どういう理由なのか両足をなくし、自ら移動することができない不可思議な車椅子に乗って暮らしている少女と、彼女に従者として仕えるひとりの青年の物語。
なぜ、彼女は両足を失ったのか? 青年が抱える病とは何なのか? そしてふたりがスターリン体制下の冬の国で懸命に探しつづけるものとは何なのか?
すべてのピースは最後には美しくそろい、ひとつの「絵」を導き出す。春風のスネグラチカ。ほんとうによく考え抜かれた物語だ。
何十巻と続いてしかも未完に終わるような作品が少なくないこのご時世に、全一巻で綺麗に物語を閉じている点も評価が高い。
それはそうなのだが、あまりに知的すぎ、端正すぎる物語に、もうひとつ感動し切れないものが残ったことも事実ではある。
こう書くといかにも大した作品ではないようだけれど、いや、ほんと、素晴らしい出来ではあるんですよ。ただ、何か、こう――どうにもうまくいえないのだけれど、綺麗すぎる、といえばいいのだろうか。各登場人物の「実感」が伝わって来ない気がした。
目をえぐり取られるとか、両足を切り落とされるとか、いまとなってはごく見なれた猟奇残酷描写ではあるのだが、その当事者にとっては途方もなく重大なことであるはずだ。
その「重さ」が、もうひとつこう実感として伝わって来ない憾みがある、といえばいいのだろうか。
主人公の少女が監視役の男性に強姦されるところとか、エロくて良いんですけれど、うら若い少女がオッサンに犯されるその苦しさ、おぞましさ、凄惨さがこう、いまひとつ切実に伝わって来ないかな、と。
伝わって来たら来たで読んでいて苦しいものになるはずなのだが、それでもここはきちんとそう描写されてしかるべきではないのか。
もちろん、彼女はそれ以上の地獄を見て来ているということでもあるんだろうし、この時代、その程度のことはめずらしくもないということでもあるんだろうけれども、それにしても。
あまりにもインテリジェントでありすぎる。あえてこの傑作の難点を挙げるとしたら、そういうことになるだろう。
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