう作品だと思います。
そう、ここでようやく『ログ・ホライズン』の話に戻るわけですけれど、この物語の面白さは「オリジナル」ではありえないことを受け入れた上で、「オリジナル」なファンタジーの定石をひねりにひねったところにあるのだとぼくは考えています。どういうことか?
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