菊地成孔の一週間/ペペトルメントアスカラール4年ぶりのレコーディングそしてビールに挑戦。結果は、、、、(80年代TVドラマ史上屈指の名タイトル「心はロンリー。ハートは、、、」に因んで)の4月中盤折り返し地点(をいをい折り返さないってwww←こんな感じで良いんでしょうかネットって)から下旬へ。
4月15日(月曜)
ペペトルメントアスカラールのプリプロダクション。というか、シュミュレーションしながら楽曲の細部を整えてゆく。夕方からほぼ一日中。
音楽家以外の会員の方(が、ほとんどだと思うけれども)の為に説明するならば、シュミュレーションというのは(大体お解り頂けていると思うが)PCの中にバンドの音色を全部そろえ、作曲した物を鳴らし、細部の修正を施して最終形にする事で(最後は楽譜に出力する)、、、、と書くと、如何にもPC時代の産物のように思われるだろうが、実際は戦前、というより、商業音楽界が出来てから存在する。推測になるが、恐らくイタリアオペラの全盛期に大活躍し始めたと思われる。
自分が作曲した物の響きを、作曲途中で実際に鳴らし、修正を施してゆくという行為で、つまりこの日、自分がやった事のリアル版である。「うっわ、すげえ大変そうっすね」と思われるだろうが果たしてその通りで、これをしないと完成させられない作曲家は低能であり、そして金持ちでなければならなかった(よく映画等に出てくる、シュミュレーション無しで、ピアノに座ったままひと筆ずつ書いて、そのまま完成させる事が出来る作曲家は有能を意味していた)。
かの天才ジョージ・ガーシュインは、メロとコード進行だけの流行歌屋からオーケストラ作品を書く作曲家にステップアップを試みた時、自費(流行歌で稼いだ金)でシュミュレーションを繰り返し過ぎ(伝説では4小節に1度オーケストラを雇って鳴らさせたとされる)、金は尽きるわ楽想は尽きるわでヘトヘトになり、「助けてください。ワタシはもう400曲書いたが、自己模倣しかやっていません」と教育家ナディア・ブーランジェの門戸を叩いた(拙著「憂鬱と官能を教えた学校」参照)。
ついでに、これはシュミュレーションではなく、オーケストレーターという名称になるが、「作曲家はメロディーだけ書いて、それに附帯する和音等々は別の人物が書く」という事もある。詳しくないので想像が妄想に接近するが、漫画家とアシスタントの関係に近いのではないかと思われる、その作業の事だ。こちらは(漫画家のアシスタントに比べれば)非公表の存在に近く、「ああ!!やっぱそういう人っているのお!」と納得された方も多いと思う。「え?それってアレンジャー(編曲家)の事でしょ?」という方もいるであろう。アレンジャーではない。アレンジャーは基本的に、作曲者によってメロディーとコードまで出来上がった状態で雇用される。
メロディーラインさえかければオーケストラ作品にしてくれる人がいるのである(漫画が「キャラクターさえ書ければ連載漫画にしてくれる」のかどうかは解らないが)。勢い業界内では「○○の有名な○○はオーケストレーターを使っている」「○○はかなり有名になってからも○○のオーケストレーターをさせられていた」といった噂話が絶えない。
自分の考えでは、これは公表してしまえば良いと思う(更に言うと、自己作品のリサイクリング、他者作品のリサイクリングや共有も含め)。メロディーライナーとオーケストレーターという職種の分離を明確にすれば、いろいろ面白い筈だ。「自分の次の作品はオーケストレーターを雇用しようと思います。○○さんのオーケストレーションで有名な」といった感じで。
勿論自分は「何だってガラス張りにしないといけない」という、喫煙ブースのフェチでもあるまいしの馬鹿げたアレを言っているのではない。どうせ世の中一生ガラス張りなどにはならないのだからして(グーグルアイがCGである事をまだ日本人の多くは知らない。まあ念のため。ウッソ)、公表した方が面白い事になる部分は公表した方が良い。「スタジオミュージシャン」という仕事が公表された業務になってから3~40年だろうが、「あれさえ隠しておけば、、、、」と苦々しく思っている者は業界内にもファンにも絶無だろう。「モータウンの歴史の中で、最初に演奏者達のクレジットが書かれたのはマーヴィン・ゲイのワッツゴーインノン」というトリビアをご存知の方も多い筈だ。
アメリカでは公表されているが日本では、、、という事も多い。ソウル系のシンガーがアウトロ(無法者の事ではない。イントロの反対語で、歌が終わってからの後奏のこと)で歌い上げる、あの部分だけを指導する、という仕事がある。「何かさあ、有名なソウルシンガーって、みんなおんなじ歌い上げするよね」というアナタの想いは正鵠を射ているのであります。
なんつって途方も無く脱線が続いたが、何が言いたいのかというと、オレがメロディーだけ書くから、○○○○さんのオーケストレーターの人に、○○○○さんのような響きをくっつけて欲しい。という事である。「オファーすれば良いでしょ」と言うかも知れないが、現状だと「○○○さんの影響を受けている」と言われるだけなので、甚だ詰まらないのである。「アン・ハサウェイは私服もスタイリストが入っている」とゴシップガールに書いてあって、まあまあ面白い訳だが、悪い面白さだ。また、全く需要が無いのでそもそも仕事として成立しないが「どんなメロディーにもポリリズミックなアレンジを施す」という仕事なら日々の「ちぎりパン」代ぐらい稼ぐ自身はある。
歌舞伎町旧コマ裏は「青葉」のすぐ近く「魚心」に行き(以前も書いたが、この日記を読んで店巡りをする方がいるのは嬉しいので大いにやって頂きたいのだが、ここにはなるべく行かないように。親子だったりしたら、なるべくではなく、絶対に。店内写真から漲る緊張感を読んで頂けると幸甚の至りである)、若筍煮、鱚の天婦羅、空豆、茶碗蒸し、銀鱈西京焼きで、えーと確か、「プレミアムモルツの中(違うかもしれない)」を注文した。
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