いよいよというべきなのかどうか、今年もクリスマスがやって来ました。
クリスマスといえば現代日本では一年に一度のラブ・イベント。愛の配当からもれた人たちが「クリスマス中止」を叫んでイベントを起こしたりするのもいまとなっては年中行事という感じで、それはそれで楽しそうです。
ぼくはといえば、今年は家族といっしょにこの日を迎えることもできず、ひとり寂しく聖夜を過ごすことになりそう。
ひとが歓びに湧いていればいるほどわが身の孤独を感じずにはいられないわけですが、そういう意味ではクリスマスは一年でいちばん寂しい日ということになりそうですね。
まあじっさいにはネットがあるからそう孤独感が募ることもないのだけれど、それでも何となくひとり身の切なさは感じます。
ぼくと同じ歳だったら、もう結婚して子供がいる人のほうが多いくらいなんだよなあ。特に自分の人生を後悔するわけではありませんが、自由な非モテライフは孤独感とうらはらだとあらためて感じますね。
まあ、非モテの自由なんて、呪い放題とか憎しみ放題とか、その程度のものですが……。
こうしてひとり身の不遇をかこっていると、世間の狂騒もあまりにも遠く、恋愛とは何なのだろうとあらためて考えずにはいられません。
ぼくの解釈によれば、それは「人間関係の不条理さが極限化して表れる関係性」ということになります。
そもそも人間関係とは不条理なものだと思うのです。そこでは、倫理的な善悪は通用しません。「博愛」とか「平等」といったきれい事もじっさいにはほとんどまったく役に立たない。
そこでは、愛される者はひたすらに愛され、愛されない者は一瞥さえ与えられないというとほうもない理不尽が当然のようにまかり通っているのです。
その「関係性の不条理」が最も前衛化するのが即ち恋愛です。恋愛においては、いかなる意味での「正しい理屈」も意味をなしません。
恋愛とは、ある意味でひとの差別心そのものです。だからこそ、モテと非モテが生まれ、そこからまた歓びや恨み、憎しみが生まれて来るわけです。
恋愛の不条理さという話だと、ぼくはいつも村山由佳の『すべての雲は銀の…』という小説を思い出します。
この作品のなかで、実の兄に恋人を寝とられた主人公は、友人から「合理的」な説教を受けます。「恋愛に善悪なんてないし、恋人はモノじゃないんだから、自分の所有物のように独占していることはできない」と。
ある意味で実に「正しい」理屈だと思うのですが、まさにそうであるからこそ不条理そのものです。もし彼女がほかの男と浮気することが自由なのだとすれば(浮気というか、こちらのほうが本気なのだけれど)、そんな彼女を恨みつづけるのも自由であるはずではないですか?
「そもそも正しさなど存在しない」はずの恋愛という関係において述べられる「正論」のむなしさがそこにはあります。一見して正しい理屈であればあるほど、それは恋愛の実相から隔たっているのですから。
恋愛関係は、ある意味で権力関係を内包しています。愛されている者は時にその愛をかさに着て暴虐を働くでしょう。愛さずにいられない者は、その愛ゆえに下手に出ることを余儀なくされるかもしれません。
「好きになったほうが負け」、「より魅力的な者がすべてのチップを持っていく」、恋愛とはそういう偏ったルールのゲームなのだと思います。
そこには善悪も倫理もない。結婚となるとまた話は別ですが、少なくとも恋愛の次元においては、浮気をしようがふたまたをかけようが、あるいは相手の権利を侵害しようが、べつだん、法律で咎められることはない。
そしてそういうひどいことをやる人間がモテないかといえばそうではないわけで、やはり恋の実相はどこまでも不条理そのものです。善人に善果がないのが恋愛です。
ひとは好きではない人間には、どんなひどいことでもできるもの。ですから、ぼくのように「愛される魅力」に欠けた人間は恋愛においてどこまでも弱者です。
その反対に「愛される魅力」を備えたより多く人間は絶対強者であり、自然、そのように振る舞います。それは必ずしも容姿の美醜であるとも限らない。とにかく魅力がある人はモテて、すべてを独占するのです。
それがこのゲームのルール。「ひとを差別してはならない」という一般的なモラルから限りなく隔たっていますが、本来、私的な場面においては差別はまったく悪ではないのです。
むしろ差別せずには生きていけないのが人間であるとすれば、恋愛はひとが最も自然でありえる状況ということができるでしょう。
好きな人は好き。嫌いな人は嫌い。あまりにもあたりまえなことではないでしょうか? そしてそれは何と残酷なことなのでしょう。ここでは人間らしい努力だとか研鑽だとかは、あまり意味を持たないように思えます。
じっさいにはそうでもないのかもしれませんが、持っている者は何もかも持っているし、持たない者は何ひとつ持たない、そのように、見える。
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