弱いなら弱いままで。

「がんばれば結果はついてくる」という嘘。努力神話崩壊後の物語を読む。(1272文字)

2013/04/02 10:24 投稿

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  • 漫画
めだかボックス外伝 グッドルーザー球磨川 小説版(上)『水槽に蠢く脳だらけ』 (JUMP j BOOKS)

 「努力して結果につなげる物語」が流行らなくなったといわれて久しい。じっさい、少年漫画やライトノベル、さらにはネット小説などを見ても、主人公は初めから何らかの能力を与えられているか、それとも努力して能力を獲得した後であるかという場合が多い。

 血のにじむような特訓を繰り返して少しずつ成長していくというパターンはあまり観られなくなった。もちろん、「努力」の価値がまったくなくなったわけではない。『BE BLUES』や『ベイビーステップ』などの最近のスポーツ漫画の傑作を見ると、主人公はあいかわらず必死に努力して頂点を目ざしている。

 変わったのはその努力に「質」が求められるようになったのだろう。ただひたすらに肉体を追い込めば成長できるという描写ではもはや読者が納得しなくなったのだと思われる。「努力信仰」の時代は終わったのだ。

 黄金時代の『少年ジャンプ』のキーワードは「努力・友情・勝利」であったわけだが、「友情」と「勝利」の価値は変わらなくても、「努力」の意味するものはすっかり変貌してしまった。

 これを嘆かわしいと見る向きはあるだろう。生まれつきの才能だけですべてが決まってしまうならおもしろくもなんともない、努力して壁を乗り越えることができる物語こそ人間の可能性を感じさせるものなのだ、と。

 しかし、それもやはり一面的な見方である。たしかにだれかに与えられた「チート能力」だけですべてが決まるような物語には限界があるが、いまの漫画やライトノベルがそこまで単純になっているとは思わない。むしろ努力だけが圧倒的な価値を持つ物語よりも複雑な価値観で動いていると思う。

 

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