第11回 「テレビ東京」を研究しよう

■伸びたのは「時事ネタ」を扱わないメルマガ

この数ヶ月、メルマガ著者にとって、まさに「ネタの尽きない」どころか、「何を書いたら良いのかわからない」ようなお祭り期間になっています。佐村河内氏の事件が話題になったのは、2014年2月。なんとまだ3ヵ月しか経っていませんが、もう遠い昔のようです。

しかし、世間が注目をするような大型事件が頻発したからといって、メルマガの購読者数が伸びるというものではないようです。夜間飛行の数字を見る限り、消費税増税の影響もあってか、2014年4月は、直近1年間でもっとも購読者数の伸び率が鈍った1ヵ月間でした。購読者数5000人以上のメルマガを中心に、「ちょっと購読を休む」という決定をくだした読者が多かったように思います。

ただ、そうした市況の中でも、着実に購読者数を伸ばしていたメルマガがあります。高城剛メルマガ、若林理砂メルマガ、切通理作メルマガなど、基本的には「時事ネタ」と関係ない内容を扱っていたメルマガでした。

■「内容」ではなく、「スタイル」

大事件が起きると、NHKや民放各局は特別番組を組みます。すると、普段通りにのんびりとした「ロケ番組」などを放送しているテレビ東京に対して、「さすがテレ東!」「ブレてない」などと、好意的な評価が集まる。これは、すでにある種の風物詩のようになっています。

今回の記事のタイトルを読んで、「まあ、流行りモノをやってもダメってことでしょ。うん、知ってる」と思った方、ちょっとお待ちください。では、テレビ東京は、「流行りモノを外す」という戦略で、視聴率を取っているのでしょうか。あるいは、メルマガ・ブロマガの著者は、「流行りモノ」を外せば、読者を獲得できるのでしょうか。

答えは、ノーだと思います。

コンテンツ販売で大切なのは、とにかく「読者の要求を超えるクオリティのコンテンツ」を作りあげることです。つまり、「流行りモノではない」というのは、何の武器にもなりません。マスメディアや有名人のツイッター・ブログなどで取り上げられている「流行りモノ」に飽きた人がいて、もし、あなたのメルマガ・ブロマガに流れ辿り着いたとしても、あなたの提供するコンテンツがその人の要求を満足させることができなければ、確実に購読してもらえません。

実際のところ、ネット上で「テレ東」を持ち上げている人が、本当にテレ東の番組を見ているかどうかは非常に怪しいと思います。ほとんどの人は、とりあえずの「ノリ」で、「テレ東いいね!」と言っているだけでしょう。ただ、もし、みんながみんな「ノリ」で褒めているだけで、まったく「見て」いなければ、テレ東も何らかの手を打っているはずです。それをしないということは、ある程度の視聴率は取れているということだと思います。メルマガやブロマガで購読者を獲得するのと比べれば、ずっとハードルは低いですが、とにもかくにもテレビを消されずに、チャンネルを合わせさせている。では、視聴者はテレ東の番組のどこに満足をしているのでしょうか。テレ東は、何を武器にして視聴者を満足させているのでしょうか。

私は、テレ東が視聴者を満足させるのにあたって、もっとも活用している最大の武器は、コンテンツの「中身」ではなくて、コンテンツを入れる「入れ物」あるいは「差し出し方」だと思っています。

例えば、タレントさんが二人で温泉地へ行き、ちょっとした買い物をしたり、温泉に入ったり、料理を食べたりするロケ番組があったとします。もちろん、タレントさんの人気度や、ロケ地の人気度によって、放送回ごとに視聴率は変わるでしょう。しかし、テレ東としてとにかく重要なのは、どういうカメラワークだと視聴者が安心してみることができるのか、どういうタイミングでタレントさんのコメントをはさむべきなのか、といった「ロケ番組」としての「枠組み」を毎放送ごとに強化していくことです。この「枠組み」が強力なものであればあるほど、「流行りモノ」に流されなくなります。


■一点突破から

「いや、だからさ、そんなのすべてのテレビ局が分かっているし、実践もしてる。主要局はそれを踏まえた上で、流行りモノも追いかけてるんだよ。べつにロケ番組だけじゃなくて、特別番組の『枠組み』だってあるんだよ」というツッコミが入りそうですが、それはそれでおっしゃる通りです。「枠組み強化」が重要などといった話は、継続的なコンテンツ制作の現場においては、別に真新しい分析ではありません。しかし、私がここでお伝えしたいのは、この「枠組み強化」には大変な労力(コスト)がかかるので、よほどの大編集部でも抱えていないのであれば、一点突破を目指したほうがよいということです。

テレ東と他の主要局とで、どこが違うのかと言えば、一点突破型か全方位型かの違いに尽きます。言ってしまえば、流行りモノがあったとしても、テレ東の規模では「そこに付き合っても戦えない」わけです。全方位的に「枠組み強化」をしていると、規模的に小さなテレ東はどうしても他のテレビ局に負けてしまう。ただ、テレ東はそうした自己分析が正確にできているおかげで、ヘタに不得意な「枠組み」に参入することで無駄なコストもかけることもしないし(もちろん日々少しずつ「冒険」してみることは大事です)、着実の自分のフィールドで視聴者をつかむことができているのです。

これは、少なくとも5000人以下の購読者数で、5名以下の製作者数でまわしている規模のメルマガやブロマガ著者にとっても、死活的に重要な感覚だと思います。

たとえ、検索でひっかけることを目的に、サブタイトルや冒頭の挨拶文に「流行りモノ」に言及したとしても、結局は、「自分のもっとも得意なフィールド」でコンテンツを提供する。そして、もし、「流行りモノ」が自分のフィールドに合致しないのであれば、勇気を持って「スルー」する(もちろん、「流行りモノ」と自分のフィールドが合致した場合は、それは勝負どころですので、思う存分、力を発揮してください。小保方問題について、恋愛工学を駆使して解説した藤沢数希ブロマガは圧巻でした)。そして、毎号毎号、コンテンツ全体の大きな流れから微細な点に至るまで、試行錯誤をして「自分のスタイル」のブラッシュアップに努める。

これが継続的な購読者増の肝であることを、あらためて確認した1ヶ月でした。

ご参考になれば幸いです。