現在1歳6ヵ月となる長女の子育てに奮闘中の産婦人科医で性科学者の宋美玄(そん・みひょん)さん。実際に子育てを経験して、「戸惑うことや大変なことも多かった」と言います。読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」主催のセミナーにて、宋さんが考える理想の子育てについて、貴重なお話を聞くことができました。
■「産後うつ」になるメカニズム
「自分の子どもだから、かわいいのが当たり前」という意識が、時に出産直後の母親を苦しめることがあります。初めて母親になるのに、最初から上手に育児ができる人なんていません。泣き止まない子どもを見ていると、憎らしくなったり、「自分は母親失格だ」と自信をなくしてしまったり――。
そんな「産後うつ」に悩む女性は多いと言います。これは、妊娠中にたくさん出ていた女性ホルモンが、出産後、一気に減少することによります。このホルモンは脳の働きを支えていますので、産後にうつ症状が出やすくなるのです。
「赤ちゃんはどれだけ小さくても、人間の表情を読み取ります。ストレスで悩んでばかりいては、赤ちゃんに悪影響。心の余裕を持てるよう、遠慮せずにまわりのサポートを得るようにしてください」(宋さん)
■「絶対、母乳育児」の呪縛
出産後、最初にぶつかる壁が「母乳」。母乳育児のメリットが多く語られますが、個人差がありどうしても出ない人もいます。
母乳は赤ちゃんが吸えば吸うほど出やすくなります。やめてしまうと、「必要ない」と判断され、出が悪くなることも。赤ちゃんが吸わない場合は「搾乳器」を使って定期的に出すようにするといいでしょう。
「ただし、頑張りすぎて睡眠不足になるのは良くないですね。母乳を出すことによって分泌される愛情のホルモン『オキシトシン』は、睡眠によっても分泌されるんですよ」と宋さん。さらに、「頑張ってみてダメだったら、ミルクで愛情たっぷりに育ててください。日本のように衛生状態が良く、粉ミルクが優れている国であれば、過度なこだわりは不要です」と話します。
■ワーキングマザーだって、いっぱい抱っこしている
宋さんは「子どもから見てカッコイイお母さんになりたい」と、出産後5ヵ月からならし保育に通わせ、徐々に仕事復帰しています。
「3年育休制度が議論され、3年抱っこし放題なんて言われていますが、まるで働いている女性が抱っこしていないみたいですよね。私、手がちぎれるくらい抱っこしてますよ」と宋さん。結果、子どもは母親大好きっ子に育っているそうです。
子育てをしている母親たちへのアドバイスとしては、「『先輩ママ』の呪いには気を付けて」と宋さん。一足先に母親になった先輩ママたちは、「歩けるようになったら大変よ~」、「小学校にあがったら大変よ~」と、「大変」な話ばかりをします。でも、実際は楽しいこと、幸せなこともたくさんあるはず。
他人の意見に惑わされず、「マイペース」に育児をすることが「世界一幸せな母親」になる秘訣なのです。
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(取材・文/尾越まり恵)