王都炎上: アルスラーン戦記① (光文社文庫)

 田中芳樹の大河架空歴史小説『アルスラーン戦記』が『鋼の錬金術師』、『銀の匙』で有名な荒川弘の手で漫画化されることが決定したようです。

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 『アルスラーン戦記』といえば、田中芳樹の代表作のひとつ。実に四半世紀以上前の1986年に出版が開始されて現時点でまだ未完という大長編です。

 かつて一度、漫画化、アニメ化されているのですが、個人的にはいまひとつの印象が強かった。今回、荒川さんという超一流の描き手を得て、この作品がどう生まれ変わるのか楽しみでなりません。いやー、素晴らしい。

 そこで、この記事では未読の方でも数分で『アルスラーン戦記』の概要が理解できるよう簡単にこの物語を紹介したいと思います。まあ、本編を読んでもらうのが一番なのですが、何しろ未完のまま何年も止まっているからなかなか薦めづらい。

 『アルスラーン戦記』とはどういう作品なのか? ひと言でいうと「中世ペルシア風の架空の国パルスを舞台に、ひとりの少年が偉大な王にまで成長していく物語」です。その少年こそタイトルロールであるアルスラーン。

 物語はパルス国の王太子アルスラーンが14歳のとき、アトロパテネの平原で侵略者ルシタニア軍を迎え撃つところから始まります。しかし、ある人物の裏切りにより、最強パルス軍は壊滅、アルスラーンの父であるアンドラゴラス王は捕縛されてしまいます。

 アルスラーンは「戦士のなかの戦士(マルダーンフ・マルダーン)」の異名を持つ青年ダリューンに守られ、戦線を離脱し、ダリューンの友人である軍師ナルサスのもとを目指します。それは長い長いパルス解放のための戦いの始まりだったのです。

 物語開始の時点で30万人のルシタニア軍に対して、アルスラーンらはわずか2名。第一巻終了時でもたった6名に過ぎません。この絶対的で絶望的ともいうべき兵力差をいかにくつがえすか、そしていかにして王都エクバターナを解放するか、まさに目が離せない展開です。

 しかも、若干14歳のアルスラーンを襲う試練はこれだけではありません。なぞの「銀仮面卿」ことヒルメス、そして父でありながら息子をうとむパルス国王アンドラゴラスといった人々が次々とかれの前に立ちふさがります。

 物語開始時点では未熟な少年に過ぎないアルスラーンが、ほんとうにこれら強烈な敵たちに立ち向かっていくことができるのか、どうか、それは読んでのお楽しみということにしておきましょう。ちょうど『銀河英雄伝説』で一躍脚光を浴びた直後の全盛期田中芳樹の絶妙のストーリーテリング、ぜひお楽しみください。

 さて、いまとなってはこの手の架空歴史小説は世に大量に存在しているわけですが、そういった類似作と『アルスラーン戦記』を分かつポイントはどこなのか? この作品を生み出すにあたって、田中芳樹はいままでの物語を研究、分析した上で「ずらして」来ています。