弱いなら弱いままで。

球磨川禊の優しすぎる嘘。(1253文字)

2013/04/07 10:46 投稿

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めだかボックス 20 (ジャンプコミックス)

 『少年ジャンプ』掲載の『めだかボックス』最新話で、球磨川禊がめだかの前に立ちふさがっている。「在学中に必ずめだかに勝つ」と誓うこの「敗北の星の下に生まれてきた男」がほんとうに勝てるのか、それともやはり宿命には抗えないのか、次号に注目だ。

 いうまでもなく球磨川はとても人気があるキャラクターである。人気投票では2位以下を引き離してぶっちぎりの首位を獲得している。「絶対に勝てない男」が連載の外で大勝利してしまっているわけで、ちょっとおもしろい話。

 それでは、球磨川の魅力はどこにあるのだろうか。それは「絶対に勝てない」「ひとには疎まれる」「性格は最悪」というもろもろのネガティヴ条件を受け入れてひょうひょうと生きていくその自然さにあるのだと思う。

 球磨川は初め負の能力を持つ「マイナス」たちのリーダーとして物語上に登場してきた。かれは「社会に受け入れられないもの」たちのトップであり、だれよりも不幸でだれよりも根性が悪いキャラクターだといわれていた。

 球磨川はきっと「だから、自分には不幸な人間の気持ちがわかる」と考えているのだろう。ひとは自分より幸福な人間を妬み、恨む。しかし、「だれよりも不幸でみじめ」な自分はだれにも妬まれない。だから、自分は不幸な人々の仲間であることができるのだ、とも。

 しかし、それはやはり嘘だ。現実には球磨川に嫉妬する人間も絶対にいるはずである。「あいつはマイナスのくせに恵まれている」と。球磨川はそういう人間に対して「いやいや、ぼくはこんなに不幸だよ。悲惨だよ。非モテだよ。非リアだよ。だからきみの仲間なんだよ」と示しつづけなければならない。そうしなければ球磨川の嘘は成立しないのだ。

 不幸な者同士の、あるいは自分を不幸だと思っている者同士なら理解しあえる。それはあまりに哀しくて優しい嘘。球磨川というキャラクターが人気を獲得したのは、哀しいほど優しい人間だからなのだと思う。

 

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