Twitterで勧めていただいたので、読んでみた。というか、読んでいる。何しろミステリ作家数十人に取材した分厚い本なので、一気呵成に読みあげるというわけにはいかない。自然、知っている作家のところを拾い読みすることになる。
まずは乙一の「プロットの作り方」。これが素晴らしくわかりやすく、具体的だった。現役の作家がこれほど手の内を明かしてしまって良いのだろうか、と思うくらい。以下に簡単に説明することにする。
乙一のプロットの作り方は非常にシンプルである。かれはいう。
小説は文字が連なってできている一本の線だ。一本の線には両端がある。つまりはじまりと終わりのことだ。その二つをここでは発端と結果と呼ぶ。すべての物語は発端と結果を結ぶ線なのだ。ミステリを書くならば、発端と結果はすなわち、事件の発生と解決のことである。しかしその二つを結ぶ線が平坦で何の盛り上がりもなければ読者は飽きる。一本の線をどこかで折り曲げてジェットコースターのレールのように波打たせなければならない。そうして読者の心を揺さぶる必要がある。その折り曲げるポイントを把握するため、私はいつもプロットを書く。
具体的には、まず物語の全体を起承転結に相当する四つのパートに分ける。
A「一つめのパート」B「二つめのパート」C「三つめのパート」D「四つめのパート」
すると、このABCDには三つの境界線が存在することになる。境界線とは即ち、AからBに移り変わる部分、BからCに移り変わる部分、CからDに移り変わる部分のことである。この境界線をそれぞれ、abcと呼ぶ。abcはそれぞれ各パートの最後に位置するひとつのシーンである。そこでは物語を左右するイベントが発生する。乙一はこれを数学の曲線における変曲点のようなものだという。「物語という一本の線を折り曲げるポイント」、それが変曲点abcなのだと。さて、パートと変曲点を組み合わせると、以下のような全体像が浮かび上がってくる。
一章A「一つめのパート」a「一つめの変曲点」二章B「二つめのパート」b「二つめの変曲点」三章C「三つめのパート」c「三つめの変曲点」四章D「四つめのパート」
そうしてこの表を見ながら、ABCD及びabcに入れるべきイベントについて考えるのだという。このとき、それぞれの章の完成原稿が均等な長さになるよう心がける。つまり、一章が全体に対し四分の一の割合になるよう計算する。全体が400枚なら、一章は100枚だ。
乙一はさらに上記の表にイベントの内容を埋めていく。
一章A「登場人物、舞台、世界観の説明」a「問題の発生」二章B「発生した問題への対処」b「問題が広がりを見せ、深刻化する。それによって主人公が窮地に陥る」三章C「広がった問題に翻弄される登場人物。登場人物の葛藤、苦しみ」c「問題解決に向かって最後の決意をする主人公」四章D「問題解決への行動」
『ミステリーの書き方』には、『GOTH』の一話をサンプルにさらに詳細な説明がなされているのだが、それをここで書くのはやめておこう。一読して驚かされるのは、乙一がきわめて合理的にプロットを作っていることである。
乙一はむろんきわめて稀有な、しばしば天才と称されるほどの才能のもち主であるが、その独創的な物語は「理」に基づく計算によって生み出されていたのだ。数学の概念を用いて物語を考えているあたり、やはり理系のひとなのかな、と思う。
乙一によると、かれのプロット作成は、基本的に次のような「穴埋め」の作業なのだという。
1.発端と結果を設定する。2.発端から結果までを四分割し、境界であるabcをどのようなイベントにするか考える。3.abcの前後となるABCDに、どんなイベントが入れば自然な印象になるかを考える。
これはむろん、乙一のやり方であり、我々がそのようなやり方を採用すれば傑作が書けるようになるというものではないが、とりあえず参考にはなるのではないだろうか。素晴らしい!
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