水とパンと図書館。
インターネットにふれることが増えてから、ずいぶん紙の本を読む機会が減ったように思う。
ぼくは読む手段にこだわるほうではないから、必然、電子書籍を多用することになった。
しかし、たまに上質のハードカバーなどを手に取ると、やはり、その重み、その手ざわりは、何とも良いものだと感じる。
現実世界の憂いと惑いをいったん置き捨てて、書物の迷路に潜る。耽る。それがぼくにとって最高の歓びであることは三十年来変わらない。
もちろんぼくだけではなく、何百万人もの人々が、いまなお、本というデバイスを愛している。
その内側に数しれない珠玉の言葉を収めた宝石箱、それが本だ。本をひらく。文字を追う。そうすると、たちまち神秘の回廊が現れて、ぼくを活字の夢幻郷へ誘う。
読めば読むほど物語に集中し、耽溺し、その大河にも似た奔流に溺れる。幸せだ、と心のどこかで感じる。この至福はほかのことではなかなか味わえない。
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