五体満足ってなんだろう
1600年代から続く博多人形の歴史と伝統を引き継ぎつつ、「現代のすべてがインスピレーションの源」と捉える人形アーティストの中村さん。アトリエに入ると、まずご自身のスタンスについて「江戸時代からタイムスリップしてきた人形師」と説明しました。
そして、いま目の前にいるアスリートを過去の技法で作りたいと話します。そんな彼のアトリエには、ご自身で収集したと思われる様々なジャンルの人形たちが並べられ、各々に存在感を放っています。
「江戸時代とかの人形って丸々と太っていて、五体満足の象徴だと思うんですよ。で、それがパラアスリートの作品を作るときに、五体満足を象徴する人形でトライするっていうのが、ハナから矛盾してるじゃないですか」。
中村さんがそう話している間、画面には制作中の人形が段々とカタチになっていく様子が映しだされています。中村さんは、自身で考える矛盾とどう向き合い、挑戦するつもりなのでしょうか?見ている私たちの心は、次第にその話の先へと興味を惹きつけられていきます。
「だけど、実際に練習の風景とは、試合の風景を拝見して、僕らよりもぜんぜん動けるし、僕らよりも精神的にもパワフル。五体満足って一体何だったんだろう?って、なんかそういう定義を揺るがすようなものを感じたんですよね」。中村さんの話は、段々と表現の核心へと迫っていきます。
人生を選んだ人たち
その間も、画面に映る中村さんは黙々と手を動かし、丸々と太った人形に命が吹き込まれていきます。
「今回の作品を作るにあたって、一番僕が感じてほしいことは、『この人生を選んだ人たちなんだよ』っていうこと」と話す中村さん。その存在感にフォーカスするために、敢えてパラアスリートの人形には動きも表情もつけず、ただまっすぐ前を見ているカタチにしたそうです。
そして、仕上げに面相筆で顔を描き、パラ卓球の選手たちを題材にした人形が完成。今回のプロジェクトでは、中村さんを含む若手アーティストたちが作品を発表していますが、3名ともパラ卓球に対する着眼点がそれぞれ異なり、こんなにも多様な見方があるのかと驚かされます。アートを介して人々のパラスポーツに対する先入観を取り払い、各々の自由な解釈でその魅力を表現している事例でした。
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