■サクセスは考えてますよ
菊地 Mariaさんは今、制作欲求は高まっているけれども、いいビートに巡り会えないというお話でしたね。
Maria 全体的にビートメイカーは増えてて、私も新しい曲を聴いて探しているんですけど、なかなかインスパイアしてくれるビートに巡り会えなくて。それでスランプ気味になってるんですよお。
菊地 ビートメイカーとDJは今や女性も多いですよね。JAY-Zの新譜にもビートメーカーは女子高生みたいなのいるじゃないですか。ラッパーももっと出てくればいいのにねえ。どのぐらいいるんですかね。
Maria 最近はDJ Mustardばっか聴いてます。シンプルだけどセンスがよくて、なんだかんだ言ってクラブでいちばん踊りたくなるのがDJ Mustardなんですよ。さっきのKOHHの話にも通じますね。リリックの内容はチャラくてテキトーで、全然深くないんだけど。
菊地 深けりゃいいってもんじゃないですからね。ドブじゃないんだから。
Maria そう、チャラいノリでかっこよく仕上げるのって、案外難しいんですよね。
菊地 そこがオーバーグラウンダーの腕が鳴るところだと思いますよ。まあ、いま(6月)ツタヤに行くと、あすこって「今週のツタヤミュージックなんとか~」とか言って、リコメンを30分ぐらいのサウンドティーザーにしてレギュレイトするじゃないですか。少女漫画を借りにきた女の子の耳にも15分に1回のペースでANARCHYのラップが入り込む月ですよ。ANARCHY、PUNPEE、SIMI LAB、SALUといった面々がこれからオーヴァーグラウンダーになるかならないか、気になるところじゃないですか、そんな中でもKOHHは全員にマークされてるんじゃないですかね。
Maria そうですよね。私は昔、KOHHの「HELLO KITTY」を聴いて、そのビートにどんどんハマりました。KOHHはSIMI LABの「Uncommon」を聴いて、私を気にかけてくれてたみたいでえ。私がナメくさった笑い声で入ってくる曲あるじゃないですかあ。この前、「aaight feat.KOHH & MARIA(from SIMI LAB)」のPVを撮影してたら、「ずっとMariaさんとやりたかったんですよ」って声かけてくれて、嬉しかった。
菊地 いやあ、この年齢でKOHHと同じ発言しますが(笑)、ワタクシもずっとMariaさんとやりたかったんですよ。まさに同じく「Uncommon」を聴いてから気になってました。
Maria えー、すごい嬉しいです!
菊地 そんでDCPRGで「Uncommon Unremix」(アルバム『SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA』収録、DCPRGがSIMI LABの「Uncommon」を演奏し、SIMI LABがその上でラップしている)やったんじゃないですか(笑)。ところでFlakoってご存知ですか。Fatimaというボーカルのビートメイカーです。FlakoのビートにMariaさんのリリックが乗ったらやばいだろうな、なんて想像していたんですよ。っていうか、ワタクシでよければビートをつくりますよ。
Maria 本当っすか!? マジお願いします! 私が今いちばん着眼点を置いているのはあ、誰でも楽しめるものなんですよお。オタクっていうか、コアなのが好きな人はどんどん突き詰めていけばいいけど、でもやっぱり私は、もともと六本木で遊んできたし、踊りたい! 騒ぎたい! 飲みたい! みたいなシンプルな欲求を大事にしたい。そこを突き詰められたらいいなって思ってるんです。
菊地 その意味では、SIMI LABはみんな同じことを言いますね。けっしてアンダーグラウンドでは終わらない、と。OMSBも、世の中は金じゃないのだ、マインドオーヴァーマターだと言いつつも、自分のスタジオをもって50セントみたいにサクセスをきちんと見せるという展望があったりする。若いから夢を多角的にもっているのかもしれないけど。ハワイにクラブをつくるって言ってましたから。
Maria 私もクラブをつくりたいですよお。私がいちばんやりがいを感じるのは、お客さんが喜んでいる顔なんですよ。普段の生活のこととか忘れてパァーッと騒いでくれている顔を見ると、やっててよかったって思えるんでえ。
菊地 それがないと続けられないですよね。Mariaさんならクラブ経営もうまくいきますよ。
Maria ダンス規制法がどうなるかと思ってたけど、どうもダンスOKになりそうだし。そもそも思うのが、日本はストレス社会だって言われているじゃないですか。ストレス発散にいちばんいいのは歌って踊ることだって、脳科学者が言っているんですよ。それなのに、どうしてダンスを規制するのかなって。
菊地 脳科学者が認めるくらい、歌とダンスの効能が強いからでしょうね(笑)。国民が好き放題に遊んじゃうから。
Maria あ、なるほど(笑)。でも踊れなかったら死んじゃうよ。
菊地 たとえばの話ですけど。明日、エイベックスと契約しないかという話が来たらどうしますか。実際に来ても全然おかしくないと思うんですが。
Maria 全然考えたことがないですね。正直、SIMI LABのメンバーは今、働きながらSIMI LABの活動をしています。そういう意味では、契約すれば生活を変えられるでしょうね。それに大メジャーレーベルはいろんなコネクションがあるから、幅広い音楽に触れるきっかけになるかなって思う部分もある。言葉の制限さえされなければ楽しいかな。
菊地 Fワードはだめ。とかはあるだろうけど、今はもう禁止ワードがあるとは思えないですよ。Mariaさんだってメジャーレーベルに検閲を受けるようなことが言いたいわけじゃないでしょう。○○○に○○!とか、○○○は○○○!とか(笑)。キワキワな質問ですけど、Mariaさんだけ呼ばれたらどうですか。音楽業界によくある話ですが。
Maria どうするでしょうね。ええ~。わからないです。
菊地 SIMI LABとしてみんなでフックアップされるとしたらハッピーストーリーだと思うんです。ただ業界の人間に話を聞くと、SIMI LABはアンダーグラウンドであることに活動の意義を見出していると、自動的に思われちゃってる。彼らは誠実にサクセスを考えている人たちだと思いますよ、とワタクシは答えているんですけどね。
Maria サクセスは考えてますよ。
菊地 ですよね。SIMI LABは全員スター性ありますよ。JUMAなんてジャスティン・ビーバーくらいかわいいですよ。
Maria 最近、JUMAとクラブとかに毎週がんがん行ってんですよお。私とJUMAは考え方が近くて、ノリとか勢いとかを大事にしてる。だからきつくても楽しむことを優先したいし、若い子が乗れるムーブメントをつくりたい。そういつも話しているんです。
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