開拓者となったのは、19世紀末フランスの印象派の画家たち。彼らが生み出した「点描」という技法が、モチーフを再現する道具に過ぎなかった「色彩」を解放し、モダンアートの1つの流れを作ったと言われます。
クレラー=ミュラー美術館 ©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
この秋、国立新美術館(東京・六本木)で開催される「印象派を超えて―点描の画家たち」は、この「点描」と「色彩」の関係をテーマにモダンアートの展開をたどるという、新しい切り口の展覧会です。「点描」とは、モチーフを細かい点や短いタッチの集合としてあらわす技法のこと。美術史では点描の重要性はよく語られますが、それを展覧会で、生の作品を通して実証しようという試みはこれまでありませんでした。会場は5章に分かれており、まずはモネやシスレーら印象派の名品からスタートします。
印象派は絵の具をパレットの上で混ぜずに、様々な色のこまかいタッチで画面を覆いました。絵の具は、混ぜるほど暗くなる性質があります。そこで、鑑賞者の網膜で色が混ざって見える「点描」の原理を利用して、陽光を感じさせる明るい画面を作ろうとしたのです。
クレラー=ミュラー美術館 ©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
2章で登場するのは、スーラ、シニャックら新印象派と呼ばれる画家たちです。スーラは印象派を乗り越えるべく、当時最先端の光学や色彩学をまなび、「点描」をより科学的な「分割主義」として体系化しました。モノの形を「点」という要素に分割し、光と色彩の相互作用を探求した新印象派は、20世紀美術に大きな影響を与えることになります。
クレラー=ミュラー美術館 ©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
3章の主人公はフィンセント・ファン・ゴッホ。オランダ人のゴッホは1886年にパリに移住、スーラやシニャックから影響を受け、シニャックとは一緒に制作もするほどでした。確かに、ゴッホの激しいタッチには「点描」の影響が! 赤と緑、青と黄色など、補色のコントラストが強調されています。
クレラー=ミュラー美術館 ©Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
4章では、ベルギー・オランダにおける「点描」の動きを紹介。そして最後となる5章では、なんと抽象絵画の祖・モンドリアンが取り上げられます。実はモンドリアン、1907年~1911年にかけてゴッホなど点描主義の画家と交流があり、自分でも実践していました。色を原色や無彩色に還元して、色の面をカタチとして扱うモンドリアンの絵画。それは、色を体系的に使ってハーモニーを生み出そうとした、新印象派の理想の到達点として位置付けられるのです。
この意欲的な展示コンセプトは、本展の作品の多くを提供しているクレラー=ミュラー美術館から提案されたものだそう。1938年、オランダ最大のデ・ホーヘ・フェリューウェ国立公園にオープンした同館は、現代アートに深い関心を寄せていたヘレーネ・クレラー=ミュラー夫人のコレクションを中核にした美術館で、世界最大級のゴッホ・コレクションで知られます。
恥ずかしながら、最初はモンドリアンと点描がすぐに結び付かなかった筆者ですが、記者発表では「点描をキーワードにすると、こんなにモダンアートが分かりやすくなるのか!」と目からウロコの連続でした。全92点の出品作品のうち、日本初公開の作品が約55点にのぼるという本展。モダンアートがもっと楽しくなる見逃せないイベント、今から待ち遠しいですね!
印象派を超えてー点描の画家たち ゴッホ、スーラからモンドリアンまで
[公式サイト]
開催期間:2013年10月4日(金)~12月23日(月・祝)
場所:国立新美術館
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00~18:00(金曜~20:00)※入場は閉館の30分前まで
Tel:03-5777-8600(ハローダイヤル)
(取材・文/田邉愛理)