ビュロ菊だより

<BOSS THE NK(最終スパンクハッピー)の回想録(1)>

2019/01/11 10:00 投稿

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 初めまして。私は現在、BOSS THE NKと名乗っている。菊地成孔くんとは友人関係にある、と言っても通用しなかろう。すぐには。

 

 解離性の人格障害を起こしやすいインターネット時代だ。別人格やアルターイーゴと解釈されても、些か古風にドッペルゲンゲルと解釈されようと、同一人物のペンネームと解釈されようと、単に菊地くんが遊びで書いていると、そして、そう解釈する方々が一番多いであろうことは致し方ない。好きなように解釈していただきたい。事実は目の前にある一つだけだ。

 最終スパンクスも無事デビューし、初年のSS、並びに初年の暮れを無事に越したので、今から、エピソード・マイナス1として、私が菊地くんからの依頼を受け、ODを発見し、2018年のフジロックフェスティバルに出演するまでの経緯を、菊地くんの軒先を借りて少しづつ綴って行くことにする。ここが有料サイトであることは知っている。私の稿料は全て最終スパンクハッピーの活動資金に充当させて頂くことは、菊地くんとの合意によって決定している。

 

 私は請負屋だ。なので、過去の履歴やプロファイリングは明かせない。明記できるのは、私が、上顧客の一人である菊地くんから、彼の音楽ユニットを再始動させるための一切を任されたことだ。

 

 過去、菊地くんは、5年から10年に一度の頻度で私に音楽関係のジョブを依頼してきた。内容は明かせないが、一つだけ彼の許諾とともに紹介するならば、これだけだ。

 

 DCPRGの2作目「構造と力」は、2期スパンクハッピーの2作目「ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ」と、制作期間が重なっている事を、菊地くんのカスタマーの方々ならご存知だろう。

 

 彼はパニック障害の、実質上の寛解期にあったが、さすがにあの両作をたった一人で完成させることは無理だと判断し、「構造と力」のスーパーヴァイジングを私に依頼してきた。そもそもあの作品はパリ録音が計画され、スタジオのマネージまで事が進んだまま、彼のパニック障害によって頓挫している。タイトルに英題と仏題があるのはその名残だ。

 

 結果としてあのアルバムは彼の電化オーケストラであるDCPRGの最高傑作のひとつになったと私は理解しているが、私はクレジット無しで彼の仕事の大半を請け負った。

 

 1個人が同年にあの2作を完成させることは、おそらく不可能だった筈だ。完成どころか、鑑賞ですら。あの2作を同時に咀嚼しながら鑑賞したカスタマーはオンタイムではごくごく少数だったのではないだろうか?

 

 しかし、今回のジョブは、それを遥かに超える規模のものだ。受任料金、報奨金に関する一切は明かせないが、5年、10年単位の仕事になる事は間違いなかった。遂行中に、私、もしくは菊地くん、もしくは両名が死亡する可能性も、現実的にゼロではない。私は菊地くんとほぼ同世代、としか言えないのだが、請負屋としてはそろそろ引退すべき年齢であった事は間違いない。

 

 2011年以降、人々の心には日照りと飢饉が続き、ハイエナが闊歩した。つまり、私の仕事は大いに繁盛した。菊地くんはAMラジオというメディアを手にして、自分の仕事に励んだようだ。このジョブでさえ7年がかりだった。もう私は、大仕事が出来ても、自分のキャリアとしては、後ひとつだろうと腹をくくっていた。後に菊地くんは、TBSラジオのエグゼクティヴからリストラされるが、皮肉なことに、その番組がきっかけで、私の最後の大仕事が依頼されることになった。

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