【『はねバド!』】
濱田浩輔『はねバド!』第1巻を読み終えました。いやー、これはすばらしい。久々に花まる付きのオススメ新作です。
いま、『ベイビーステップ』とか『BE BLUES!』といった作品によってスポーツ漫画がひそかに盛り上がりを見せていることは漫画読みなら御存知の通り。
この『はねバド!』はその戦列に加わる一作と云えるでしょう。バドミントンというわりにマイナーな競技を扱っているのですが、ルールを知らないひとでも問題なく楽しめます。
作者は濱田浩輔! 決して新人ではないのですが、すぐにこの名に思いあたるひとは少ないかもしれません。
あの『パジャマな彼女』の作者と云えば、思いあたるひとも少なくないかもしれませんね。
そうです、『週刊少年ジャンプ』で花々しく連載開始するも、全3巻で打ち切られてしまった不遇のラブコメです。
まあ何しろ打ち切られ漫画ですから、『パジャマな彼女』について良いイメージを持っているひとは多くないかもしれない(一定の支持者はいるでしょうが)。
ぼくも「絵はきれいだけれど、いまひとつ印象が薄い漫画だな」と思っていました。しかし! 『はねバト!』は違います!
どうよ、この勢い、躍動感、瑞々しさ、ギャグ、そして洗練された絵柄――いずれも一級品ではないですか。『パジャマな彼女』のいまひとつ煮え切らない展開は何だったんだ?というおもしろさ。
ちょっと『聖結晶アルバトロス』で打ち切られた若木民喜さんが『神のみぞ知るセカイ』で帰ってきた時を思い起こさせるような化けっぷり。
え? このひと、こんなに才能があったの? と、我が目の不明を恥じいるくらいの変貌を遂げています。
【『ジャンプ』という戦場】
いや、『ジャンプ』で描いていたときもセンスがあるひとだとは思っていたんだけれど、正直、ここまでストレートなエンターテインメントが描ける作家さんだとは思ってもいなかった。
うーん、この才能を活かし切れなかった『少年ジャンプ』という雑誌にはやはり問題があるのかもなあ。
まあ『ジャンプ』はこのレベルの才能が集まってサバイバル競争を繰り広げている世界なのかもしれないけれど……。
この忙しい情報過剰社会において、ぼくたちのほとんどは打ち切りを食らった漫画のことなんてすぐに忘れてしまいます。
しかし、打ち切られた漫画家が必ずしも才能がないというわけではない。特に『ジャンプ』の場合、そこまでたどり着けた時点で、じつは途方もない才能の持ち主なのだと見るべきなのでしょう。
『ジャンプ』で連載をもてる作家は20名ちょっとしかいないわけで、ちょっと大げさに云うならF1のスタートグリッドに並んだようなものです。
もちろん、そこからさらに選別が行われて、生きのこれるものはほんのわずかなのですが、討ち死にした人間に才能がないわけではない。
その証拠に、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦は『バオー来訪者』で打ち切られていますし、『SLAM DUNK』、『バガボンド』の井上雄彦も『カメレオンジェイル』が失敗に終わっています。
『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博だって『てんで性悪キューピッド』は全4巻の打ち切り。こういっただれもが認める天才作家たちですら一度は挫折を経験しているわけです。
『ヒカルの碁』や『DEATH NOTE』の小畑健に至っては何度打ち切られていることか。『アラビアン魔神冒険譚ランプランプ』とか、ちょっと好きだったんですけれどね。
このひとたちは最終的に『ジャンプ』の内部でのしあがることに成功した例ですが、他誌に移って成功したひともいます。
『翠山ポリスギャング』が打ち切られたあと『LIAR GAME』でヒットを飛ばした甲斐谷忍さんなどは典型的です。
このひと、『LIAR GAME』や『ONE OUTS』を読むかぎり、間違いなく才能がある作家さんなのですが、『ジャンプ』ではその才気を発揮することができなかった。
それだけ『ジャンプ』で成功することはむずかしいのでしょう。たぶん、いろいろな制約があるんでしょうね。
描きたくもないラブコメやバトルを描かないといけなかった作家さんも多かったに違いありません。
【傑作の予感】
まあそういうきびしい条件があってもなお成功するひともいるわけですからいい訳はできませんが、『ジャンプ』でうまくいかなかったからといって面白い漫画を描けないわけではないということです。
濱田浩輔はおそらく、その「脱『ジャンプ』成功作家」のひとりになることでしょう。とりあえず『はねバト!』はすばらしくおもしろい。
常識の枠外にいる壮絶な天才、その凶気を描くことに成功しているように思えます。しかも女の子たちがまたいちいちキュートなんだ。
『good!アフタヌーン』というマイナーな雑誌の連載ではありますが、正直、『パジャマな彼女』より格段におもしろい作品に仕上がっていますので、スポーツ漫画好きの方はぜひぜひ、ご一読を。
ちなみこの漫画、ネットで第1話を読むことができます。ここだけでも十分に傑作の予感を感じることができると思いますので、とりあえずチェックしてみてくださいませ。作者インタビューと合わせて、アドレスを掲載しておきます。
よみませう!
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