弱いなら弱いままで。

アニメはほんとうに女性を差別しているのだろうか。

2017/09/07 05:00 投稿

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 先日、「本を書きたい!」といった通り、アニメや漫画、ライトノベルなどのポップカルチャーとジェンダーについての本を、どこで発表するあてもなく(笑)書いています。

 とりあえず20000文字くらいは達したかな。書いたら推敲しなければならないので単純にどこまで仕上がったとはいえませんが、まあ、それなりに進んではいます。

 で、ぼくがそういう本を書こうと思い立ったのは、既存のこの種の本に文句があるからなんですねー。どうもこの手の本はあらかじめ「アニメやマンガのなかにはひどい性差別があるに違いない!」という結論を決めてしまって、それに見合う作品ばかりを取り上げているように思われるのです。

 もっとひどい場合には、ありもしない問題を見つけ出してしまっていることすらある。

 いや、ぼくはアニメやマンガのなかに性差別的描写が存在しない、といいたいわけではありません。ジェンダーの呪縛は大いにあるでしょう。

 しかし、すべてのアニメ/マンガ/ラノベが一様に性差別の標本として使えるわけではないし、なかにはそこらの学者の本よりよほど先進的な内容の作品もあるはずなのです。

 それを上から目線で「サベツしているに決まっている!」と決めつけるのはいかがなものか。たとえば、水島新太郎さんの『マンガでわかる男性学』にはこのような記述が存在します。

 近年、マンガのなかに描かれる女性像には大きな変化が見られます。これまで母親や恋人といった脇役を押し付けられてきた女たちが、男から独立した、強くてたくましい女として描かれるようになったのです。
 ガンダム・シリーズでは、マリュー・ラミアス(『機動戦士ガンダムSEED』)やスメラギ・李・ノリエガ(『機動戦士ガンダム00』)が、艦長として活躍しますし、スポーツマンガでは、百枝まりあ(『おおきく振りかぶって』)や相田リコ(『黒子のバスケ』)が、監督・コーチとして重要な役割を担います。『少女革命ウテナ』では、王子様になることに憧れ、自分を「ぼく」という一人称で語る男装の少女・天上ウテナが、男顔負けの戦いぶりを見せてくれます。
 しかし、彼女たちは、本当に男から独立した、強くてたくましい女たちなのでしょうか。
 『機動戦士00』の女艦長・スメラギは、重度のアルコール依存に苦しむ女として描かれていますし、女監督を務める百枝まりあや相田リコにしても、物語の主体として描かれることはありません。『少女革命ウテナ』に登場する女たちも、シリーズ構成を務める榎戸洋司いわく、「男に守られる女であり、守ってもらえるよう試行錯誤する女」でしかないのです。
 『ベルサイユのばら』のオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ、『美少女戦士セーラームーン』の月野うさぎ、『スレイヤーズ』のリナ=インバースなど、悪者と戦う強くてたくましい女主人公たちにも同じことが言えます。オスカルにはアンドレ、月野うさぎにはタキシード仮面、リナ=インバースにはガウリイがいるように、彼女たちはみな、守ってくれる男ありきのヒロインなのです。

 えー(疑いの声)。それはないでしょ。まさにそういう女性像を生み出す社会構造からの脱出をテーマにした作品であることを無視して、『ウテナ』の女性キャラクターを、榎戸さんの発言(出典がないぞ!)を引いて「「男に守られる女であり、守ってもらえるよう試行錯誤する女」でしかない」と総括するのもどうかと思うけれど、それ以上に後半が問題。

 まあ、百歩譲ってオスカルや月野うさぎはまだ良いとしても(ほんとうは良くないわけですが)、どう無理筋の解釈をしてもリナ=インバースが「守ってくれる男ありきのヒロイン」だとは思えません。

 たしかにリナはガウリイに助けられることもあるけれど、その反対にガウリイを助けることだってある。一方的にガウリイに頼って守ってもらっているわけではまったくないのです。

 もし、リナの描写では「男から独立」度が足りないというのなら、いったいどんなキャラクターなら十分に主体的で独立していることになるのかと問いたいくらい。

 この本にはほかにも納得のいかない箇所がたくさんあるのですが、ようするに、ぼくにはただ自論を補強するために漫画作品を利用しているように思えてならないのですね。

 あるいはそうでなければ、初めから上から目線で作品を見ているので、作品を読んでいても読めていないことになっている。

 「ライトノベルが自立した女性なんて描いているはずがない」とあらかじめ結論を固定しているから、じっさいには存在しない「守ってくれる男ありきのヒロイン」が見えてしまうのではないかと思えてなりません。

 ぼくはこういうのが嫌なんですよねー。作品に対し特に愛情も敬意もない人たちが自分の主張を強化するためにアニメやマンガのなかのジェンダーを批判するという、あまりにも偏った構図。

 これと同種の本である『お姫様とジェンダー』や『紅一点論』にも似たような不満を感じました。

 アニメやマンガのなかのジェンダーを批判するな、とはいいません。大いに批判してもらってけっこうだけれど、そのときは偏見に曇らされていない目で見てほしいと思うのです。

 その意味では、高橋準『ファンタジーとジェンダー』は良かった。この本はファンタジー小説のなかのジェンダー描写を取り上げて問題にしているのですが、よくある『指輪物語』などの名作どころだけではなく、『グイン・サーガ』や『十二国記』といった作品まで取り上げているのが面白いところです(できれば『カルバニア物語』も扱ってほしかったけれど、ひょっとしてこの本の刊行時期は『カルバニア物語』の開始より前なのかな)。

 『グイン・サーガ』を初めとするファンタジー小説の男性中心性に関してはぼくはかねて疑問を抱いていたので、この本の語るところには非常によく納得できました。

 まあ、『西の善き魔女』なんかは、あえてその構造を踏まえてメタ的にずらしているのでひと口にはいえないのだけれど。

 とにかくぼくはここら辺の本を踏まえて、ぼくなりの本を書きたいのです。しかし、はたして書けるかな……? うん、まあ、がんばります。うす。ふぁいと。おー。 

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