絵本作家のみやこしあきこさんって知っていますか? 作品が発表されたのはここ数年のこと。まだ出版された絵本もそんなに多くはありません。でも、1冊ごとに着実にファンを獲得している作家さんです。
絵本コーナーに足を運ばないと、なかなか目にする機会がないかもしれませんが、この「みやこしワールド」、オトナの女性にもささる作品が多いように思います。
ということで今回は、みやこし作品のおすすめ3冊をご紹介いたします!
『もりのおくのおちゃかいへ』(偕成社)
おつかいに行くキッコちゃんが森で迷って見つけた不思議な館。なかをのぞくと、動物たちがすてきなお茶会を開いていて、キッコちゃんもお呼ばれすることに。
動物たちのお茶会、聞くだけで楽しそう。でも、甘くてラブリーな世界ではなく、部屋に足を踏み入れたときに、いっせいに無表情な視線が注がれるページなど、かなり緊張感の走る描写も。
木炭と鉛筆を使って描かれたモノクロの世界にキッコちゃんの髪や帽子やスカートなど、ところどころにつけられた色がとても効果的。おとぎ話のようにわくわくする要素と、子どもだからこその緊張する感じが絶妙なバランス。ケーキのシーンなど、何度も眺めたくなる美味しそうな描写もあります。
『のはらのおへや』(ポプラ社)
引っ越してきたばかりのさっこちゃんは早くおとなりの女の子に会いたくてたまりません。ひとりで家のそばの野原をたんけんしていると、そこにはおままごとのセットが......。
素敵なかごに入った本格的なおままごとセットには、ティーポットやシュガーポット、カトラリーまで揃っていて。それだけで、きゅんとなってしまいますが、そこにタンポポを散らして飾る、さっこちゃんの女の子らしい遊びかたにまた、きゅん。茂みの中の秘密の場所に食器を並べて......、とおままごとワールドの描写が詳細、かつ、理想的。かつての気持ちがよみがえって、ツボを押されまくりですっ。
『ピアノはっぴょうかい』(ブロンズ新社)
初めてのピアノの発表会の日。ももちゃんは緊張で困ったような怒ったような顔。自分の番を待っているももちゃんは、足元で子ネズミに声をかけられる。子ネズミは自分も発表会前で緊張していると話し、ももちゃんはネズミの発表会をのぞいてみることに......。
大人たちの間で小さくむすっとしているももちゃんと、ネズミたちの前に大きくでんと座ったももちゃん。その対比や構図がとても面白いのです。
ももちゃんが着ているピンクのワンピースも、いかにも子どもの発表会のドレス然としていて可愛くて。オトナが読んでも懐かしい感じがします。
外国の絵本を感じさせる雰囲気や、色数の少なさから、おとなっぽい雰囲気の感じられる絵ですが、描かれているのは子どもだからこそ感じるワクワク感や緊張感。
「そうそう、こういう感じだった」と共感できるページがたくさんあります。絶妙なバランスで大人の中に眠るかつての心を呼び覚ましてくれる「みやこしワールド」に注目です。
(文/ミヤモトヒロミ)
ミヤモトヒロミ | ブログライター・エディター。女性誌、女性向けWebメディアで映画やアート、カルチャー関連の記事を執筆。カフェグローブでは2007年よりブログ連載「ムービーハンター」で大人の女性のココロにささる映画評を手がける。