『勇者様のお師匠様』という小説をご存知でしょうか。三丘洋さんのいわゆる「なろう小説」なのですが、あまり「なろう」らしくないというか、異彩を放つ物語です。ぼくは大好きで、じつに素晴らしい作品だと思っています。
物語は魔王を打倒した「勇者」レティシアがウィンという少年を「師匠」と呼ぶところから始まり、波乱万丈の展開をたどります。
で、このたび、その『勇者様のお師匠様』が漫画になりました。この漫画化が非常に出来が良い。なろう小説のコミカライズは全般に意外にクオリティが高く、日本の漫画業界のレベルアップを感じさせるのですが、そのなかでもこの作品は、まだ第一巻だけとはいえ、傑作といっても良いのではないかと思います。
何が凄いって、第一巻を費やしてなお、まだなろう版の第一話に到達していない(笑)。先に書いた通り、この作品、「なろう」に発表されたときは魔王を斃したレティシアが王都に帰還するところから始まっているのですが、漫画版はまだそこまでたどり着いていないのですね。
それでは、そんなにページを費やして何を描いているかというと、レティシアとウィンの子供時代。レティシアが魔王討伐に旅立つまで、そしてその旅の様子を克明に描いているのです。
その描写自体は原作小説にもあるものですが、原作よりさらに詳細に描き込むことによって、物語は格段に重厚さを増しています。素晴らしい。
レティシアは、人類の最後の希望ともいうべき勇者ではあるのですが、その常識を絶した圧倒的な力は、彼女が力を尽くして守っているはずの人々に恐怖を与えます。その人間を超越した力量を怖れた人間たちは、わずか十歳の可憐な子供に怪物を見るようなまなざしを向けるのです。
命がけで守り抜いた人たちから怖れられるという絶望。孤独。それがレティシアが抱えた宿命です。彼女にしても決して軽々と戦っているわけではなく、戦闘と死の恐怖をギリギリのところで乗り越えているだけなのに。
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