■「著者」になろう!
本当に実践的な有料ブロマガで購読者数を伸ばす方法(夜間飛行 井之上達矢)
第9回 「有名人」のメルマガが成功しない理由 その1
■「著者」になろう!
■「著者」になろう!
出版業界での再頻出用語に「著者」があります。
辞書的な意味としては「原稿を書く人」であり、法律的な意味としては「著作権を持つ人」ということになります。
はい、知ってます、という話ですよね。しかし、この「著者」という言葉、実際の出版の現場では少し複雑な意味を帯びています。
まず、出版社において「著者」は、とても重要な存在として扱われます。当たり前です。出版事業が成立させるためには、「著者」が必要です。どんな強力な営業部隊、宣伝部隊を持っていようとも、コンテンツが存在しなければ売れません。そのコンテンツを作るにあたって必要な存在が「著者」なのですから、重要な地位を占めるのは当然です。
(たとえライターや編集者が文章を「書いた」としても、そのコンテンツの顔としての「著者」は必要な存在なのです)
具体的には、編集者は「著者と一緒にいる」「これは著者のために必要なことです」と会社に報告できる場合、かなり自由に行動することができます。その「著者」が売上30万部を超える実績を持っていようものなら、もう完全にフリーダムです(詳しい話はまた別の機会に)。出版不況のご時世ですので、お金を湯水のように使うことはできませんが、大事な「著者」に対して編集者が時間を湯水のように使うことについて、会社が文句を言うことはありません。
この「著者」は必ずしも「有名人」というわけではありません。もちろん「有名人」が「著者」になることはありますが、イコールではなりません。というより「手垢がついている」などの理由で、ヘタに有名であるほうが「著者」になりにくい場合もあります。つまり、出版社にとって「著者」というのは、あくまで「この人の名前で出版すると本が売れる人」です。そういう「著者」に対しては、出版社は全力でサポートします。
前置きが長くなりました。
さて、ここでメルマガ界を振り返ってみましょう。メルマガ事業というのは、いわゆる「出版社」のサポートを抜きに、コンテンツを配信したい人が自らコンテンツ作成と宣伝行為を行って、事業を成立させる場合がほとんどです。そうした事業を進めるにあたって、もっとも欠落しやすいのが、「自らを『著者』という存在に押し上げるように自己プロデュースすること」だと、私は考えています。つまり、その人が有名であろうが無名であろうが、ただの「配信する人」では、読者はお金を出してその人のコンテンツを読んでくれないのです。
有名人によるメルマガが軒並み失敗するのは、そのコンテンツが「有名人な配信者が配信したもの」として配信されてしまうからです。本来であれば、「「著者」が心血を注いで作ったお金を出しても購読しなければならないもの」として配信されなければならないのです。
「有名である」ということは、読者に「このコンテンツはお金を払っても読まなければならない」と思わせるには弱すぎる要素です。メルマガ界では最近、編集者の働きに注目が集まっていますが、それは忙しい配信者のお手伝いをしているだけではありません。そもそもどのようなコンセプトのメルマガにすべきかも考えますし(あなたはどのような文脈を背負った「著者」になるべきかを考えてくれる)、その後、読者の様子を見ながら、対策を練り続けるという仕事をしているのです。
もし編集者を付けずにメルマガを配信するという場合は、最優先の作業として、「自分はどのような文脈を背負った「著者」になるべきか」を考えなくてはならないのです。
(もちろん「ウソ」はいけません)
その人がいくら知識やアイデアを持っていても、それだけでは「著者」にはなりません。それは有名人であっても無名であっても同じです。その人が、「どのような文脈」で自分の持っている知識やアイデアを世間に伝えていくのかを考える。その中で「著者」になっていき、その文脈作りが世間の需要とピタッとあったときに「ヒット」が生まれるのです。
■書籍もメルマガもすべきことは同じ
では、どうすれば、ただの「配信する人」から「著者」になれるのか。できれば「売れる著者」になるにはどうしたらいいのか。
これは一言で言い表せるものではありません。「配信する人」がどのような人なのかによって、適した文脈は変わってきますし、同じ人であってもその人がどのような状況に置かれているのかによって、「すべきこと」は刻一刻と変わっていきます。
例えば、書籍の世界で数々のベストセラーを出している「著者」に齋藤孝さんがいます。しかし、齋藤さんは最初から「著者」だったわけではありません。最初は、ただの「大学の先生」でした。その「大学の先生」が、一般読者に向けて「身体感覚を取り戻そう」と教育方法の紹介を行うなかで「著者」になりました。さらに、その文脈のなかで「日本語で書かれた名文を音読しよう」と誘いかけるプロジェクトが大ヒットしました。その後、いわゆる「国語教育」の分野にとどまらず、「人生論」についての本を出す「著者」として長く活動します。そして、2010年には、国語教育本の「著者」である側面と、自己啓発本の「著者」である側面をハイブリッドさせた仕事『雑談力が上がる話し方』で、またもや大ヒットを飛ばしました。
メルマガの場合も同じ作業が必要です。
繰り返しますが、ただの「配信者」では読者を獲得することはできません。それは、「有名な芸能人」であっても同じです。その人の本業は、舞台やテレビだから、ファンはそちらを見て満足してしまいます。ここで工夫が必要です。「芸能人である」ということを活かして、何をどのように語れば、「著者」になるのか考えなくてはいけません。人によっては、「メイクのやり方」を読者に伝える「著者」になれるかもしれませんし、「芸人によるコミュニケーション術」を伝える「著者」かもしれませんし、「人生論」を伝える「著者」かもしれません。道はいくつかありますが、どこかの道を進まない限り、読者を獲得することはできないのです。
■ベートーヴェンを名乗る必要はない
ここまで読んで、絶望的な気分になった人もいるかもしれません。そもそも自分は、話の前提となっている、「芸能人」なんかじゃないし、みんなを驚かすことができるような「専門的知見」ももっていない。メルマガなんて無理だ……と。
もう少し気軽に考えてみてください。
誰もが成功するとは言いません。成功しやすい人と成功しにくい人がいるのも事実です。しかし、私が夜間飛行でメルマガサービスを3年間やってみた感触としては、全員に「可能性」が残されています。何度も言われてきたことですが、やはりメルマガ事業を成立させるために必要な読者が、書籍その他、ほかのコンテンツ事業に比べて圧倒的に少ないというのは大きい。もし、CDを数万枚単位で売らなければならない、全国のコンサートホールを次々に埋めていかなければならない……とすれば、それこそ佐村河内氏並みのアクロバティックな文脈作りが必要になるでしょう。ただ、メルマガの場合は、数百人の購読者を獲得すれば事業として成立します(雑誌などに寄稿する場合と同じくらいの収入を得られる)。
この場合、別に「ベートーヴェン」を名乗る必要もありませんし、凄腕のゴーストライターを雇う必要もありません。ただ、数百人にとって「著者」になれればいい。これは、「簡単」とは言いませんが、「無理ゲー」というのは言い過ぎといった感触を持っています。
あれあれ、この連載は「本当に実践的」を銘打ってなかったっけ? とにかくどうしたらいいのか教えてくれという声が聞こえてきそうです。
さきほど、「著者」になるための道は一言では言い表せない、と書きました。それは真実だと思います。しかし、ぶっちゃけた話、「方針」はあります。世の中の人が「著者」になるためにもっとも使いやすい「方針」。はたして、それは何か。
このことについては次回、紹介させていただきます。
いかがでしたでしょうか。
ただ「知識がある人」「有名な人」と、「著者」は違います。自分なりに「何を」「どのような角度から」読者にコンテンツを送り届けるという文脈を作って、「著者」にならない限り、コンテンツを売るのは非常に難しいと考えたほうがよいと思います。
ご参考になれば幸いです。
次号は、「有名人」のメルマガが成功しない理由その2 ということで、具体的に「著者」になるための「方針」をご紹介します。お楽しみに!
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