虎山 のコメント

>>17
素晴らしい作品のリーチの長さは凄まじく、その作品が世に出た同時代の様々な地域への水平の広がり、同時代を含む未来と過去への垂直の広がりによって繋がる他の作品や出来事には多くの宝があると思っている身としては(単に楽しいというか、関連作品や元ネタ、発展を知ると興奮するという程度のものなのですが)、筒井さんの熱心な読者間では研究があまり行われていないこと、評論家同士の議論が今に残っていないことは残念です……(もちろんそれを想像する楽しみがあること、または自分こそがいま改めてそれをすれば良いのだ、ということも知ってはいるのですがやはり、当時だからこそ、というものはあるでしょうから。ですが過去ログというものがもたらした、なんでもかんでも残っているということは現代の考えなのだ、ということを改めて認識しました)。

廣瀬さんの〈間に合わなかった論〉ではありませんが、ある時代の日本の文芸界/知識人界にはそう感じるものが多々あり、例えば、蓮實重彦さんと柄谷さんと吉本さんがなんかやりあったらしい、ということを藪の中のごとく知ったりと、時代の分断と書くには大袈裟ですが、そういったことを把握するのが難しくなっています。

実は蓮實さんのことを知ったのも菊地さんがお書きになった文章からでして、そして「表層批評宣言」や「反=日本語論」を読みのちに、そこで描かれていた聡明なご子息が、菊地さんの文章でどういうかたであったのかの一端を知り……ということがあったり、これは私事ですが、以前私はある映画にショッカー役というか覆面テロリスト役で出たことがありまして(学生映画やインディー映画ではなく映像プロダクションが作ったもので、私は俳優を目指しているとかではなくて、映画好きとして現場を見てみたくなって参加したのですが・笑)その監督が梅本さんのお弟子さんで、打ち上げで蓮實さんの著書の話題で盛り上がったことがあり、これは幸福な記憶になりました。

そういったこともあるので古典(と書いてしまいますが)やそれにまつわる出来事を知ることは私には楽しみになっているので、やはり過去ログを読むことができないのは残念です。ですがいままさに私は音楽はもちろん文芸的なものでも、菊地さんに〈居合わせている〉わけで、これこそが時代のめぐり合わせの幸運として受け取って楽しんでおります。「ロートレック荘殺人事件」「ヨッパ谷への下降」は未読なのでこれから拝読します。楽しみが増えました(「遠い座敷」や「偏在」は愛すべき小作、どころのものではなかったのですね。そういった作品を読めたのも幸運です)。

集合無意識に関しては少し前に人と、オルフェからイザナギまで暗闇の中で後ろを振りかえるのは生物の生存本能であり、人は生きている限りは後ろを振り返るのだろう、と話したことがありました。なので「遠い座敷」に関しては日本の地形が起因する集合無意識をすくい取っているというご指摘にも膝を打ちました。というのもまさに私の「遠い座敷」の帰り道が坂道だったからです。私はフロイトの著作を読んだり、ラカンに関する文章を読むものの、ユングは軽視してしまっておりまして、しかしこの作品に関する集合無意識、移動の量や住まいの固定とは無関係であろうということには、心がほぐれました。

たいへん面白く刺激的なお話をしてくださり、ありがとうございました。

No.18 65ヶ月前

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