そういうわけで、はたして創作論の本はじっさいに役に立つのだろうか? 結論からいってしまうと、おそらくまったく意味がないわけではない。

 何といっても音楽や美術といった芸術領域ではもっと繊細で緻密な方法論が構築されているのだ。物語創作においてのみ一切の方法論が無意味であるはずもない。

 というか、少なくともいま日本で流通しているレベルの本は、案外良質のものが多いと感じる。極端に日本語として読みづらかったり、ちょっとオカルトめいていたりするところがあったり、「怪しい」と感じさせる本もなくはない。

 だが、創作とはそもそも果て知れぬ迷路のなかをひとりさまようような行為である。何らかの指針はあったほうが良いだろう。それが己の自由を制約するものと感じられるようなら無視すれば良いだけのことなのだから。

 創作において、先人たちが編み出してきた方法論はそれなりに「役に立つ」。そういうことにしておこう。しかし、だからといってあまり過信するのもどうかというところではあるだろう。

 たしかにその手の本のなかには「具体的にこのように書け」とばかりに記してある本もあるのだが、その通りにやったら結果が出るというものではないことは先述した通りだ。

 すでに完璧な方法論が確立されているのならいくらでも名作傑作が出て来るはずだが、そうなってはいないのは、やはり創作にはかならず「前人未踏」の領域があり、そこを踏破するためのやり方は各人が探っていくしかないということなのだろう。

 それはべつだん、「創作の神秘性」といった特別なものではない。ただ、