「先生、もう状況は聞かれてますよね」「うん、さっき、島袋クンから連絡があった。ぼくがこの時点で思うのはね、SARSだったら逆によかったと思わなきゃならないんじゃないかな、ってことで……」「はい?」高柳の声がうわずって聞こえた。あれ、ぼくはなんか変なことを言ったかな、と棋理は自問する。しかし、きわめて論理的に正しいことを言ったまでだ。
『エピデミック』。川端裕人の日本初の「疫学小説」である。文庫にして570ページに及ぶ超大作で、読みごたえ十分。内容も端正かつ迫力満点であり、一見地味なテーマでも読ませる。「疫学」という学問の存在自体を知らないひとにも十分にお奨めできる力作だ。
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